第4話 緊急事態
翌日、里夢は目を覚ましたがいつもより意識がもうろうとしている。
「頭がくらくらするな、吐き気もする」
里夢は一年生、二年生と皆勤賞。野菜ジュースを飲んだりして健康に気を遣っているつもりだった。しかしどれだけ対策しても対策しきれないときはある。
「頭が痛い…僕はさんざん健康に気を付けたまえと言っておいて自分が病気にかかってしまったなんてあわす顔がないじゃないか、それに僕は生徒会長だ。僕がいなかったら回らない」
里夢は無理やりにでも学校に向かうが隣の寮生の一人が里夢の異変に気付いた。
「里夢生徒会長、ものすごい顔色悪いですけど」
「だ、大丈夫だよ」
「熱ありませんか?体温計持ってきます」
「やめたまえ、僕は大丈夫だ」
「なに、里夢生徒会長の顔色が悪いだと、体調不良か?それとも能力の使い過ぎによる副作用か?」
「いやいや、里夢生徒会長は生徒会長だけではなく学級委員や陸上部にも所属しておられる。ものすごく多忙だ。そもそも体調を崩さないこと自体がすごかったんだ」
男子寮生は里夢の熱を体温計を使い測る。
「さ、39度、高熱じゃないですか」
「だ、大丈夫だ、体温計が壊れているんじゃないかね…?40度からだろう、高熱は」
「確かに里夢生徒会長がいなければ生徒会が回らないのは分かりますが病気を移すのもどうかと考えられます」
「うっ…」
里夢は反論できなかった。
「そういわれる…と、そうだね…せめて、この資料を…副会長に…」
男子生徒は里夢から資料を受け取った。男子生徒から見てその資料の内容は何のことだか理解できないが重要な資料なのだろう。それだけ言うと里夢を男子生徒たちは里夢の自室に運び里夢をベッドに寝かせるのであった。
今日この日、里夢生徒会長は学校を休むことになる。
何も知らない生徒副会長の希は登校しながら友達たちと会話していた。
「ふーん、そうなんだ、君は書記の進きゅん狙ってるんだねー」
「希生徒副会長はやっぱり里夢生徒会長を?」
「当り前だよー、何としてもあたしに振り向かせて見せるからね」
すると真剣になまなざしで男子生徒が資料を持って希の元へと現れた。
希の友達たちは。
「大変だねー希副会長は、今度は登校中に告白されるなんてね」
「違うんです、それどころではないんです」
男子生徒は妙に真剣だ。
「里夢生徒会長が、里夢生徒会長が今日は休みなんです。この資料を渡すようにと」
その言葉に希含め希の友達全員が驚愕し男子生徒の前に立ちふさがっていた希の友達たちは道を開ける。
「あの里夢生徒会長が休み?」
「あの真面目で皆勤賞を取っていたあの里夢生徒会長が」
希は絶望的な目をして男子生徒から資料を受け取った。資料の内容を読む。希は急に立ち尽くした。
「どうしました?希副会長」
「はぁ…はぁ…里夢ちゃんはこの量を一人で?信じられない…」
そして立ち上がる。希の顔つきが変わっていた。
「希副会長?」
「今日は君たちと話してる場合じゃないよ、緊急事態だからね」
ものすごいスピードで学校へと抜かう希であった。
希は伊達に生徒副会長の座に就いているわけではない。副会長の座に就くということはそれなりに理由がある。実は希は里夢よりは人望はないもののそれなりに人望はあり里夢より成績運動共にトップクラス。さらに頭の機転が早くいつもは里夢にべったりとくっついているだけの副会長かと思いきや仕事はちゃんとこなしている。
里夢はAクラス。希はBクラス。まるで態度が変わったかのように叶美を呼び出す。
「叶美、緊急事態。今日は生徒会長が休み。議長、会計、書記、庶務全員呼んできて」
その言葉にいつも満面の笑みをこぼしている広報の叶美さえ笑みがなくなる。
「わ、分かったよー」
