第5話 二年生の掌握者

 朝、彰によって消されたはずの里夢は何事もなかったかのように目を覚ました。今日は金曜日。吐き気や頭痛は治っている。


「僕としたことが…まさか自分が病気にかかってしまうなんてね。昨日の打ち合わせや資料は少なかったもののどれだけ残っているか不安だね。僕が休んだせいでもあるんだけどね」


 里夢は家を出て進と出会う。


「よかった里夢君、治ったんだね」


「僕としたことが、さんざん健康に気を付けるように言ったのに」


「そういう時もあるよ、里夢君頑張ってるし」


「皆勤賞はなしか…それより打ち合わせと資料はどれくらい残ったんだい?」


「打ち合わせは催しの件が保留で美化委員も昨日の件は終わって続行で資料は僕の分は終わったから多くて3割残ってるかな。里夢君あの量を一人でやってたなんてね」


「そうなのかい?思ったより終わってるじゃないか?もっと多く残ってると思ったよ」


「でも昨日はすごい量だった日なんだね」


「昨日は資料も打ち合わせも少ない日だったよ」


「え?あの量で少ない日だったの?」


「そうだね、少ない日でよかったよ、でも貸しを作ってしまったな」


「そんなことないよ、改めて里夢君の凄さを実感したよ」


 話していると学校に着いた。


「ちょっと希に資料がどれだけ終わったか聞いてくるよ」


「あ、僕の資料も渡しとくね」


 進から資料を受け取り希に話を聞きに行く。


「希はいるかね?」


 ものすごいスピードで子供が抱き着いてくる。希だ。


「抱き着くな、暑苦しい。それよりもだ。資料はどれだけ終わったんだい?」


「昨日の分は何とか終わらせたよー」


「おぉ、予想外だな、5割は残る覚悟でいたからね。能力の悪用はしてないだろうね」


「してないよ、しないように言ったからね。里夢ちゃんこそあの資料の数を一人でこなすって能力の悪用してないよね?」


「するわけないじゃないか。なんとかなったとはね、感謝するよ」


「えへへー」


「もう朝礼が始まるね」


「撫でてもいいんだよ」


「何を言ってるんだ君は」


 里夢は教室に戻る。


「おう、里夢じゃねぇか」


「なんだ彰」


「お前が休むなんて意外だったぜ」


「全く、僕としたことがね。もう席に着かないと朝礼始まるよ」


「わからねぇな」


「なにがだい?」


「何でもねぇよ」



 朝礼も終わり授業も終え、里夢と進が食事をしていると一人の男が現れた。津山涼。


「俺も一緒に食べさせてくれよ」


「構わないよ」


「いいよ、涼君」


 涼は里夢に野菜ジュースを差し出す。


「おお、君は分かっているじゃないか。君も野菜ジュースを飲んで健康を維持していたんだね」


「里夢生徒会長病み上がりですし俺の分飲んでくださいよ」


「いいのかい?」


「もちろんです、里夢生徒会長」


 こうして涼は里夢を少しずつ落とす作戦に出た。



 しかし、それを見ていた二人の女性。小百合と佐遊。


「大将が別同隊の兵士と会談しているだと、謀反を起こされる可能性があるな」


「旦那は我のものだ、しかし里夢涼推しではないのは我も同じよ。里夢進推しだからな」


「ならここは同盟を結ぼうか道化師小百合よ」


「もちろんだ佐遊よ」


「妾の魔術師団の能力なら簡単に涼部隊を殲滅させることができるが」


「ふむ、インフィニティフェニックスだったか。我はお前と付き合いが長いが一度も能力を見たことがないぞ」


「妾の能力は最強すぎるからな」


「やはりお前は無能力者だろう」


「能力は我が大将と副大将のために振るう。妾の能力には制約があるからな」


「そうか、頑張るとよい」


 小百合は佐遊が無能力者なことを理解して同時に気づく。ただの中二病であると。



 二年生組は新たなる強敵、涼の姿を精霊アゲハを使い察知する。


「まずいですね、また新たな敵が増えましたか、しかも男ですね」


「恋愛対象は男、万事休すですか」


「おやおや、小鳥、鈴花」


「どうしましたか、雅さん」


「小鳥様を呼び捨てにしないでください不知火さん」


「まあいいでしょう、そろそろ現状報告と行きましょうか」


「何の話ですか?」


 すると急に小鳥と鈴花は態度を変えた。


「さて小鳥、貴方の能力は精霊を操る能力でしたね」


「はい、その通りでございます、雅様」


「状況はどうなっていますか?言わないといけませんよね?」


「恋愛対象が男性の可能性も出てきました」


「そうですか、もういいです小鳥は。鈴花」


「何でございましょうか、不知火様」


「貴方の能力はなんでしたか?」


「はい、私の能力はあらゆるものを創造する能力です」


「それで、どこまで作戦は進んでいますか?言わないといけませんよね?」


「はい、不知火様。私の能力で井之口佳奈出という人物を創造し屋上に呼び出し告白させ後々私達二年生の元へと持ってくるつもりでしたがあの三年の最強の人物、新藤彰により失敗に終わりました」


