出会い

『ねぇ、知ってる?1年に、モデルやってる超イケメン男子がいるんだって』

『えー、うそー?!だれだれ?!何組?!』

『それなー。誰も知らないんだって』

『えー?じゃ、モデルなんていないんじゃないのー?』

『いや、そのモデルが言ってたらしいよ。今年からうちの学校に通うんだって』

通りすぎ様に、女子達の会話が聞こえた。


モデル?

1年って、俺と一緒じゃん。

少なくとも、うちのクラスじゃないな。

超イケメン男子なんて、見たことないし。


ぼんやりとそんなことを思いながら廊下を歩いている俺の背中が、後ろから思い切りどつかれた。


「ぐぁっ・・・・」

「ね、四条。誰だろうね、モデルやってる奴って」

「・・・・知らねえよ。それよりお前、いきなり後ろからどつくの、いい加減やめ」

「はいはい。それより今日こそ絶対、帰り待っててよっ!」

「いってっ!お前なぁっ!」


『よっ!』と共に思い切り夏川にはたかれた肩が、ジンジンと痛む。

当の夏川は俺を置いてさっさと自分のクラスに戻っていった。

もうそろそろ、六時間目が始まる時刻。

確か次は・・・・数学。


あー、かったりぃ。


頭の中に現れた小難しい顔の数学教師の顔を、頭を振って追い払うと、俺は何気なく渡り廊下から下を見た。


ん?

・・・・んんっ?!


そこに見つけたものに、俺は思わず足を止めた。


嘘だろ?!

何やってんだ、あいつ。

なんて大胆な・・・・


ちょうどその時、始業のベルが鳴り響いたが、俺は教室の方へ背を向け、階下へ続く階段を駆け降りた。



「おい・・・・おいっ!」


綺麗に刈り込まれた芝生の上。

無防備に寝顔を晒している奴の頬を、軽めに叩く。


「・・・・んっ・・・・」


ゆっくりと、瞼が持ち上がり・・・・


「もう、昼、終わったのか?」


まだまだ眠たそうな瞳が俺を見る。

想像もしていなかったその瞳は、もはや犯罪だろうと思うほどに綺麗なグレーの瞳で。

だがそれ以上に、そいつの言葉に、俺は耳を疑った。


こいつ一体、いつからここで寝てたんだ?!


「お前、寝ぼけてんのか?今、六時間目だぞっ?!」

「え?・・・・あぁ、そう」


さして驚いた様子もなく、そいつは再び眠りに落ちようとする。


「まて・・・・まてまてまてっ!とりあえず、場所変えるぞ」

「なんで?」

「なんでって・・・・丸見えなんだよここ!上から!」


俺が指を指した方向にあるのは、ついさっきまで俺が居た渡り廊下。


「あぁ・・・・」

「だから、寝るなってっ!」


興味無さそうに、三たび眠りに落ちようとするそいつを無理やり抱え起こし、放っておくと立ったまま寝てしまいそうなそいつの手を引いて、俺は校舎裏へ移動した。

知らない奴だったし、別にそこまでしてやることも無かったけど、あんな誰からも丸見えなところで無防備に寝ているそいつを、何だか放っておく事ができなくて。

モサッとした、まるで寝て起きてそのままのようなボサボサ頭の、これまた『どこで売ってんだそれ?』と聞きたくなるような、モッサリとした服を着た、どうにも心許ないそいつのことが。


「ここなら、いいだろ」


手を離して振り返ると、そいつは既に校舎に背中を預けて座り込み、目を閉じていた。


「お前なぁ・・・・ま、いっか」


俺も並んで腰をおろす。


「俺も寝るからな。お前の方が早く起きたら、起こせよ」

「・・・・わかったよ、四条」


隣から、小さい声が返ってくる。


よし、と。

じゃ、俺も寝るか・・・・

・・・・

・・・・ん?


「お前、俺のこと、知ってんのっ?!」


思わず大声を出してしまったが、返ってきたのは寝息だけ。


いったいなんなんだ、こいつ。


そう思いながらも、俺はそいつの隣で目を閉じたのだった。

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