第8話 蘇る記憶

 翌日、里夢は進とともに学校に登校する。


「でもまさか立花さんが悪用していたなんてね」


「ほんとだよ、議長がいないと話が進まないじゃないか」


「佳奈出さんは推薦の演説は上手だったね」


「佳奈出なら大丈夫な気がするんだけどね、その時は進、君もサポート頼んだよ」


「わかったよ、里夢君」



 一匹狼と思われていた不良、彰と一匹狼と思われていたギャル、佳奈出は協力関係だった。佳奈出は窓際で携帯をいじりながらイヤホンで音楽を聴いている。先に動いたのは彰だ。佳奈出に近づいてくる。


「なんだ?」


「佐遊の能力がわかった、記憶改ざんだ、だからお前は嘘を見通す力を使っても見通せねぇのかもしれねぇ」


「あ?」


「俺の能力をお前に使うぜ」


 彰は佳奈出に触れた。彰の能力は元に戻す能力。佳奈出が消えることはなかった。佳奈出の記憶が元に戻ったことになる。


「なんだこれ、里夢はいたんじゃねぇか」


「やっぱりか、B組に行くぜ。今のお前の記憶で佐遊の能力を探る」


「おう、分かったぜ」


 B組に現れる赤髪の不良と金髪のギャル。B組の生徒は震えだす。


「オイこら、佐遊呼んで来い」


「は、はい、わかりました。彰さん」


 呼ばれた佐遊。


「妾に何用だ」


「お前の能力は記憶改ざんか?あたしたちに記憶を改ざんしたな?」


「妾の能力か、ネットとやらと国語辞典でまとめてきたぞ。記憶改ざんなどそんなつまらぬ能力ではない。その気になればできるがな。記憶など改ざんしておらぬ」


「嘘は言ってねぇぞ」


「まあ良い、これを渡す。妾の能力をネットとやらの言語とやらで書き記したものだ」


 佳奈出は佐遊からその紙を受け取り読む。


「一番好きな同性、異性を選択。その同性、異性の命令に従わなければならない。自身の意志で能力は発動できない。能力上好きなのは紅里夢の方なので命令は異性の紅里夢のほうが朝比奈希より権限が上。能力は幻想を実現させる能力。なんだこの能力」


「幻想を実現させる能力だと?」


 佐遊の能力。それは幻想を実現させる能力。しかし欠点があるようだ。佐遊が一番好きらしい同性と異性を一人ずつ選択してその人物に従わなければならない。従わなければ能力が発動できないのだろう。そして希より里夢のほうが好きなため里夢のほうが権限が上。希がいくら命令を下しても里夢がそれを否定すれば里夢の意見が優先される。そして何より自分自身で能力が発動できないため能力を発動させるためには里夢か希の命令が必要らしい。