「早く、急いで、時間ないよ」
叶美の報告を受け議長の立花、書記の進、会計の美園、そして広報の叶美と副会長の希、もう一人新しい生徒会役員、庶務、早須美佐遊はB組に集まった。ちなみにこの学校に監査はいない。美園は会計兼監査でもある。
早須美佐遊(はやすみ さゆ)。見た目は超美人。ピンクのロングの髪をしている彼女は告白されてもおかしくないだろう。話さなければ。ちなみに彼女は里夢とは違うB組で昨日も庶務の雑務をこなしていた。さらに陸上部ではないが陸上部の部長の小百合と仲がいい。
「里夢総大将が休みだと?」
その言葉は佐遊によるもの。里夢は生徒会長ではなく総大将や大将と佐遊から呼ばれている。
「だが良い、妾とその四天王、先鋒進、参謀美園、中堅叶美、そして四天王の指揮官立花。さらに副大将希。そして何と言っても妾の炎の能力インフィニティフェニックスの前では無力よ」
どうやら炎系統の能力を使えるらしい。武将用語を多用するため歴史、特に戦国時代に知識がありそうだ。それと同時に中二病かもしれない。
「はいはい、分かったわかった。今ふざけてる場合じゃないの」
なんだかんだふざけたことを言っている彼女だが話さなければきっちりと雑務をこなしそれなりに人望もある。信頼も話さなければ絶大にされていただろう。
希、立花は目を合わす。
「今回は協力してね、立花」
「そうですね」
里夢を巡る恋愛勝負は停戦が結ばれたことを意味する。
「資料によると昼休みに打ち合わせを終わらせないといけないのは7個だよ。今日は多い日だったのかなぁ。特にこの美化委員の問題は一番滞ってるね」
その量に一同は唖然とする。希は全員の性格を把握しているつもりだ。
「あたしは美化委員含め里夢ちゃんの代理で多分昼休みでは間に合わないだろうけど三個行くから立花と佐遊は代理で二個行ってくれない?佐遊は喋らないように、資料にまとめるように」
「わかりました、二個ですね」
「よかろう」
「それで美園は打ち合わせ向いてないからなぁ、進きゅん、美園と進きゅんで一つ昼休みに打ち合わせ行ってくれる?内容を書き記すだけでもいいから」
「わ…わかりました」
「美園さんとですね、了解です」
「それで美化委員の次に難しいこの打ち合わせなら叶美、君かあたしかしか適任者はいないからね」
「私が美化委員の問題に行ってもいいよー?」
「美化委員の件はあたしか里夢ちゃんしか無理だね。あたしは美化委員含め3つ、立花と佐遊は2つ、美園と進きゅんは一つ、叶美は一つ。あたしはこれでも副会長だからね。数的に次に大変なのは立花、佐遊だけど問題的には叶美、君の受け持つ打ち合わせが美化委員の次に一番ハードだからね。最悪あたしと叶美は昼休み中には終わらないかなー」
生徒会役員たちの緊急指令が発令される。
そのころ、朝礼前。昨日の件は何事もなかったかのように佳奈出は携帯を弄り、イヤホンをしながら窓際でガムを噛んでいる。
彰は机に脚を置き涼に買わせたであろう缶コーラを飲んでいる。
そして二人は目が合った。赤髪の不良と金髪のギャル。その視線は敵意か、殺意か。
彰は飲み終わった缶コーラをゴミ箱めがけて投げたが入らなかった。そのまま放置する彰。
佳奈出は噛み終わったガムを小包に包んでゴミ箱に向けて投げたが入らなかった。そのまま放置する佳奈出。
そしてチャイムが響き渡る。
昼休み、急いで昼食を食べ美化委員の打ち合わせを最後に残し二つの打ち合わせから始める希。いつもの希とは思えないほど冷静かつ真剣に打ち合わせをし、資料に内容を会話を聞きながらまとめている。
保健委員会と選挙管理委員会の打ち合わせが終わった希は時刻を見る。もう昼休みが終わってしまう。美化委員の打ち合わせには手がつかなかった。
