バレンタイン①

2月14日。


別に、気にしてない。

ガキじゃないんだから。

チョコのひとつやふたつ、なんだってんだよ。


ってのは、もちろん建前。


今年こそ俺、一個も貰えないかも・・・・


と。

内心はどんよりドヨドヨだ。


バレンタインなんて、この世から無くなっちまえ!


そう思いながら、何食わぬ顔で校舎に入ったとたん。

右肩が、軽く叩かれた。


「ん・・・・いてっ!」


振り返った頬に、突き刺さる指。

こんなことする奴なんて、あいつくらいしか・・・・


「夏川っ、お前いい加減に・・・・へっ?!」


勢いよく左後ろに振り返った俺の目の前にあったのは、ラッピングが施されたチョコレート。


「はい。これ、四条の」

「えっ?」

「ま、義理だけどね」


そう言って、夏川は照れくさそうに笑う。


お前、いいのか?こんなことして。

おみくじにも書いてあっただろ、【疑わしき行動は、厳に慎むべし】って!


俺の方がなんだか罪悪感を感じて、藤沢の姿が無いか、辺りをキョロキョロと見渡してしまう。

見たところ、藤沢の姿は無いようで、俺は内心ホッとした。


「さて、四条は今年、何個貰えるかな~?」

「・・・・これだけ、だろな」

「ふうん?可哀想に」

「笑いながら言うな」

「えへへ」

「つーか、本命にはもう渡したのかよ?」

「やだ~、まだに決まってるじゃん!」


直後。

夏川は、乙女オーラ全開な笑顔を浮かべる。


そうか。

お前、藤沢の事がそんなに好きか。

なら、大丈夫だな、俺が余計な心配なんかしなくても。


そう思ったとたん。


「今日、学校終わったら、ソッコーでイベント行って渡してくるんだっ!」

「・・・・はぁっ?」

「ルイに、ね」


そっちっ?!


「だって~、ほら、去年、ホワイトデーにメッセージカード、貰っちゃったじゃん?ネット見てみたけど、あんなメッセージカード貰ったなんて、誰も言ってないのよ。もしかしたら、貰ったの、あたしだけかもしれないんだよ!これはもう、今年も絶対、渡すでしょ!あ~・・・・愛しのルイ、待っててね、今日も絶対会いに行くから!」


浮かれ気分で呟く夏川の姿を横目に、俺はまた慌てて、周りに藤沢の姿が無い事を確認してしまう。


「おい夏川。お前、間違ってもそんなこと、藤沢の前で言うなよ?」

「え?なんで?」


夏川は、キョトンとした顔で俺を見る。

本当に、何の事やら分からないらしい。


ウソだろ?!

なんで俺の周り、こんな鈍感だらけなんだよっ!


「あのなぁ、藤沢はお前が思ってるより・・・・」

「俺が、どうかしたか?」


げっ。


振り向けば。

いつの間にか、背後に藤沢が立っていた。


「おはよー、藤沢」

「ああ、おはよ」


夏川がすぐに藤沢に駆け寄り、鞄の中からラッピングが施されたチョコレートを藤沢に渡す。


「はい、これ。藤沢の」

「あ・・・・ありがと」


フニャリとデレる藤沢の顔に背を向けると、俺はそっとその場を離れ、自分のクラスへと向かった。


夏川、頼むぞ。

藤沢の前で、ルイ愛なんて爆発させてくれるなよ。

いくら藤沢がルイの正体を分かっていると言っても、あいつ、きっといい気持ちしないだろうからな・・・・



クラスに向かう途中で、スマホがメッセージを受信した。


【今日、仕事】


悠木からだった。

今日は1日仕事らしい。ということは、学校は休みか。


【夜、ちょっとだけ、いいか?】


多分また、食いきれないほどのチョコを抱えて来るんだろう。

去年みたいに。


【うん】


短く返信をすると、すぐに既読が付く。


あいつ、どんだけチョコ貰うんだろうな。


艶やかな笑顔を振り撒きながら、女子達に囲まれて黄色い歓声に包まれているルイの姿が、容易に想像できる。

それでも、なぜか。

俺には『羨ましい』と思うことができなかった。

去年の今頃なら、確かに『羨ましい』と思っていたのに。

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