「確かに幻想を実現させる能力なら地球を滅ぼせっつっただけで滅ぼせるな」


「恐ろしいな」


 ある意味最強の能力である。


「佐遊自身は悪用できねぇわけだな。里夢と希に見せねぇほうがいいな」


「おう、どうやら嘘じゃないらしいしな」


 噂をすれば里夢がやってきた。


「どうしたのかねそんな驚いた顔をして。そんなことより議長の件は?」


「戦力が消えるのはいたいが議長に生徒会長から推薦されたなら考えさせてくれだってよ」


「仮議長かい?」


「そういうことになるな」


 里夢の元へ希がやってきた。


「あたしは恋愛映画で里夢ちゃんに短髪のクールな子と従者の子は好きだったか伝えなければならないんだよ」


「昨日僕はその話をしなかったかい?それになんで登場人物を知っているんだ」


「なに言ってるんだ希、誰かの命令か?」


「おい、希も記憶改ざんされてねぇか、俺の能力使うか」


 席に戻ろうとした佐遊だったが戻ってきた。


「どうしたのだ」


「おう、お前は正真正銘の最強の能力者じゃねぇか」


「その気になればフェニックスでも出せるぞ」


 彰は希に触った。すると希が態度を変えた。


「あれ?そういえば里夢ちゃんって、なんで忘れてたんだろう」


 何かに気づく希。


「まあいい、お前誰に洗脳かけられた?」


「忘れなければいけないんだよ」


 佳奈出はいいことを思いついた。


「おい里夢、お前佐遊に希に何かかけた相手の名前と場所と能力を特定させろ」


「佐遊はそんな能力を持っていたのかい?」


「いいから里夢が命令してくれ」


「なんで僕なんだ、まあいいか、じゃあ佐遊。君は希に何か能力をかけたその相手の名前と場所と能力を特定してくれ」


「それは大将の命令か?」


「よくわからないがそうだ」


「能力発動、ふむ、すべてわかったぞ」


「教えてくれないかい?」


「名前は不知火雅、場所は病院と学校、能力は思い込ませる能力だ」


「ちょっと待ちたまえ、二人いるのかい?雅は無能力者じゃないのかい?」


 すると希が疑問を浮かべる。


「病院、ここから何キロあると思ってるのー?二人?それは嘘だよ。青髪の短髪の子と緑の髪の子と登校してたからねー」


「いや、佐遊の言葉に嘘はないな」


「他に能力など存在せぬぞ」

 

「どちらか思い込ませているってことか?どっちが本物なんだ」


「妾の能力なら封印もできるぞ、ゲームで学んだからな」


「封印したらどうなるのかね」


「魔力があっても魔力が使えなくなるのだ」


「おい里夢、お前がその封印させるように佐遊に命令してくれ」


「なんで僕がしないといけないんだ」


「いいから早くしろ」


「まあいい、佐遊、その封印を雅に使ってくれ」


「承知した」


 その時何かが変わった。



 登校していた小鳥と鈴花。急に何かが変わりだす。


「おや小鳥」


 その言葉は小鳥の従者、鈴花によるもの。


「鈴花さんじゃないですか」


「なぜ私は小鳥と登校しているのでしょう、不知火様の元へ行かなくては」


 鈴花は小鳥の元から去った。


「アゲハ、雅様の様態を確認してください」



 小百合、この人物も何か思いだす。


「我は確か不知火様を見たな。一年近く休んでおられたというのに。そして我はなぜかハードルを壊したな。そして金曜日は不知火様は陸上部におられたな。陸上部でもないのに。不知火様は能力者であるのに能力を使わない、いや、それどころではないな。不知火様は先週一度学校に来られたのか、様態が回復したのだろうか」 

 

 

 今となっては元議長、立花も何か思い出す。


「わたくしは何を無謀なことをしていたのでしょう、里夢生徒会長に届くはずなどないのですから、それに土曜日に見かけましたね、外泊なされていたのですね」


 書記の進も思い出す。


「そういえば里夢君と映画見に行ってたよね。外泊してたのかな?治るはずはないのに」


 希も何か思い出す。


「あれ?里夢ちゃんと映画館で一緒におられたような。一年ぶりだね。ということは治ったはずはないしその昼にあたしは話までしてる?なんでこんな大切なこと忘れてたんだろ」


 佐遊の能力が判明したのは半年前。


「なぜ妾は大将と副大将を選択してしまったのだ?なぜ大将と姫を選択しなかったのだ?」


 3年A組紅里夢は絶大な人気を誇る人物だ。それは学年問わず。

 2年A組不知火雅は同じく絶大な人気を誇る人物だ。それは学年問わず。



 時は一年前に遡る。

 当時二年生の里夢、当時一年生の雅。里夢は今と変わらず絶大な人望を持っていた。

 当時一年生の雅、こちらもお嬢様気質で能力者でありながら能力を使用せず絶大な人気を誇っていたが欠点があった。難病にかかっていたのだ。出席日数的に間違いなく留年。一か月、半年単位に外泊をするのがやっとの雅。

