第3話 広がっていく騒動
一年前、現在会計を務めている花夢美園は短髪ではなくオレンジ色の長い髪をしていた。彼女は生徒会長になる前の里夢を屋上に呼び出していた。
「で、話って何だい?」
彼女は里夢に自分の能力を打ち明け告白した。
「その、私は…里夢さんのことが…好きです」
「そうかい、それより君数学の点数がかなり良かったね。それにその能力なら僕の理想の学校になるかもしれないね、能力を悪用する学校という汚名返上をするために」
彼の返答はそうかい。それだけだった。そして話は切り替わってしまった。美園は美人だ。控えめと同時にネガティブな性格。その返答にフラれたと思った。実際は分からないが興味を示す素振りはなく勉強や生徒会の話ばかり。
「君の能力と数学の点数があるなら会計に向いているんじゃないかい?」
里夢からの提案。しかし美園に立候補する勇気はない。
「でも…私に立候補する勇気は…」
すると屋上から話を聞いていたのか一人の人物がこういったのだ。自分が美園を会計に推薦すると。
「なぜ君が…」
それをきっかけに美園は意識を入れ替え会計に推薦されたと同時に髪を切った。短髪になった。しかし美人に変わりはない。
このように美園と同じく告白する女性は何人かいた。しかし里夢の返答はそうかい。その一言。全く態度を変えることや顔を赤くすることはない。
その話は噂となり学年中に響き渡った。紅里夢は恋愛意識そのものがないと。それからというもの好きではあるが恋愛意識そのものがない里夢に告白するだけ無駄で手に届かないと思い始める女性たちは増えていっている。
もちろん生徒会関係以外で女子と二人きりなんてありえない。そのレベルで恋愛に疎い。
その中でもあきらめていない者、生徒副会長、朝比奈希。議長、柊立花。会計の美園は諦めているかどうか不明だがダメージは受けている。何らかの能力を使い里夢を自分のものにしようとしている陸上部の部長、姫先小百合。新たに進との光景を見て目覚めてしまった男、津山涼。謎多き人物、井之口佳奈出は好きなのか嫌いなのかさえわからない。さらに三年生だけではない。精霊を操り偵察している峰小鳥。そしてその従者、秋野鈴花。
様々な方面から狙われている紅里夢。しかし、彼を落とすのは至難の業である。
彼は誰かに振り向くことがあるのか。
そして現在に至る。
昼休みにコンビニで買ったであろうおにぎりと野菜ジュースを急いで飲んでいる。
「里夢君っていつも野菜ジュースだよね」
「そうだよ、健康にいいからね」
「体にも気を遣ってるんだね」
「もちろんだよ、僕は生徒会長だからね、病気にかかるなんて恥ずかしいことしてる場合じゃないからね。君も体にいいものを飲んだ方がいいよ」
「そうだね、二年生の時里夢君皆勤賞だったもんね、僕も里夢君見習わないと」
「おっと、急いでいるんだ。今日の昼休みは打ち合わせがたまっていてね。先に行かせてもらうよ」
「頑張ってねー」
里夢が行ってしまうと進の前に何者かが現れる。
進はその人物と里夢について話すことになった。
昼休みも終わりに近い。
「今日は美化委員会以外問題がなかったから9件片付いたな。明日は7件だから休憩する時間があるかな。よし、教室に戻ろう」
里夢はとんでもない量の打ち合わせ、会議を昼休みにしていたのである。
一方二年生組、小鳥とその従者、鈴花は。
「小鳥様、昨日は帰りに里夢生徒会長ではなく立花議長に会ってしまいましたね」
「そうですね、そして立花議長ではなく名前が判明しました、井之口佳奈出さんに先を取られてしまいました、しくじりましたね」
「しかし立花議長はなぜ私たちの能力を聞いてきたのでしょうか?」
「わかりませんね、私は隠す必要がありませんが貴方は無能力者を貫いてくださいよ、早くて今日実行してもいいかもしれません」
五時限目と六時限目の休憩。生徒副会長に資料を届けにB組に向かう里夢。
向かっていると生徒会のメンバーを見つけた。
「広報…」
生徒会広報、緑川叶美(みどりかわ かなみ)。身長は女性にしては高く160前半、里夢が子供にしか見えない。その腰まで伸びている長い黒髪の女性は黒が似合う。身長が高く怖がられていると思われがちだがいつも満面の笑みをしていて穏やかな性格。誰にでも優しい。里夢を除き。この人物は二年の時から里夢にだけは当たりが強くいつも里夢を困らせている。唯一里夢に慕わない女性ともいえる。しかし一応生徒会長呼びはしている。
さらにこの人物は里夢と同学年の赤髪の不良、新藤彰が推薦した人物。新藤彰の威厳もあってか広報の座に就いた。確かに広報としての役割はこなしているが彰との関係は不明。
「君は昨日生徒会室に来なかったねほんとに」
「ちょっと用事あったからー、里夢生徒会長ー」
