第10話 里夢の計画

 翌日、生まれ変わった里夢は学校に向かう。そして里夢による何かが実行される。


「おはよう、里夢君。昨日はなぜか学校にいなかったね」


「やぁ進、そうだね、進」


「どうしたの、雅さんと上手くいってるの?」


「僕は友達として君が好きだったよ進」


「里夢君から好きって言葉が出るとは思わなかったよ、僕も里夢君のことは好きだよ」


 しかし進は気づかなかった。好きだよ。ではなく好きだったと過去形な言い方をしていることに。


「涼と仲良くするといいよ」


「そうだね、涼君は雅さんがいるのに里夢君を狙って何してるんだ自分はって言ってたよ」


 まだ雅については知らないらしい。


「先に行っててくれないかい?話さないといけない人がいなくてね」


「え?うん、分かったよ」


 里夢と進は別れた。



 その後、まるで気づいていたかのように緑色の蝶に話しかける。


「君はまだそんな真似をしていたんだね、峰小鳥」


 そう、雅の思い込ませる能力により叶美の行動を把握する能力を得て聞いた情報、当時の叶美は反抗的ではない。峰小鳥という人物が監視しているということも監視していないと思い込まされていた。

 雅は小鳥のアゲハを監視していないと思い込ませた。それは小鳥のフォローをしていることになる。


「雅様は僕と君が結ばれることを願っていたということかい?」


 しかし精霊に聞いても言葉は帰ってこない。精霊は逃げるように行ってしまった。


「彼女が望むなら僕は小鳥と恋愛をしよう」


 里夢は雅のことが頭から離れない。


「なんでだい、なんで監視してないと思い込ませたんだい?」



 学校に着いた里夢。三年生は三階だ。しかし、その上の屋上に向かう里夢。

 携帯で音楽を聴いていた佳奈出が気づく。


「おい、教室こっちだぜ」


「屋上で気分を晴らそうと思ってね」


「そうか」


 それだけ言うと屋上に向かう。


「これでいい、僕も今からそっちの世界に行くよ」


 後ろから佳奈出がまたしても現れる。


「なるほどな、あたしに嘘は通じねぇんだよ」


「なんだい?屋上は風が涼しくて気持ちいいね」


「嘘だな、顔色も悪い。それに昨日なぜか学校にいなかった。緊急なことがあったんだな?雅に、それに屋上だ。お前、飛び降りる気だろ」


「しないさ」


「そうか…もう逝っちまったんだな…だがその高さから飛び降りたところで逝けるかわからねぇぜ。それに天国にはいけねぇだろうな」


「いいじゃないか、僕には好きな人が誰もいないんだ」


「まさかお前から好きっつー言葉が出てくるとはな。誰から教わったんだ。お前がいなくなったら生徒会長どうすんだ?あたしも仮議長、ある意味議長不在だぜ」


「希が生徒会長になればいい、ああ見えてもできるからね」


「副会長はどうすんだよ。それよりそんなことして雅は喜ぶか?」


「彼女は僕のことが好きだったんだ、行ってあげないと」


「そんな情けねぇ姿を見られたら雅は幻滅するだろうな」


「幻滅…?」


「興味をなくすって意味だ」


「嫌いになるということかい?」


「そうだ、お前から嫌いという言葉が出てくるとはな、ほんとに里夢かお前」


「僕は里夢さ、好きな人を失った、ね」


「そうか、辛いのは分かるぜ。だが雅はもっとつらい病と闘っていた。雅は戦い抜いた。お前は逃げるのか?」


「……」


「戦い抜いた雅と戦い抜くお前だからこそ釣り合うんじゃねぇのか?」


「僕は生きなければならない、彼女は最後まで生き抜いた。このままでは両思いじゃなくなってしまう」


「なんでお前はそんな恋愛用語を多用するんだ。お前実は恋愛に疎くなかったのか」


「そうか…僕は生き抜かないとならないのか、好きにも種類がある。僕は不知火雅という人物を恋愛対象として好きだった。そして進は友達として好きだ」


「どうしたお前、大丈夫か?お前里夢か?」


「僕は里夢だ。わかった、飛び降りることはしない。叶美と佐遊を呼んできてほしい。彼女たちの能力でないと解決できない恋愛相談をする。そしてそれと同時に僕自ら建てたルール、生徒会権限。能力の悪用、一度目は厳重注意。二度目は最悪能力の剥奪、三度目は強制的に能力の剥奪。それは生徒会長であり建てた僕自身にも言えること。僕は自動的に反射してしまい美園の能力、能力者を無能力者をする能力を美園に反射し美園が無能力者になってしまう」


「何が言いたい?」


「僕は自ら建てたルール、これを一度破りペナルティを一度食らう。厳重注意。これは先生に伝えるといい。注意は副会長の希にしてもらおう。そして二度目の悪用を行ったとき僕は生徒会長の座を降りるだろう」