 一か月たったが雅が学校を訪れたのは三日間、その三日目。昼休み。


「今日は最後ですか、今日が終われば一年近く学校に来れませんね」


 後ろにいたのは鈴花。鈴花は小鳥の従者ではなく雅の従者だった。


「いいのですか、不知火様」


「名前でいいですよ」


「名前でお呼びするなんて恐れ多い」


「散ってくるとしましょう」


 雅はフラれる覚悟で教室で数人人がいるのにもかかわらず熱心に勉強に励む里夢の元へと現れた。


「里夢様」


「き、君は」


 様々な女子生徒に興味を示さない里夢だったが雅には動揺していた。


「体調は大丈夫なのかな?」


「はい、私はこれだけ言いに来ました、貴方のことが好きだったと」


「ぼ、僕なんかでいいのかい?」


 その言葉に逆に動揺したのは雅である。そうかい、で終わるかと思ったからである。さらにこの光景を見られ雅はフラれたところを見られ絶望を味わおうと思ったからである。しかし、逆に希望が見えた。


「もちろんですよ、まあ、私の余命は長くても一年半でしょう、さようなら」


「そ、そうかい。僕も君にだけは興味があったからね。君は能力者でありながら能力に頼らずお嬢様のようで、僕はこの気持ちを何というのかわからない。でも君とはもう会えなくなるのか…雅様」


 雅は当たって砕けて自分の気持ちだけを伝えすべてを終わらせようと思ったが予想外の答えが出された。この光景を見られすぐさまうわさは広がっていく。


「なぜ…なぜ私に希望を抱かせるのですか。すべてを絶望に染め、永遠の眠りに就こうと思ったのに。貴方は私と結ばれてはならないのです。私は近いうちにいなくなるのですから」


「僕は君に憧れていた。君以外には何の興味もないほどに」


「入院生活の私のどこがいいというのですか」


「この気持ちに理由がないといけないのかい?君は難病とも戦っているではないか。どうすればそこまで強くなれるんだい?」


「私は弱いですよ、何の力もありません。里夢様には到底かないません」


「僕は何か君としてみたかった」


「デートですか?」


「それが何かすら僕にはわからない」


「そうですね、里夢様が私に興味があるというのなら私が一年後にまた必ず戻らなければいけません。私は生きなければならない。その時が来るまで、ですが里夢様は私と結ばれてはいけないのですよ。悲しませないために。私は里夢様にデートを、せめて恋愛を教えなければ。恋愛映画を必ず見せましょう。私はその言葉で満足しました。そのためならどんな手段でも使いましょう。たとえ里夢様に嫌われる手段でも」


「僕は君のことを忘れられないよ」


 そして雅は初めて能力を里夢に使うことになる。寂しそうに。思い込ませる能力。


「里夢様はこの話を忘れてしまう。私に対して恋愛意識を失ってしまう」


 里夢は態度を変える。


「君は下級生の雅だね」


「そうです、私は無能力者で健康で恋愛意識を全く持たない里夢様と同じ陸上部になることになる雅ですよ。また会えたら会いましょう。デートでもしたいですね」


「何を言ってるんだい?デートとは何だい?」


 里夢と雅は人気を誇る生徒だ、その光景を鈴花含めアゲハや他の数名に見られていた。こうして昼休みで同学年にはほぼうわさが広まった。


「不知火様、良かったですね」


 鈴花の一言だった。


「雅様には勝てませんよ」


「貴方は小鳥」


 小鳥は泣きそうになりながら話しかけてきた。雅は小鳥が里夢に好意を持っていることを悟った。



 余命宣告されていた雅は全てを伝え撃沈しようかと思ったが希望が見えさらには噂が広まってしまった。

 放課後。この日から雅は能力を使い続けることになる。


「私と里夢様の噂話は全てなかったことになってしまう。そしてこの私、不知火雅は難病にかかっていない健康な雅、陸上部に入り無能力者の恋愛に全く興味のない、そして…」


 小鳥の泣きそうな顔が脳裏に浮かぶ。


「里夢様にも全く関心を示さない不知火雅が明日から登校してきていると学校の生徒、先生全員は思い込む…」



 それだけ言い残し鈴花と共に病院を訪れた。


「不知火様、私は不知火様にお付き添いします」


「貴方も巻き込むわけにはいきませんね、鈴花。お見舞いに来なくていいのですよ。自分のことを第一に考えてください」


「何を言っているのですか、不知火様。そんな真似」


 さらに雅は能力を使うことになる。


「仕方ありませんね」


 小鳥の顔が脳裏から離れない。


「鈴花、貴方は私との関係を忘れ小鳥が主人だと思い込み、小鳥は鈴花を従者だと思い込む、分かりましたね?」


「あれ、私はなぜこんな場所に。小鳥様のところに行かなければ」


 こうして雅は小鳥に鈴花を渡したことになる。雅の思い込ませる能力によって雅はいつも登校し、陸上部に入ったことになり、無能力者で恋愛意識が全くなく里夢にすら興味を示さない雅が出席していると全員が思い込んでしまった。



