愛しの眠り・・・・姫?!
平 遊
一年目
予期せぬ再会
『四条~!四条いないの~っ?!もうっ、待っててって言ったのにっ!!』
放課後の教室。
ロッカーの影に身を隠し、俺は息を潜めて夏川が立ち去るのを待っていた。
高校進学を機に、小学校低学年まで暮らしていたこの町に、俺は1人で戻ってきた。
この町が好きだったし。
親父と母さんも数年すれば、また転勤で戻って来るようだし。
それになにより、今は亡きじいちゃんとばあちゃんが住んでいたこの家が、俺は大好きだったから。
懐かしい町で、新たな出会いをして、可愛い彼女を作るべしっ!!
そんなでっかい期待を胸に、この町に戻ってきたというのに。
高校入学初日に、俺は一番面倒な女と再会してしまったのだった。
夏川 亜由実。
保育園、小学校とずっと同じで、何故だかやたらと俺に構ってくる奴、という思い出しかない。
女のくせに(あ、この表現は、今はマズイのか?でも、敢えて言わせてもらえば)暴力的だし。
パンチ、蹴りなんて、日常茶飯事。
ほんと、いつでもクラスの番長的な。
「あれっ?もしかしてあんた、四条 夏希?四条だよねぇ?やだー、全然変わってないじゃん!すぐわかったー!!」
「は?」
「まさか、あたしのこと、忘れちゃったの?!あんなに仲良くしてあげたのにっ!あー、それとも、あんまりにもあたしが可愛くなっちゃって、分かんないとか?やだーもうっ!」
「ぐえっっ・・・・ってぇ・・・・」
『もうっ!』の言葉とともに背中を思い切りはたかれ、その痛みと共に脳裏に甦った名前。
確かに、癪には触るが、ガキの頃から見れば随分と可愛くなったと思う。
制服の無いこの高校は、私服のセンスもそれなりに問われることになる。
その、私服のセンスを含めても、黙っていれば、それなりの女には見えるだろう。
この暴力さえ無ければ。
この狂暴さ、間違いない。
こいつは・・・・
「夏川・・・・」
「やっぱ憶えてんじゃんっ!偉いぞ、四条っ!」
ガキの頃と全く同じ距離感で、夏川は俺の頭をワシャワシャと撫でまわす。
「おまっ、なにすんっ・・・・」
「楽しい高校生活になりそうだねー、ヨロシクね、四条」
「離せっ、おいっ!」
高校入学の初日。
俺はせっかく朝から時間をかけてセットした髪を夏川にメチャクチャにされ、半ば引きずられるようにして腕を組みながら、校舎に足を踏み入れたのだった。
・・・・夏川とクラスが違っていたことだけが、せめてもの救いだったが。
入学以来、俺はすっかり周りから『夏川の彼氏』認定されてしまったらしく、
懐かしい町で、新たな出会いをして、可愛い彼女を作るべしっ!!
という俺の野望は、早くも打ち砕かれてしまったのだった。
嘘だろ・・・・俺の高校生活、いったいどうなっちまうんだよ・・・・
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