「それだけですか?」


「昨日は里夢生徒会長がお休みになられたとのことで昼休みに登校する里夢生徒会長を創造しその里夢生徒会長を使い副会長、議長、書記、あらゆる人物に嫌いだと告白させ里夢生徒会長を取られないように戦意消失させる作戦を使いましたがこれも新藤彰により妨害されました」


「彼の能力の詳細は?」


「わかっておりません」


「そうですか、彼に私は武力では勝ち目はありませんからね。ま、姫先部長はどうにでもなりますからね。次の作戦は?私に従わないといけませんよね?」


「まだ考え中でございます不知火様。今のところ相馬進を創造し何かしら動こうと考えております」


「そうですか、分かりました。小鳥、鈴花。私は無能力者です。里夢生徒会長のように恋愛意識はなく里夢生徒会長は好きではありません。わかりましたね?」


「はい、わかりました。雅様は無能力者です」


「そして不知火様は里夢生徒会長のように恋愛意識がなく里夢生徒会長のことが好きではありません」


「そして今あった話も忘れることになります。精霊アゲハも私に近づけさせてはいけません。そして私とは会っていません。わかりましたね?」


「はい、雅様と会っておらず精霊アゲハを雅様の元へ近づけることは許されません。今の話はすべて忘れます」


「それでは頼みましたよ」


 すると小鳥と鈴花は態度を変えた。


「あれ?あ、雅さんじゃないですか」


「おやおや小鳥」


「小鳥様を呼び捨てにしないでください不知火さん」


「そうですね、お疲れ様です」


「小鳥様、無能力者の分際であの態度、やはり解せませんね」


「まあ落ち着いてください。無能力者に罪はありません。それに彼女は里夢生徒会長のように恋愛意識もなく里夢生徒会長のことなど好きではありませんからね、敵ではありません。真の敵は進さんですね」



 小鳥、鈴花を掌握する人物雅。何かの能力ですべてを聞き出した。


「屋上は気持ちいいですね」


 男子生徒が雅に意を決したように話しかける。


「雅さん、実は前から好きでした、付き合ってください」


「はぁ…」


 雅は面倒くさそうにため息を吐く。

 男性は急に態度を変えた。


「貴方は私のことが嫌いだった。いいですね?」


「はい雅様、俺は雅様のことが嫌いでした」


「これから5メートル以上私に近づかなくなります、分かりましたね?」


「これから5メートル以上近づくことはありません」


「そしてこの話を忘れることです。わかりましたね?」


「はい、俺はこの話を忘れます。雅様」


「ごきげんよう」


 そういうと男性の態度が変わった。


「うわ、雅さんだ。俺雅さんとそんな近づきたくないんだよなぁ、嫌いだったし」


 男子生徒はどこかへ行ってしまった。



 里夢はぴったりと昼休みに8つの会議を済ませ、何個か保留という形で打ち合わせを終わらせ授業に着き、放課後を迎える。

 今日は遅れることなく生徒会室に向かおうとしていると声がかかる。


「おい里夢」


「なんだい佳奈出」


「もし能力を悪用して生徒会に入った人物がいれば生徒会権限により生徒会の座から降りるんだよな?」


「もちろんだよ、そんな人物に生徒会を任せていたら汚名を被ることになるからね」


「もしお前が悪用していたのならお前は座を降りるか?」


「もしだろう?降りるさ、悪用は許されないからね」


「神に誓ってか?親に誓ってか?」


「もちろんだよ、神様に誓っても父親たちにも誓ってもだよ」


「なるほどなぁ、嘘だな、お前は嘘を吐いた」


「何を根拠に言ってるんだい」


「もしお前が悪用していたなら能力者から無能力者にもなる、だったよな」


「もしだろう?そうだね、無能力者になるさ」


「また嘘を吐いたな、そのレベルの能力ってことか」


「何が言いたいんだ、僕を疑っているのか?」


「調べはついた。生徒会に能力を悪用して入った人物が一人いることにな」


「なんだと?それが僕とでも言いたいのか?」


「さて、どう対処するか、予想以上に恐ろしい能力だからなぁ」


 それだけ言うと佳奈出は行ってしまった。


「なんなんだ、まるで僕が悪用したような言い方じゃないか。でも佳奈出の話が本当なら能力を悪用した人物がいるということか。僕はしてないぞ?副会長、希。議長、立花。庶務、佐遊。書記、進。会計、美園。広報、叶美。そして生徒会長、僕?どうやって調べたというんだ?」


