第26話 二人の戦い

 駅の近くの公園。

 道行く人たちは厚着。吹く風がこごえるように冷たい。

「では、いくぞ」

「望むところだ!」

 マサトの発する声に、アラタが答えた。二人がカードを取り出す。

 アラタは右手に一枚。マサトは両手にそれぞれ一枚ずつ持っている。

「カンサロウケ・オーガ!」

「カンサ・ジャニュ!」

 鎧姿のカンサを召喚したことで、辺りが紫色に染まる。イマジン空間だ。

 イマジン空間では、寒さが和らいでいた。二人が上着を脱ぐ。

 その二人は紫色に染まっていない。あとは、呼び出したカンサロウケとカンサも。

 マサトとアラタが戦っている。

 といっても、本人たちが直接戦っているわけではない。呼び出したカンサロウケとカンサに指示を出して、戦い合わせているのだ。

 カンサは分厚い鎧姿。ガシャリと音を鳴らす。対して、カンサロウケは薄手の鎧姿。カシャンと軽めの音を鳴らす。だが、パワーはカンサロウケのほうが上。

 それを、周りの紫色に染まった人たちが誰も見ていなかった。

 カンサやイマジン空間は、一般人には見えないのだ。

 手ごわい相手に、アラタはまったく気が抜けない。

 前回とは違い、今回は本気のように見える。

「まだだ!」

「そうだ。恐れずにかかって来い」

 横薙よこなぎの攻撃は、盾ではじかれた。ジャニュがよろめく。そこを、オーガは見逃さない。素手の一撃を加えた。

「ぐっ」

「どうした? 兜山かぶとやま

 カンサのダメージはカンサ使いと連動している。パンチをくらったことで、アラタは痛みを感じたのだ。

「まだまだ!」

「その意気だ」

 激戦が続く。戦いの場は公園の外へ。素手と剣が、周りの建物を壊していく。

 そして、戦いが長引いたことでマモノが現れた。イマジン空間を長く開き続けると、マモノが現れるのだ。

 アラタが口を開ける。眉を下げた。

「しまった」

「任せろ。ラストアーツ!」

 マサトが叫ぶ。オーガが特別な大技を構えた。

 シールドバッシュがキリンのようなマモノに命中。すぐに大爆発が起こる。

「うおっと」

「まだ、慣れないのか」

 イマジン空間での爆発は、カンサ使いには影響しない。熱くもない。アラタは、条件反射でびっくりしていた。いまだにクセが抜けない。

 カンサロウケ・オーガをしまうマサトと、カンサ・ジャニュをしまうアラタ。イマジン空間が消えていく。

 戦いで壊れていた建物が元に戻った。イマジン空間での破壊は、現実世界には影響しないのだ。

 二人が寒そうにしている。

 ほぼ同時に上着を着た。そして、ベンチに座った。

「これでも、ロウケには届かないか」

「まだ、思いが足りないようだな」

「思い、か」

「戦いをやめさせたいんだろう?」

「ああ」

 アラタは、右手を強く握った。その思いをどうすれば強くできるのか、つかみかねている様子。

「その思いを、もっと強くするんだ」

「だーっ。やっぱりわかんねえ」

 悔しそうに天をあおぐアラタ。それを見つめるマサトは、どこか優しそうな表情をしていた。

「じゃあ。一人にさせてくれ」

「おい。マサト!」

 マサトは、足早に去っていく。誰とも関わらないことがマサトの願い。それにしては、アラタに親切にしてくれる。

 アラタには、いまだにマサトの心が理解できなかった。

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