第3話 司書兼異世界案内人の渡瀬さん

 1階に降りるエレベーターの中、海斗は異変に気づき顔を上げた。


「さっきより時間かかってないか?」


 動き出してからだいぶ時間が経っているが、一向に止まる気配がない。少なくとも来たときの倍の時間はかかっている。

 頭上の表示灯を見上げると、1階から5階までの全ての階が点灯していた。


「おいおい、故障じゃないよな。勘弁してくれよ」


 とりあえず非常ボタンを押そうと手を伸ばした。


ーチンー


 海斗の人差し指がボタンに触れる直前、エレベーターがやっと到着を知らせた。


「ったく、なんだったんだ・・・」


 扉が開くと同時に足を踏み出した海斗は、目の前の光景に思考が一時停止した。


 本来ならエントランスに出るはずのそこは、薄暗くカビ臭さ漂う倉庫のようなところだった。

 錆びついて変色した棚には、いくつものダンボールの箱が埃をかぶって並んでおり、デスクの上には、何に使うのか分からないヘンテコな機械や書き途中の書類、ファイルが積み重なっていた。

 我にかえり振り返ってみると、先ほど乗っていたエレベーターは、動くのかわからないほど劣化していた。


ーカツンー


「!!!っつ!!!!?」


 自分しかいないと思っていた海斗は、突然の物音に驚き、足元の電球を思い切り蹴り飛ばした。


ーガシャンッー


 静かな室内にガラスの割れる音が響く。

 バクバク鳴る心臓を無理矢理落ち着かせ、海斗は恐る恐る音がした方に振り返った。


「ヒッッ!!?」


 そこにはが立っていた。薄暗くて顔はこちらからでは見えないが、図書館の制服を着ているように見えた。


ーカツン カツンー


 足音が室内に響く。少しずつこちらに近づいてきているようだが、海斗の体は金縛りにあったかのように動かなかった。


ーカッツンー


 数メートル手前でそのは立ち止まった。


「あら、大丈夫ですか?」


「!!あなたはさっきの!?」


「お待ちしておりました。志麻海斗さん。思ったより時間がかかりましたね」


 胸ポケットから懐中時計を取り出して文字盤を確認するとは海斗に向き直った。


「ようこそ『』へ。改めまして、司書兼渡瀬繋わたらせつなぐと申します」


 頭を下げてニコッと笑った彼女は、先ほどとはどこか違う雰囲気を纏っていた。

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