公園にて①

「・・・・悠木?」


買い物帰り。

通りがかった公園で、たまたま、見知った人物の姿を見つけた俺は、迷うことなくそいつに近づいた。


「・・・・あぁ、しじょー」


ほんの少し目を開けただけで、悠木はまたすぐに目を閉じてしまう。

こいつの眠い病にも、いい加減もう馴れはしたけど、それでも時々度肝を抜かされる時がある。

いつでもどこでも寝てしまう、こいつのおかしなクセに。


「お前なぁ・・・・頼むから、場所くらい考えて寝てくれよ。そんなに眠いなら、家に帰って寝ればいいだろ?何も真っ昼間の公園で寝ないでも・・・・」

「・・・・買い物」

「は?」


億劫そうにようやく体を起こし、悠木はいつものダサメガネ越しに、無表情で俺を見る。


「買い物に行く途中」

「・・・・で、眠くなってここで寝てたのか?」

「そう」

「・・・・・・」


でた。

これだよ。

当然とでも言いたげに、誰もが呆れてしまうような事を平気で言うから。

しかも、いつもそんな無表情で不愛想だから、友達が少ないんじゃないのか、お前は。


「はぁ・・・・」


こいつにかかると、返す言葉も見つからない。

出てくるのは、ただため息だけ。


「しじょー」

「・・・・なんだ?」


もう、こいつには何も言うまい。

そう思って何気なく悠木に答えた俺は、きっとものすごく油断していたんだと思う。

ダサメガネを外した悠木に向かって、一瞬強い風が吹き付け、ボサボサの前髪が吹き上げられたその瞬間。

悠木はあの、犯罪級に美しいグレーの瞳を綺麗な形に細め、ニッコリ笑って俺を見ていたのだ。


なっ・・・・なんだお前っ!!

そっ、そんな笑顔は、男に向けるもんじゃないだろっ!

周りの女子にでも向けとけっ!

まったく、自覚無しに悠木の笑顔にドキッとさせられて、俺がどれだけ焦ったか。

どうせいこいつは、何もわかってないんだろうけど。


「お前って・・・・ヘンな奴だな」

「なっ・・・・」


思わず目を剥いて悠木を睨み付ける。


どの口が言ってんだっ!

それはこっちのセリフだろっ!

間違っても、お前にだけは言われたくないっちゅーのっ!


言い返してやろうと口を開いたとたんに、今度は犯罪級のグレーの瞳を伏せ気味にした、悠木の翳り顔攻撃。


「オレに構って、楽しい?」


お・・・・お前なぁ・・・・

いちいちバクバク反応する心臓に、俺の頭はだいぶ混乱していたのだと思う。

そうだ。そうに違いない。

そうじゃなければ、こんなこと、言うはずが無い。


「あぁ。すげー楽しい」

「・・・・ヘンな奴・・・・」


だからそれは俺の・・・・

俺が口に出す前にまた、悠木は笑顔を浮かべて俺を見る。


「でも、オレも何だか楽しい。お前って、不思議な奴だな」

「そ、そうか?」


って。

何照れてんだよ、俺っ!!


自分にツッコミを入れたいくらいだったけど。

なんだか悠木に対しては、悪い感情なんて全く持てない。

俺に言わせれば、不思議な奴は、お前の方だ。

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