第2話 司書の渡瀬さん

 6つずつある有人カウンターと無人のセルフカウンター。休日ということもあり、全てのカウンターには行列ができていた。


「ん?あそこのカウンターだけ並んでいない」

 

 6つ並ぶ有人カウンターの奥、少し離れた場所にカウンターが1つ見えた。


 「なんであそこだけ誰も並んでいないんだ?余程出来の悪い奴でもいるのか?」


 好奇心から海斗は、誰も並んでいないそのカウンターに近づいていった。


「こんにちは。お待ちしておりました。貸出しでよろしいでしょうか?」


 そこには癖っ毛と丸眼鏡が印象的な女性が座っていた。年齢は30前後くらいだろうか。

 制服を少し着崩したその女性はどこか不思議な雰囲気で、この『国立中央図書館』では浮いてみえた。


「はい。あっ、初めてなんですけど・・(お待ちしておりましたってどーゆうことだ?)」


「ではこちらに住所、氏名、連絡先と生年月日の記入をお願いします」


「はい・・・書けました」


 ひと通り個人情報を記入して渡した海斗は、確認をしている彼女を観察してみた。


「(特別仕事ができないようには見えないし、対応が悪い訳でもないよな」


 テキパキとパソコンに情報を入力していく彼女は、むしろ優秀な方にみえる。

 ふと胸元の名札を見てみると、『司書』と書かれた下に、『渡瀬』と彼女の名前が書いてあった。


「(わたせ?でいいのか)」


 海斗が彼女の名前の読み方に悩んでいるところで、渡瀬は入力を終わらせた。


「お待たせ致しました。問題ありません。返却期限は1週間になります。延長される場合は手続きが必要になりますので、期限までに手続きをお願いします。手続きなく無断で延滞した場合はペナルティとして3ヶ月利用停止となりますのでご注意下さい」


「はい。ありがとうございます」


 海斗は借りた本を受け取り、軽く頭を下げた。


「ありがとうございます」


 それに続いて渡瀬は頭を下げてから、ニコッと笑った。



「・・また後ほど」


  背中を向けて歩き出した海斗には彼女の呟きは聞こえていなかった。

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