「お前は誰よりも能力の悪用を嫌う人間だ、そんなお前が悪用するっていうのか?」


「そうだ、僕は恋愛のために能力を悪用しよう」


「なにする気だ」


「とある人物を佐遊の能力を使い過去まで探る。この行為はある意味ストーカー行為」


「それが誰だか知らねぇが嫌がらなければ悪用に入らねぇんじゃねぇか?」


「僕が悪用しているという自覚がある限り悪用していることになる」


「そこまで恋愛に興味があったのか、とりあえず佐遊は呼んできてやるよ。その探る相手がお前の雅の次に好きな相手ってことか?」


「頼んだよ」


 里夢の第一の計画は佳奈出によって防がれた。しかし、新たに行われる里夢の第二の計画。


 数分後、佐遊がやってきた。


「どうしたのだ大将」


「君の能力は一年前の行動まで具現化できるかい?とある人物に使ってほしい。過去一年あった出来事を見たい」


「その程度のこと簡単よ、まさか姫か。だが姫はもうおられぬからな。死が入ると妾の能力に制約がかかるのだ」


「いいや、雅ではないよ、そして君は僕に命令された被害者だ、君は能力の悪用はしていない」


 里夢はその人物を伝える。


「大将の命令だな、了解した」


 そして里夢はメモ帳を取り出した。

 そこに書くのだ。能力悪用者、紅里夢、一回目。自らの名前を。

 そして里夢は何かに気づく。


「また来たね、峰小鳥、君も次監視するようなら能力悪用者の欄に名前を書くよ?」


 能力悪用、里夢は能力悪用を嫌っている。そして自分自身すら能力悪用をすると能力悪用の欄に名前を書く。能力を悪用してまで探らなければいけない人物が里夢の中ではいたようだ。里夢の恋愛のために。