緩やかな口調とは裏腹に里夢にだけは当たりが強い。
「叶美、希に資料を届けてくれないかい?」
「めんどくさーい、自分で行ったらー?」
「はぁ…君の扱いは難しいな」
なぜか嫌われているようなことはしていないのに当たりが強い叶美に言われ仕方なく自分で届けに行くことになった。
「希はいるかね」
「里夢生徒会長、呼んできます」
するとものすごいスピードでやってくる希。里夢は抱き着かれることがわかっていたので反射的に避けた。が、掴まった。
「離せ、資料を持ってきただけだ」
「え、会いたかったんじゃないの?」
「なんでそうなるんだ、もう授業が始まるよ。三分前行動は基本だろう、席に着きたまえ」
資料を受け取った後ガシッととらえられる。
「離せ、僕は戻らないといけないんだ。あと叶美に今日は生徒会に来るように言っておいてね。僕が言っても聞かないからね」
「しょうがないなー、貸しだよ」
「なんでそうなるんだ、言ってくれるくらいいいじゃないか」
「じゃあ今日一緒に帰ろうよー」
「全く話と関係ないじゃないか、とりあえず僕は戻るよ、もう時間だからね」
「約束だからねー」
離されたがなぜか一緒に帰ることを強制されてしまった。
放課後、美化委員会に呼び出された里夢は生徒会室に遅れるように言っておくように進に行って会議室で会話していたため数分遅れることとなった。会議室を出ようとすると待っていたかのように携帯を片手に持っている佳奈出と遭遇した。
「佳奈出か、どうしたんだい?」
「緊急だ、里夢生徒会長。今日の5時ごろ放課後に屋上に来てくれ」
「緊急?何かあったのかね?」
それだけ言うと去って行ってしまった。
「今日の5時か、あと一時間近くあるな。緊急なら行くしかなさそうだ、なんだというんだ」
生徒会室では里夢と叶美を除き他の役員が資料の整理をしていた。
「叶美遅れるって言ってたけど遅いねー、里夢ちゃんは美化委員会なんでしょ進きゅん」
「はい、そうですよ、遅れるって言ってましたからね」
「すまない遅れてしまったな」
「里夢ちゃーん」
「だからちゃん付けするなと言っているだろう。あと抱き着くな暑苦しい」
里夢は希を払いのけ席に着く。
「今日は5時からもどうやら緊急事態があるようだから抜けさせてもらうよ」
「緊急なら仕方ないねー」
「今日も叶美は来ていないようだな全く、生徒会の自覚があるのか」
「体調不良とかかな?」
「体調管理もしっかりとできないとは無責任だな」
「遅れるとは言ってただけだから来るとは思うよー」
「まあいい、美化委員のポイ捨て騒動くらいだ大きな問題は、あとは小百合が勝手に部費を使わないかくらいか、何か報告は?」
「現状美化委員を除き他は問題ないかと」
「ふむ、そうか立花。まとめた資料を持ってきてくれ」
「わかりました」
大量の資料を里夢は処理していく。
仕事はスムーズに進み5時近くになってきた。
「そろそろ5時になってしまうな、三分前行動は基本だ。行ってくるから頼んだからね希」
「おっけー」
結局5時になっても広報の叶美は来なかった。
同時刻、屋上では佳奈出が携帯をいじりながら待っていた。
そしてそこから現れたのは里夢ではなく新藤彰。赤髪の不良と金髪のギャル。
「佳奈出か」
「なんだ?」
身長では佳奈出より彰のほうが大きい。彰は佳奈出に近づき佳奈出の頭を触った。
すると佳奈出は消えた。
彰は何者かに連絡を取る。
「俺だ、佳奈出は潰した。まあそうだな。ある意味俺の能力は最強だ。裏でこそこそしてる連中を叩きのめす。俺たちの理想の学校に塗り替えるためにな」
通話は切られる。
新藤彰は学年で最強と呼ばれる人物。伊達に最強と呼ばれているわけではない。喧嘩以外にも何かしらの能力を持っていた。それによって佳奈出は敗れた。しかし、殺害行為はもちろん禁止である。血の一滴もない。佳奈出の生死は不明。
何も知らない里夢は三分前行動をし屋上へとやってきた。そこには佳奈出ではなく彰が立っていた。
「ん?なんで君がいるんだい?佳奈出は知らないかい?」
「なんか問題があったのか?俺が解決したから問題ないぜ」
「なんで君が出てくるんだ?佳奈出と仲が良かったのかい?」
「さぁな、生徒会の仕事が溜まってんだろ?」
「解決したんだね?」
「おう、解決したから問題ねぇ」
「じゃあ僕は仕事に戻るよ」
彰は見送るのであった。謎の人物佳奈出を倒した彰。彼も謎が多い。
「どうやら片付いていたようだったよ」
生徒会室に戻ると叶美も戻ってきていた。
「遅かったじゃないか叶美」
「別にいいでしょー」
やはり里夢にだけ反抗的的態度を取る叶美。
「もう少しで6時か。今日と明日は大した量ないね」
生徒会活動は6時で終了にしている。
「もう遅いし帰っても大丈夫だよ」
「お疲れ様です里夢生徒会長」
