第51話 二人の焦り

 残暑厳しい、駅の近くの公園。

 まだまだ薄着の人たちであふれている。

 とはいえ、早朝なので、すこしは過ごしやすい。そこに、カードを構える二人がいた。

「いくわよ。カンサ・マーチ!」

「では、ゆくぞ。カンサ・ジュラ!」

 ネネとササメがカンサを呼び出し、辺りがイマジン空間で塗り替えられていく。周りは紫色になった。

 発育のいいネネのカンサ・マーチの武器は、弓矢。

 スレンダーなササメのカンサ・ジュラの武器は、槍。

 距離をとれば、マーチのほうが有利。だが、中距離ならジュラのほうが一枚上手になる。

「ここよ!」

「させぬ!」

 飛んできた矢を迎撃するジュラ。人間業にんげんわざではない。

 カンサは人間ではないのだ。鎧の姿をしているものの、中身を見た者はいない。カンサ使いによって操られている、いわば人形。その正体は不明だ。

「しまった」

「ぬるいわ」

 一気に踏み込んで、ジュラが突きを繰り出す。

「うっ」

「なんと」

 攻撃を受けた瞬間、マーチも攻撃を繰り出していた。弓矢がジュラにヒットする。

 焦るネネ。ササメも、焦っていた。

「これでも、届かないの」

「強い思いなら、もう持っておるのに」

「どうしてなの」

 二人の目に、涙がにじんでいた。戦いの中で、ロウケの力を手に入れることができない。それが、この上なく悔しいようだ。

 焦ったような表情を隠さない二人が、それぞれカンサをしまった。

 イマジン空間が消えていく。紫色に染まっていた景色が元に戻った。

 ついでに、いつもなら壊れた建物が元に戻る。今回、壊れたものはなかったので、特に何も変わらなかった。

 元の空間に戻ったことで、じりじりと暑さが襲ってきた。

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