改めて里夢生徒会長の偉大さをわからせられると同時に興味が湧く希なのであった。
立花、佐遊は二つの打ち合わせをしている。佐遊は話すと面倒くさいが佐遊曰く大将や副大将の里夢や希の命令には忠実に従うためスムーズに打ち合わせが終わった。
ただし、議長や書記、会計、広報よりは自分は立場が上の存在という魔術師団長という設定に佐遊の中ではなっており、議長をリーダーとした書記、会計、広報は四天王。武田四天王や徳川四天王の立場らしい。有名な人物で言うなら本田忠勝当たりの武将よりは佐遊は上の立場にいる魔術師団。兼戦国時代で例えるなら鉄砲隊。
話さなければ議長でもおかしくないほど十分納得できるほど仕事をしっかりとこなすのである。
昨日一昨日と生徒会室にいたがこれも里夢の命令によって僕がいるときは話さないでくれと言われているので影が薄くいないように見えたが実はかなり要領よく話さず仕事をしていた。
進、美園は。美園は話すのが苦手なため進により会議が行われていたが問題が起きた。打ち合わせ相手は女性で進のことが好きな人物が多数存在したため打ち合わせの話がそらされる。里夢に隠れているようだが進も男女問わず人気を誇る女子っぽい男子生徒。何とか進の原動力で話を戻し、美園は打ち合わせの内容を記録していた。美園は一言も話さなかったがそれも希もわかっている。だからこそ進とともに行かせた。
美化委員の次に難しい問題の打ち合わせになると言われていた打ち合わせに背く叶美。内容は催し。広報は告知などを行う職務。イベントの企画を行うために何をテーマにするか決める打ち合わせである。
この件は叶美はクラスでの生徒での多数決という答えを導き出した。しかしイベントでも費用が掛かる。今回は一時保留で今日の生徒会で会計達と話し合うという結論になった。
生徒会役員。誰もが何の能力も持たないからこそ役員をしているわけではない。役員になれたのには理由がある。それが能力者であっても無能力者であってもだ。
そして、この打ち合わせすべてを一人でこなす里夢生徒会長。彼以上できた生徒会長は存在しないだろう。
この昼休み、生徒会打ち合わせ外でも問題が起きていた。
疲れながらも昼休み、里夢は体調が治ったのか校門から学校に入ろうとしたとき、彰が待っていた。
「来たようだな、里夢」
「なんだい?」
彰は里夢に近づいてくる。里夢は小柄だ。もちろん彰より背が低い。身構える里夢に彰はかがみながら里夢の頭を触った。
すると里夢は消えた。昨日屋上で佳奈出が消えたかのように。しかし、今朝は佳奈出は生きていた。今度は里夢が彰によって消された。
彰の能力とは、里夢の行方は。
彰は何者かと連絡を取る。
「俺だ、里夢を潰した。まだ佳奈出は潰れねぇか。そうだったな、特定はできてる。どう潰すか。悪用に入んのか?それよりも、生徒会権限。厄介な仕組みだな」
二年生でも新たな人物が現る。
「里夢生徒会長が消された?里夢生徒会長は大丈夫なんですか?」
「小鳥様、どうしましょう、あの彰という人物伊達に最強を名乗ってるわけではないですね」
「武力だけではなく能力も最強クラス」
「おや、どうしましたか?」
すると小鳥と鈴花の後ろから声がかかる。二人は二年B組。声の主は二年A組。
不知火雅(しらぬい みやび)。白髪でセミショートをしている。その姿はお嬢様を意識させる。
「雅さんですか?何か用ですか?」
「不知火さんですか、無能力者の」
小鳥は雅のことを雅さんと呼び鈴花は雅のことを不知火さんと呼ぶ。
「小鳥、何をしているのですか?」
「小鳥様に呼び捨てをするなんて、無能力者のくせに」
鈴花は雅に敵対心を抱いている。
「まあいいでしょう、小鳥、鈴花」
それだけ言うと雅は去って行ってしまった。