 昼休みになると雅に関しての噂はどんどん広まっていき上級生の三年生まで噂は広まってしまった。雅は里夢が振らなかった唯一の相手でもあり人気も高いからだ。

 涼は里夢を狙う行為を諦めていた。なぜなら思い込ませる能力ですべての記憶が戻ったからだ。

 里夢と進は昼食を食べるがその空気は緊迫。雅がいなくなったことにより里夢の態度は激変している。

 迂闊に話しかけられない進。

 無言の食事。進は里夢の気持ちを汲み取り里夢から距離を置くことにした。



 佳奈出も誰を探るのか里夢から聞こうと思ったが今はそっとしておくことにした。


 彰も同じく里夢を見ているが特に里夢に話しかける様子はない。



 しかし、まったく逆の行動を取る人物がいた。会計、花夢美園だ。落ち込んでいる。落ち込んでいるからこそ里夢の力にならなければならない。そう思ったのだ。


「り…里夢生徒会長」


「話しかけないでくれないかい?」


「辛いのは分かります。ですが…」


「一人にさせてくれないかい?」


「このままだと里夢生徒会長が…」


「僕にも考えがあるんだ」


「何をする気ですか…」


「教える気はない」


 美園は引っ込み思案なためか引き下がった。

 B組から小百合が里夢の機嫌を伺うように現れる。


「り、里夢…」


「なんだい」


「たまには我と陸上部に出向かないか?すっきりするぞ?」


「陸上部か…」


 陸上部。雅は陸上部ではなかったが本物の雅と一年ぶりに会った場所でもある。


「わかったよ、今週は資料も少ないからね、最悪僕一人ですればいいか」



 放課後、陸上部に行く前に生徒会長に代わって副会長の希から厳重注意を受けなければならない。

 元議長の立花はおらず仮議長の佳奈出も今日はバスケで忙しいためその他のメンバーが集まる。

 里夢が到着するが抱き着いては来ない。雅の件を知っているからだ。


「希」


「ど、どうしたの?」


 里夢を半分恐れる希。


「僕は能力を悪用した。生徒会権限により生徒会長の僕に代わり希が僕に厳重注意をすることになる。そそして二度目は最悪生徒会長の座を降りる」


 希は戸惑う。


「え?里夢ちゃんが悪用?あの能力悪用を嫌う里夢ちゃんが?」


「里夢生徒会長は雅ちゃんの死が大きくかかわっているんじゃないかなー」


「そ、そうだよね」


「僕は能力上美園の能力が効かないからね。二度目の悪用をした場合僕は生徒会長の座を確実に降りよう。幻滅したかい?」


「もしかして里夢ちゃん、里夢ちゃんは能力悪用を嫌い圧倒的支持率を得る生徒会長。自分から嫌われに行ってる?里夢ちゃんの狙いはまさかみんなから嫌われること?」


「さぁね」


「里夢君。もしかして自ら作った生徒会権限を利用して里夢君自らが生徒会の座から降りるとか考えてないよね…」


「さぁね」


「こういう時に佳奈出がいればなー、でも厳重注意って何すればいいの?」


「それは注意される側が決めるわけにはいかない」


「えーと、じゃあ、次やったらだめだからね」


「そんなのでいいのかい?」


「いや、里夢ちゃんがするとは思わなかったから」


「嫌いになっただろう?」


「里夢生徒会長はまさか孤立する気ー?」


「一人になるってこと?」


「その可能性はあるねー…」


「厳重注意はもういいのかい?」


「そうだね、次はしなでねー、里夢ちゃんいなかったら生徒会回らないから」


「今週の資料は少ない、僕にはもう生徒会長の座になる資格もないくらいなのに…僕は気を晴らしたい。陸上部に行きたい」


「う、うん…僕はいいと思うけど副会長次第なのかな」


「そうだよね、今里夢ちゃん落ち込むのは当然だよね…うん、分かったよー、気を晴らしてきてね」



 こうして里夢は陸上部に着いた。その場所は本物の雅と話した場所。そして思い込まされる能力を使われた場所。


「僕はここで、一年ぶりに本物の雅に会っていた…」


「里夢生徒会長、お疲れ様です」


 挨拶をする陸上部の生徒たち。


「お疲れだね」


 小百合が里夢を見つけたようだが里夢はなぜかその場所から動かない。


「り、里夢…?どうした?そこに何かあるのか?」


「ここに大切なものがあった…」


 小百合はなんとなく理解する。


「そ、そうか…気晴らしになるのならいいのだがな」


 里夢は思い込まされた時のことを考えていた。


「僕は自動的に能力を反射していた。もしあの時雅様のものになっていたら…何か変わっていたのだろうか。なぜあの能力で反射が出てしまったんだ。なってしまえばよかったのに」


 里夢の能力は反射。防御的に最強だ。しかし手動ではなく自動で発動されるため自分で調節できない。

 

 里夢は何日ぶりだろう。長距離で走っていた。陸上部は校舎外を一周するためかなりの距離がある。里夢は途中で息切れになり座り込んでしまった。同じく走っていた小百合が里夢に追いつき心配そうに里夢に声をかける。


「大丈夫か?」


 ここで里夢の第三の計画が実行されることになる。


「はぁ…はぁ…小百合、僕は君の本当を知りたい」


「どういうことだ」


「いつものようにする君を知りたい」


「いつものようにする我か」


 小百合は雅の件で確かに里夢に気を遣っている。


「我が旦那は我が旦那よ」


「それがいつもの君かい?」


「気を遣わないでよいということだな?」


「そう、僕は気を遣わない本当の君を見たい。もちろん能力の悪用は禁止だけどね」


「ふむ、どうやら走って気を晴らせたようだな」


「君は気を遣える。そして僕のことを旦那と呼ぶ。陸上部の部長であり僕より運動神経がいい。それが姫先小百合という人物か。僕にはないものを持っているね」


「どうしたのだ、我が旦那よ」


「ありがとう、すっきりしたよ、僕は生徒会に戻ろうと思うよ」


「そうか、気分が治って我は嬉しいぞ」


 小百合は里夢の言葉に納得がいかなかったがひとまず気分が治ったことを嬉しく思うのであった。



 里夢は生徒会室に戻る。資料は全くない日だった今日はほとんどの資料が終わっていたようだ。


「ようやく僕はたどり着いたよ」


「里夢君?」


「それよりも希は?」


「資料を渡しに行ったみたいだよ」


「そうかい、この量なら僕が一人でするよ。みんな帰って大丈夫だよ。それと佐遊、明日は早めに学校に来てほしい」


「大将の命令なら了解した」


「大丈夫なのかな?」


「大丈夫さ、お疲れ様だね」


 進たちは里夢が一人になりたいことを察したのか解散する。

 数分後、戻ってくる希。


「あれ?みんなは?」


「もう資料はないに等しいからね、帰らせたよ」


「そっか」


「君は僕を見るといつも抱き着くね。今日は抱き着いてこないのかい?」


「え?」


「希。僕は君の本当の姿が知りたい」


「機嫌治ったの?今は二人きりだもんねー」


 すると安心したように希は里夢に抱き着いてくる。

 里夢は拒絶しなかった。


「君は子供のように無邪気で小さい」


「里夢ちゃんも男子にしては小さいけどね」


「だけど僕より運動神経はよく頭がいい。それにいざとなったらできる人物だ。そして生徒副会長。だけど重要なのはそこではない。それが朝日奈希という人物」


「どうしたの?」


「君も帰っても大丈夫だよ。もう僕は好きな人がいない僕ではないから」


 里夢の言葉の意味が分からない希だった。



 佐遊はとある人物の行動の具現化を里夢に頼まれている。佐遊の能力は幻想を実現させる能力。制約はあるもののできないことはほぼない。

 佐遊の探るとある人物とは。

 そして里夢の第三の計画とは。

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