第4話 バイトが悪いわけではありません

 「(じゃなくてって読むのか。いや、ここは異世界案内所についてツッコんだ方がいいのか?それとも異世界案内人の方か?もういっそのことスルーとかでもいいかな!?)」


「では、まずここの説明からしますね」


「(なんか話しが進んでいくけど、ツッコまないと終わらないパターンなのか!?別に人の趣味や思想を悪く言うつもりはないし、偏見とか全然ないけど、何が正解かわからない!!そもそも俺はそんなキャラじゃない!というか自分のキャラがわからなくなってきた!!)」


 脳内で1人パニックをおこしている海斗には、渡瀬の説明はまったく聞こえていなかった。


「ーー以上になりますが、何か質問はございますか?」


「・・え?あー、厨二病ですか?(すみません、聞いてなかったです)」


「・・わかりました。とりあえず落ち着きましょう。心の声とおっしゃってることが反対になっています」


 書類が散らばるデスクを適当に片付けて、渡瀬は海斗を座らせた。


「すみません!ちょっと頭がついて行かなくて・・」


「まぁ、それが普通の反応です。私が志麻さんの立場なら、とりあえず病院を勧めます」


「いや、それあんたが言っちゃうの!?」


「ツッコミありがとうございます。落ち着いたところで話を戻してもよろしいですか?」


「落ち着いてはないけどねっ!」


どんどん自分のキャラが崩壊していくのを感じながら、海斗はとりあえず話を聞くことにした。


「それで、異世界なんちゃらって何なんですか?」


「あっ無理して敬語にしなくてもよろしいですよ?他に誰もいないのでお好きなように」


 幼い頃からよくわからないパーティーに連れて行かれ、大人たちに囲まれて育った海斗は、物心ついた頃には敬語を使っていた。

 それが普通だったし、苦痛に感じたこともない。


 同年代の友達となかなかうまくいかず、なんとなく1人でいることは多いが、その代わり年上の人にはよく可愛がってもらっている。


「(誰もいないなら使う必要もないか。相手は志麻家うちとは関係ないだろうし)」


「じゃあお言葉に甘えて。で、異世界なんちゃらって?」


です。その名の通り異世界への案内を行なっています。私の主な仕事は、お客様を無事に異世界へ渡すことです」


「何で俺が?」


「さぁ?それについては私の管轄外になるので分かりません。ただ、志麻さんには私が座るカウンターがのですよね?あのカウンターは必要な人にしかのです」


「だから誰も並んでいなかったのか・・。それじゃあ俺は、その異世界とやらに行くってこと

?(ってか管轄とかあるんだ)」


「最終決定はお客様自身にしていただきます。トライアル期間として1ヶ月、異世界で生活をしていただいてから、その世界に残るかこちらに戻るか決めていただきます」


「もし異世界に行ったら、こっちの俺はどうなんの?」


「その件に関しては(面倒なので)、最終決定の際に説明致します」


「今なんか面倒って聴こえた気がしたけど・・・」


か?」


ニコッと笑ったは、やはり先ほどとはどこか違う。


「(あぁ、そうか。目が笑ってないんだ)」


 カウンターに座っていたは、もっと自然な笑顔だった。

 目の前のは口元は笑っているが、目が笑っていないのだ。

 それがどこか冷たいく、不気味な印象を与えていた。


「いや、さっきと印象が全然違うなと思って・・」


「それは司書としての仕事でしたので。異世界案内人こちらの仕事は猫を被る必要はありませんから」


「サラッと猫被ってたことカミングアウトしたけど!?」


「私の本職は司書ですから。あのカウンターでお客様をお待ちするのが本来の仕事です。案内人は人手が足りないからと駆り出された、バイトみたいなものです」


「バイト!?案内人ってけっこう重要な役職だよね!?いっきに不安なんだけど!?」


 さらなるカミングアウトに、海斗は今すぐ帰りたいと心の底から思ったのだった。

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