第9話 厳ついおじさんが急に優しい表情するとグッとくる

 『ラプレーサス』を出ると目の前に大きな噴水が見えた。周りには木々が並びたくさんの人が行き来している。


「ここはセントラル広場だ。あの噴水がちょうど王都の中心に位置している。噴水の北側にあるのが王宮だ」


 言われて北の方を見ると、立派な建物が見えた。それは、テレビで観た外国のなんとか女王が住んでいた宮殿のように大きくて荘厳な建物だった。

 海斗は思わず息を飲んだ。


「王宮には、アルフロード・ヴァンディアス国王とメアリア妃、ご子息のリューク殿下がいらっしゃる。その裏側に王宮で働く者の居住区や宿舎がある。とりあえず騎士団の宿舎に案内するから付いてきてくれ」


「はい。あの、俺何も持っていなくて、お金もないので家賃とか着替えとかどうしたら・・」


 前を歩くゼノンに申し訳なさそうに海斗が聞くと

「その点に関しては大丈夫です」


 と渡瀬が答えた。


「お金は向こうで志麻さんが貯めていた分をそのまま換金してあります。暫くは困らないくらいありましたので問題ありません。必要な物は明日にでも買い出しに行きましょう」


「なら明日、うちの連中を1人付けよう。王都の案内も兼ねて行ってこい」


 海斗の頭をガシガシと乱暴に撫でて、ゼノンは先を歩き出した。


「いつの間に換金なんて・・・、まぁでも助かったから。そういえば渡瀬さんも騎士団宿舎に泊まるの?」


「いえ、私は先ほどの『ラプレーサス』の3階の宿に泊まります。常に一緒ではないですが、毎日顔は出しますので何かあればおっしゃってください」


「他に行くところがあるとか?」


「まぁそんなところです」


 何も詳しいことは話さない渡瀬に少し納得がいかない海斗は、スピードを上げてゼノンの斜め後ろに着いた。


「おっ、どうした。喧嘩でもしたか?」


 不機嫌そうな顔の海斗を揶揄うようにゼノンは笑った。


「そんなんじゃありません」


「ははっ、そう怒るな。っと、ここが王宮の西門だ。騎士団宿舎は西門のすぐ側にある。反対の東門側は宰相さいしょうや大臣の居住区になっていて、どちらも騎士団の隊士が門番をしている」


 ゼノンが門の前に立つと、門番の隊士が姿勢を正し挨拶をした。


「団長お疲れ様です!」


「おう!ご苦労さん。新人と客人だ。終礼で話すからよろしくな」


「はい!」


 ゼノンが門をくぐるのに続いて、海斗も後を追った。

 門を抜けて間もなく、左手に大きな建物が見えた。


「あれが騎士団宿舎だ。隊士全員に部屋が与えられている。部隊長と俺はその奥の別の宿舎にいる」


「隊士全員にってすごいですね。だいたい2人か3人部屋のイメージでした」


「あぁ、うちが珍しいんだ。チームワークはもちろん大事だが、体を休めるのも大切なことだと陛下がな」


「とても優しい方なんですね、国王様は」


「国民のことはもちろん、王宮で働く俺たちのことも考えてくださる。とても偉大な方だ。だからこの国は大きな争いがほとんどない」


 王宮を見つめながらゼノンは、その顔に似合わず優しい表情で誇らしげに語った。


「いつか、俺もお会いしたいです」

 ゼノンをあんな顔にさせる国王様に海斗も会ってみたいと、まだ遠いだろう王宮を見つめ思っていた。

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