「大丈夫です、鈴花。彼女は無能力者の上に里夢生徒会長に興味もない上に里夢生徒会長と同じく全く恋愛意識がありません」
「しかし小鳥様を呼び捨てにするのは解せないですね」
「大丈夫ですよ、敵でもありませんから。それよりも今は彰さんですよ。どう対処しますか」
放課後、今日は里夢生徒会長がいないという緊急事態のためか叶美も集まり資料整理することになった。
しかし、希は驚いた。あまりもの資料の数に。
「この量を一人でやってたのかー里夢ちゃんは、あたしたちは全員合わせても2割なら里夢ちゃんは8割してたことになるよ」
あまりの資料の多さに生徒会役員が頭を抱える。
あらかじめ今日は部活を両立している人は生徒会を優先するようにと希は手を打っていたが正解だった。
「今日は大将がおらぬから話しても良いのだろう?」
佐遊が希に確認してくる。
「うーんとね、じゃああたしからの命令。今日もしゃべらないで?それから今日はいつも以上に本気でして、これ今日中に間に合わない」
「承知した、副大将の命令なら仕方ない」
逆に言えば佐遊は里夢と希以外の命令は聞くことはない。
希は生徒会役員の全員に言うのだった。
「もちろん資料が多いからって能力の悪用はだめだからね。生徒会権限によってどうなるかわかってるね」
立花は疑問そうに問う。
「ということはもしかすると里夢生徒会長の能力は能力を見破る能力ですかね」
「わからないんだよねー、里夢ちゃんの能力。進きゅんすらわからないんでしょ?」
「僕もわかりませんね、でも悪用する人には容赦ないのは分かります。里夢君のことだから悪用された後に発動する能力なのかも?」
佐遊は里夢と希の命令には忠実に従うため話すことなくいつも以上のペースで資料を処理している。
美園と叶美も話している暇はないことを理解しているため黙々と資料を処理している。
「まあ、今日は話してる暇ないね」
それからというもの生徒会室は静かだった。希だけ美化委員の残っていた打ち合わせに行き帰ってきていつもは終わる6時。普通なら終わる資料だが6割も残っていた。半分も終わってない。
「このままじゃ里夢ちゃんに嫌われちゃうー、あたしは残ってでも資料片付けるから帰っていいよ」
「僕も残ります」
「わ…私も」
「私もだよー」
「副大将、本気になる以上妾も全力を尽くす」
「では副会長、みんな残るようですね」
「多分学校から帰らせられる8時まで残ることになるよ」
「妾はついていくぞ」
実はこの6時までの間に一番資料を処理したペースが速かったのは副会長ではない。まさかの庶務、佐遊であった。
話さず本気で取り組めば人望と処理能力は希を超えていたかもしれない。
もうすぐ8時になってしまうため先生によって強制的に学校から帰らせることになった。結論から言えば3割残った。
「あたしが残りの資料やっとくよ。あーあ、今日は徹夜かな」
「僕も手伝いますよ」
全員手伝ってくれることになった。希は1割、そして一番早かった佐遊が1割、残りの立花、進、美園、叶美が1割を山分けするようにすることになり無事に長い里夢のいない生徒会は幕を閉じた。
佳奈出は夜、携帯でイヤホンをしながら何者かと通話を取っていた。
「なんとかなったがやっぱ最強だなあいつは、お前の能力しか勝ち目はねぇかもな。生徒会権限、破った人間はどうなるかわかってねぇみたいだな」
生徒会権限。新たに現れ始めたワード。この生徒会権限が佳奈出たち通話相手との何らかの鍵になるのかもしれない。その生徒会権限の意味とは。そして彰の能力を回避した佳奈出の能力とは。
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