 実際に外泊したのは金曜日、土曜日だけである。陸上部のハードルを壊させ何としても金曜日に来させるよう悪用をしてしまったが雅にとっては関係ない。本物の雅が金曜日に里夢に会い、本物の雅が土曜日にデートをすることができただけでも奇跡である。そして恋愛を学ばさせる。その願いはかなったのだから。


「恋愛映画はどれも小鳥や鈴花のような人物が結ばれる作品が少ないですね…」


 小鳥と同時に鈴花も里夢を慕っていることは主人である雅は分かっていた。だからこそ恋愛映画の中でも小鳥や鈴花のような人物も登場する恋愛映画を選択していた。


「小鳥や鈴花のような登場人物に目を向けてくれていればいいんですがね」


 そして自分を進や希に思い込ませた本当の意味、自分が進だと思い込ませることによって友達関係での映画を、恋愛問題に発展させ対立になり、争いごとになることを防ぐように。

 進に関しては同一人物が二人いると問題が起きるため最も近々しい副会長に思い込ませた。

 さらに今日の登校時、希に伝えるように思い込ませた意味。それは小鳥や鈴花のような人物に恋愛意識があるのか。

 元から雅は誰も貶めるつもりはなく小鳥や鈴花をむしろ陰で支えていた。

 すべては里夢に恋愛を学ばせるために。


「能力が使えなくなりましたね…あぁ、剥奪ですね、無能力者になったのですか。さんざん悪用しましたからね。罰が下りましたね。里夢様、どうかお幸せに…」


 雅の瞳が弱々しく閉じられていく。



「僕はなんで忘れていたんだ、違う、思い込まされていたのか」


 里夢の能力は危機が迫ると自動的に反射する。しかし思い込ませることは危機が迫るという意識がない限り反射できない。


「あの時約束していたデート…恋愛映画。まだ生きている。佐遊の封印能力はどれだけ持つんだ」


「大将の命令が下されている限り妾の能力は無限よ、妾は能力者であり特殊能力者であるからな」


 佐遊の能力に魔力量は関係ないらしい。


「なら今日ずっと使い続けていることも可能なのだね?」


「もちろんよ」


「僕たちは思い込まされていた。不知火雅という人物が無能力者で恋愛意識がなく僕に興味がないと。僕のために…今日の資料は少ない。僕は放課後生徒会に顔を出さず病院に行かなければならない」


 これは雅の能力ではない。里夢の意志である。


「そうだよねー、里夢ちゃん雅様のこと好きだもんねー。それにいつ息を引き取ってもおかしくないもんね…」


「僕は好きがわからない、でも一刻も早くいかなければならない。今からでも行きたい。僕は会いたい…」


 彰がその里夢の言葉を推すように言う。


「今から行って来いよ、すべて思い出した。俺がお前を殴って致命傷与えて病院送りにしたってことにしといてやるからよ」


「君に罪はない」


「では妾の出番だ大将、妾にできないことはほぼないといってよい。大将はいないと一日思い込ませる」


「そんな真似もできんのか、あたしも仮議長だしいきなりハードだな。だが今回は一刻を争う」


「不可能などない、もちろん妾達に資料や打ち合わせは任せよ、能力の悪用はせぬ。大将、命令をくれ、大将は一日いないと思わせる命令を」


「わかった、すまないね。佐遊、命令だ。僕は学校に一日いない、分かったね?」


「了解した大将、大将は学校に一日おらぬ」


「そういえば今日里夢ちゃんいないねー、なんでか知らないけどいないねー」


「そうだな、何でか知らねぇがいねぇな、まあいいか。朝礼だぜ」


 里夢は向かう。場所は知っている。思い込まされた能力は封印され本当の記憶は蘇ったのだから。一年前と同じその病院に向かう。


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