おみくじ

賽銭箱までの長蛇の列の順番待ちを、タコ焼きやら焼き鳥やらを食いながら耐えた後、俺達はやっと『初詣』をすることができた。


いつもの年なら、100円玉1枚。

でも。

今年はなんとなく、100円玉3枚。

賽銭箱に投げ込んで、神様への願い事をする。


何を願うか。

そんなことは、決まっている。


今年もみんなが元気で楽しくいられますように。


たった300円程度で、とんだ願いだとも思うけれども。

俺の願いは、いつも同じ。

ただ、【みんな】の人数が、どんどん増えていくだけだ-残念ながら、偶に減ってしまうこともあるけれど。


「ねー、おみくじ、引こうよ!」


夏川の言葉に、俺達はみんなでおみくじを引くことにした。

結果。


藤沢 : 小吉

夏川 : 凶

悠木 : 大吉

俺 : 中吉


「げっ・・・・凶だ・・・・」

「え?!」


がっくりと項垂れる夏川に、悠木が珍しく食いつく。


「見たい」

「あ・・・・うん」


夏川の引いたおみくじをシゲシゲと眺め、悠木は言った。


「本当に、あるんだ」

「なにが?」

「凶。初めて見た」

「うそっ!」

「大吉しか、引いたことない」


涼しい顔をしてそうのたまう悠木に、藤沢、夏川、俺の視線が一斉に注がれる。


いるんだな、本当に。

すげー強運の持ち主って。


「・・・・なに?」

「「「いや」」」


視線に気づいた悠木が小首を傾げたが、俺達は黙って各々のおみくじへと視線を落とした。


その後、それぞれのおみくじを見せ合った所、結果はこうだった。


【学業】

藤沢 : 諦めるのはまだ早い。勝負はこれから。

夏川 : 今は暗闇。されど、信じた道に光あり。

悠木 : 順風満帆。心配無用。

俺 : 努力は必ず報われる。ただし、継続を怠るなかれ。



【恋愛】

藤沢 : 疑わざるべし。なお、誤解の相あり。注意すべし。

夏川 : 疑わしき行動は、厳に慎むべし。

悠木 : 己の心を見つめるべし。信じることが肝要。

俺 : 忍耐の時。己の想いが試される。



「この神社のおみくじって、結構当たってるって評判なんだよな」


藤沢が、ポツリとそんな事を言う。


「俺、何を誤解されるんだろう?」


俺を含めた3人の視線が、一斉に藤沢へと注がれる。


ウソだろ、藤沢。

もう既に誤解され始めてることに、早く気付け!


「疑わしき行動なんて、あたし、しないけどなぁ・・・・ねぇ、四条?」

「なんで俺に聞くんだよ?」

「なんとなく」


目の前で、藤沢がジトッとした目を、俺に向けて来る。


頼むよ、夏川。

それだよ、それ!

言われたそばから疑わしき行動をするんじゃないっ!

それから、藤沢っ!

疑わざるべし、だろっ!

夏川を疑うんじゃないっ!


「信じる・・・・」


そう呟いて、悠木がダサメガネ越しに、じっと俺を見る。

とたん。

一瞬頭を掠めてしまった昨晩のヤマシイ衝動が思い出され、俺はつい、視線を逸らせてしまった。


「しじょー?」

「なななんだよ?」

「なんか、したか?」

「してねえよっ!」


気付けば、俺以外の3人の疑わし気な目が、俺を見ている。


「なんもしてねぇってばっ!」


直後。

クスッと笑い、悠木が言った。


「信じる」


あ~・・・・良かった。

あの時の俺、よく頑張った、よく耐えた!偉いぞ、俺っ!


「さて、帰るか」


【凶】の夏川のおみくじだけ所定の場所に結び付け、俺達は参道を歩き出す。

スッと隣に並んだ藤沢が、慰める様に俺の肩に手を置いて、小さな声で言った。


「ドンマイ、四条」

「・・・・ああ」


忍耐、な。

言われなくたって、分かってるさ、そんなこと。

ほんと、嫌になるほど当たってるな、このおみくじ。


つーか俺達、高校生だけど。

誰一人、【学業】について話題にしないって、どういうことだ?

ま。

高校生=青春真っただ中、だし。

仕方ないか。

そう悪い事が書いてあった訳でも、無いしな。

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