第7話 数分で師匠が決まりました

「ここは『モロノーフ』の王都『ロンド』です。今いるのは、『ラプレーサス』と言って役所のようなところです」


 そこはたくさんの人で賑わっていた。

 髪の色や瞳の色も様々で、服装も和装やドレス、チュニックやトーガなど多種多様だ。


「っうわぁぁ・・すごい!見た目も服装も違う人ばかりだ」


「『ロンド』には、他の町から仕事や移住などで多くの人が集まります。基本的な手続きは『ラプレーサスここ』でできるので、何かあれば聞いてみてください。まずは移住手続きをしましょう」


 奥に見える受付らしきところへ歩き出した渡瀬を、海斗はキョロキョロと危なかしい足取りで付いていった。


ードンっー


「わっ!!」

「おっと」


 前を向いていなかった海斗は、何かにぶつかり床に尻もちをついた。


「悪りぃなボウズ、大丈夫か?」


 顔を上げるとがっしりとした体躯の男が立っていた。


「いえ、よそ見していた俺が悪いので。すみませんでした」


 立ち上がって頭を下げた海斗に、男は機嫌良く笑った。


「わはっはっ。礼儀正しい奴は好きだ。ここは初めてか?」


「はい。さっき着いたばかりで」


「そうか、気をつけろよ」


「はい、ありが「志麻さん?どうかされましたか?」


 後に付いてこない海斗に気づいた渡瀬が戻ってきた。


「あっ、この方にぶつかってしまって」


「あら?ゼノンさん?」


「ん?おっあんたは・・ってことはこのボウズは」


 渡瀬はその男と知り合いのようで話を続けた。


「はい。先ほど渡ってきたところです。今から移住手続きをしてきます」


「そうか。なかなか面白そうな奴だな」


「そうですか?でしたらトライアル期間中、ゼノンさんのところで預かってくださいませんか?宿舎に空きありますよね?」


「そっちがよければ構わないが・・・ボウズはいいのか?」


「・・・あっ!えっ?」


 どんどん進んでいく話をただ見ていた海斗は、突然話を振られて反応が遅れてしまった。


「俺のところに1ヶ月来るか?」


 もう一度聞いてきた男にどうしたらいいのかわからず、海斗は渡瀬の方を見た。


「この方は顔と体はこんなですが、人望が厚く腕も確かです。トライアル期間一緒にいたら大抵のことは身に付きます」


 確かにゼノンの見た目は、100人に聞いたら100人が怖いと答えるであろう厳つい顔と、立派な体躯をしている。


「こんな顔と体で悪かったな。俺は王宮騎士団の団長ゼノン・ヴァンクドクレスだ。うちの宿舎に空きがあるから、ボウズさえよけりゃどうだ?」


「でも俺、ほんとに何も分からないので、きっとご迷惑ばかりかけるかと・・それに団長ってお忙しいのでは?」


「わっはっはっ、やっぱり面白いボウズだな。気に入った。子供ガキが気ぃ遣うんじゃねぇよ。トライアル期間でみっちり教え込んでやるから安心しろ」


「では決まりですね。とりあえず移住手続きをするので、ゼノンさんはここで待っていてください。海斗さん付いてきてください」


 渡瀬は再び受付に向かって歩いて行った。


「あっはい。ゼノンさんよろしくお願いします」


 しっかり頭を下げてから渡瀬を追う海斗を、ゼノンは目を細め笑いながら見送った。


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