 生徒会室に着きいつものように希に抱き着かれるものの警戒を怠らない里夢であった。



 お嬢様気質の不知火雅は見た目に似合わず陸上部に所属していた。


「お疲れ様です、姫先部長」


「ふむ、お疲れだな」


「今日も里夢生徒会長は来ていませんね」


「そうだな、だがお前は恋愛に興味はないからな」


「そうですね、どうでもいいんですけどね、姫先部長は好きなんですよね」


「まあな、我が旦那だからな」


「私が助言できますよ」


「なんだと」


「恋愛に興味がない者同士だからこそわかってしまうことがあるのですよ、人目のつかないところに行きましょう」


「言われてみるとそうだな、よしここならいいだろう。何かつかめたのか?」


 すると小百合は急に態度を変える。


「さて、姫先部長の能力はなんでしたか?」


「我の能力は魅了でございます不知火様」


「貴方は私に今後その能力をかけられなくなる。わかりましたね?」


「わかりました、我は不知火様に今後魅了の能力はかけられません」


「私は力がないですからね、物を壊すのはよくないですよ、誰に命令されてハードル10個も壊したのでしょうね。私の命令ではありませんよね?壊したのは貴方ですよね?」


「はい、我は不知火様に命令されてハードルを壊していません。我の意志でハードルを壊しました」


「よろしい。私は無能力者で里夢生徒会長のことは好きでは無ければ恋愛にも興味もない?わかりましたね?」


「はい、不知火様は無能力者で里夢生徒会長のことが好きではなく恋愛感情も持ちません」


「貴方は今からこの話を忘れ、緊急で里夢生徒会長のことを呼ばなければならない、そしてそのあと里夢生徒会長に近づいてはならない。わかりましたね?」


「はい、この話を忘れ緊急で呼んだ後里夢生徒会長に近づいてはならない、里夢生徒会長を呼びにいきます」


「では行ってきなさい、姫先部長」


 すると小百合の態度が変わる。


「そうだ、我は緊急で里夢を呼ばなければならない」


「そうなんですか、姫先部長、緊急なら仕方ありませんね」


「ふむ、緊急だからな。我は里夢を呼んでくるぞ」


「緊急なら急がないといけませんね」



 生徒会室でやはり里夢がいることでけた違いのスピードで資料がどんどん片付いていく。そんな時。小百合がやってきた。


「どうしたのかね小百合」


「里夢、緊急だ、陸上部に来てくれ」


「何かあったのかい?」


「とにかく緊急だ」


「緊急か、資料も6時までかからないね。希。頼んでも大丈夫かい?」


「おっけー、任せて」


「緊急だから戻れないかもしれないけど6時を過ぎたら帰っていいからね。この量なら僕一人で平気だ」


 それだけ言うと生徒会室から出て小百合と共に陸上部倉庫に向かう。



 陸上部たちがいる場所に着いた里夢。


「それで緊急の用事とは何かね?」


「緊急の用事?用事は何だったんだ?」


「君が呼んだんじゃないか」


「すまないな我が旦那よ、緊急の用事の内容を忘れてしまった」


「緊急なのに用事を忘れるのか君は、大丈夫かね?」


「お久しぶりですね、里夢生徒会長」


「雅か、久しぶりになるね」


「そうだ、我は里夢に近づいてはならないんだ、では走ってくるぞ、我が旦那よ」


「何を言ってるんだ、小百合は」


「さて、勝負は一瞬ですか、少ししか効きませんからね」


 小さい声でぶつぶつと何かつぶやいている雅。


「何か言ったかね?」


「里夢生徒会長」


「なんだい雅」


 すると里夢は急に意識が変わった感覚に陥る。


「貴方はこれから話すことを忘れます。わかりましたね?」


「わかりました、雅様」


 里夢まで雅を様付けした。


「明日は私とデートに行かなければなりません。恋愛映画を見なければなりません。誰とデートするか教えてはなりません。わかりましたね?」


「僕は明日雅様とデートに行かなければいけません、誰とデートに行くか教えてはいけません。分かりました」


「そして私だけのものになります」


 里夢は途中で態度が変わった。

 雅が意味不明なことを言っている。


「私は私だけのものにならなければならない」


「何を訳の分からないことを言っているんだい?」


「私は私だけのものにならなければならないんですよ」


「陸上部は変人しかいないのか?そうだ、僕は君とデートをしないといけないんだ。恋愛映画というものを見なければならないんだ」