「お…お疲れ様です」
「お疲れー」
進と帰ろうとするが一人帰らない少女がいた。
「里夢ちゃん忘れてない?」
「なんだい?」
「あたしと帰る約束したよね?」
「仕方ないな、抱き着いてくるなよ」
里夢と進、希の三人で帰ることにした。
「里夢ちゃんと進きゅんって好きなタイプとかいないの?」
「僕はかっこいい人ですね」
「進、君は男だろう?」
「里夢ちゃんは?」
「僕は速く仕事をしてくれる人だね」
「あたしのことだね」
「どの口が言うんだ」
「里夢ちゃんの理想って能力の悪用による禁止だよね?」
「そうだけどそれがどうしたのかね?」
「じゃあ里夢ちゃんの能力って悪用している人を裁く能力とか?」
「さぁね」
「能力の悪用ってどこまで許されるの?能力を使って生徒会長の座に就くことは許されないんだよね?じゃあ恋愛とかって許されるの?」
「悪用した人が上に立っても悪い学校になるだけだからね。恋愛に興味ないね。好きな人が嫌がらなければいいんじゃないかな」
「ふぅん、なるほどねー、あたしあっちだからじゃーねー」
「お疲れ様です、希副会長。ところで里夢君って好きな人とかいないの?」
「僕の好きな人か、あまり興味ないな。君くらいがちょうどいいよ」
「え?僕?」
「気を遣わなくて済むからね、まあいい、僕の寮はあっちだからお疲れだね進」
「う、うん、お疲れ里夢君」
数分後、佳奈出が消えてしまったので家に着いた里夢を監視していた小鳥。
「出し抜かれましたか、今度は生徒副会長に。それになんなんですか、金髪の佳奈出さんを消すあの方は学年最強の彰さん、あの能力は危険です。それに私たちは勘違いしていたのかもしれませんね」
「どうなされたのですか?小鳥様」
「聞いてしまいましたアゲハは。進さんです、進さんのような男の人が好きなのかもしれません」
「敵は三年女子だけだと思っていましたが三年全員ということですか」
「そのようです、ですが恋愛で私たちのようなストーカー行為は嫌がらなければいいとも言っておられました。バレなければ悪用ではないということですね」
「ストーカーしてる自覚あったんですね…」
「ですがこの勝負、私たちが協力しても男が好きなら勝ち目がありません」
困り果てる小鳥と鈴花。
里夢の言葉により特に里夢のことは意識していなかった進は意識し始める。
「も、もしかして女子のいろんな美人な人や可愛い人をフッて来てるのって本名は僕だったのかな?確かに二年になってからずっといるし一番長くいるし」
昼休み、それは里夢が会議に行ったとき進と話していた人物。津山涼。
「なるほどな、好きな飲み物は野菜ジュースか、だが、俺の宿敵進は気づいてないだろうな。俺こそ里夢生徒会長を手に入れるとな」
男同士の戦いまで幕を開ける。
「ふむ、今日も陸上部に顔を出してくれぬな、我は寂しいぞ我が旦那よ」
陸上部の姫先小百合も作戦を練っているが疑問を浮かべる。
「里夢の能力は何なのだ?我の能力が効かない、能力を無効にする能力か?」
会計、花夢美園。
「私の能力は無力です…でも里夢生徒会長は私の能力を飼ってくれた。思いが通じなくても私は里夢生徒会長の役に立って見せる。その時が訪れるまで」
里夢は美園の能力を知っている。
議長の立花の元へ赤いトンボのような生き物が現れた。
そう、それは小鳥と似たような精霊。精霊を操れる能力を持っていた。
「そうですかアカツキ。また副会長が手を出してきましたか。副会長が攻めてきてますね、会計と広報は敵ではありません。むしろ広報は好意すらありません。しかし佳奈出さんと副会長ですか」
希は部下らしき人物と話をしている。
「嫌じゃない?嫌じゃなかったらおっけーって言ってたからねー、じゃあこのまま続行しますかー」
希の人望は高そうだ。
実は里夢に対して反抗的な広報、緑川叶美も里夢を狙っていた。
「里夢生徒会長は女子自体に興味ないからねー、なら私に嫌われてそれに傷ついたところを慰める。推してだめなら引いてみる作戦だよー」
里夢に対する反抗的態度はわざと。好きだからこそわざと嫌われるような真似をして振り向かせる心を出させようとしているのだ。
「それにこの作戦なら希ちゃんや立花ちゃんにも敵対することもないしねー、まず私を敵の一人として認識すらしてないんじゃないかなー」
新藤彰、佳奈出を潰したと何者かと連絡を取っていた。新藤彰の目的は。繋がっている人物とは。
新藤彰によって潰された井之口佳奈出。生死不明。さらに消えた。人間ですらなかったのかもしれない。佳奈出の行方は。
この学校の謎はまだまだ隠されている。そして里夢生徒会長の能力とは。
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