「そうですか、そこまでは成功しましたか」


「何を言っているんだい?僕は君とデートというものして恋愛映画というものを見なければいけないんだ」


「そうですね、明日は私とデートをしましょう」


「ところでデートとは何だい?」


「デートを知らないのですか、里夢生徒会長は。恋愛映画は分かりますか?」


「映画か、あの大きなスクリーンでゾンビが追いかけてくるテレビだろう?」


「それはホラー映画ですね。私がエスコートしなければいけませんね」


「なに、エスカレーターかい?」


「いえ、とにかく明日はデートをしなければなりませんね。里夢生徒会長の寮は小鳥を使って特定済み…いえ、ちょうど帰る光景を目の当たりにしてしまったので私がお伺いします」


「さっき君は恐ろしいことを言わなかったかい?聞き間違いだと思うけど僕はデートをしなければならないな。君がそのデートと言うものを教えてくれるのかい?」


「はい、もちろんですよ。明日は陸上部もお休みですから朝の10時にお伺いしますね」


「まあよくわからないけど僕はデートをしないとならないからね。10時に待っているよ」


 里夢はデートの約束を下級生の雅とすることになった。



 彰は繁華街で何者かと連絡を取っている。


「なんだお前か。何個能力持ってやがる。3つ?また増やされる可能性があるな。さっさと蹴りつけるか。俺の能力とあいつでな」



 生徒会の仕事は今日は早く終わり帰ることに。


「よし、帰ろう進」


「そうだね里夢君。明日は予定あるの?」


「明日僕はデートと言うものをしなければならないんだ」


「え?里夢君が、デート?」


 進は動揺を隠しきれない。紅里夢は様々な女子をフリ、さらには全く関心を持たない生徒会長だ。その生徒会長が何者かとデートをすると信じられない現実を叩き込められる。


「僕はあっちだからまた今度だね」


「ちょっと待って、誰とデートするの?希さん?立花さん?」


「僕は誰とデートするか教えてはならないんだ」


「あの里夢君がデート?し、し、信じられない。冗談だよね?」


 進ですら冗談にするレベルで里夢がデートなどあり得ないのだ。



 希は部下たちと会話していた。


「どうしたのー?デート?進きゅんが?里夢ちゃんが?いやいや冗談やめてよ誰と、分からない?そこが一番重要だよ」


 希は急に焦りだした。全く想定していなかったからだ。


「あ、あの里夢ちゃんがデート?誰?可能性あるのは立花か佳奈出だよね、でも緊急で小百合来てたしもしかして小百合?」



 立花は精霊アカツキを使い監視していた。


「どうしました?デートですって?油断しましたね。あの時ですか。緊急のあの時書類に集中しすぎてアカツキを飛ばしてませんでしたね。小百合さんでしょうね。どんな方法を使ったんですかね。明日の10時…監視してください」



 当のデートに行くことにされている小百合は。


「我はなんで緊急と呼び出したんだ?忘れてしまったな。しかしなにか緊急の要件を忘れてしまっている。思い出さなければ」


 どれだけ立っても思い出せない小百合。



 中二病の庶務。佐遊は。


「妾の大将、そして副大将には忠実に従わなければならない。そうせぬと妾の最強の能力で大将たちをお守りできぬからな」



 二年生組も内部分裂が初めから起きていた。


「さて、アゲハを偵察に行きましたがデートですか?絶対あり得ない…そんな冗談あり得ませんね。アゲハは雅さんに近づけてはなりませんからね」



 小鳥の忠実なる従者だと思われていた鈴花は。


「確かに私は小鳥様を慕っています。しかし小鳥様。たとえ小鳥様が里夢生徒会長をものにしたとしても所詮精霊を操れる能力しか持たないです。私は小鳥様より里夢生徒会長を慕っていますのでその時は偽の小鳥様でも創造して小鳥様と里夢生徒会長の仲を引き裂くだけですよ」



 そして二年生の小鳥、鈴花、さらには小百合まで掌握、里夢とデートに行くことになった雅は。


「里夢生徒会長の能力は分かりませんでしたが私はデートの座にまで着きました。二年生はもう掌握済みです。あぁ、里夢様、ようやくこの座にまでたどり着けましたよ。危険な賭けでしたけどね」


 雅によって仕組まれた里夢の初デートが明日、行われようとしている。




 


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