第16話 梛川ササメ

 梛川なぎかわササメの精神は、高揚こうようしていた。

 社長室に入ってきた部下が、カードを渡したからだ。

「社長に、献上けんじょういたします」

 右手にカードを持った瞬間、頭の中に声がひびいてきた。

 まったく聞いたこともない声だ。

「バトルロイヤル。願い、か」

 説明を受け、ササメがニヤリと笑う。かなえたい願い。お金では手に入らないもの。

「社長なら、有効に使っていただけるかと」

「ふっ。有難ありがたく使わせてもらう」

「それで、じつはですね――」

 部下が、さらに続けた。

 ササメにとってはあまり広くない。ただ、一般的には広大な会社の入り口で、二人が話す。

「そのカードを持っておるということは」

「社長。じつは――」

「よい。みなまで言うな」

 ササメは、ミドルヘアをかきあげた。

檀林だんばやしロクロウ。わらわと戦ってみせよ」

 社長命令を使う。これで、戦いを体験することができる。ササメの心は踊っていた。

「いきます。カンサ・ジューン!」

「ゆけ。カンサ・ジュラ!」

 イマジン空間が広がり、辺りが紫に染まっていく。色が変わらないのは、カンサ使いとカンサだけ。

 ジューンの武器は、ハンマー。

 ジュラの武器は、槍。ある程度間合いをとって、突き攻撃での戦いを得意とする。

 金属音が鳴る。カンサ同士の戦いが始まった。

 ロクロウは痛みを覚えているようだ。そろそろ、命令のときか。

「つっ」

「なるほど。ダメージが連動しているようだ」

 軽く戦って、それぞれカンサをしまう。イマジン空間は消えていった。

「お前たちだな」

 黒い服の男性が、イマジン空間につられてやってきた。

 そして、何も言わず、ロクロウはその男性の前に立った。なかなかできる部下だ、と、ササメは思った。今後の働きに期待だ。

「……」

「言葉は、いらないか」

「さあ。カンサ・ジューン!」

「カンサ・フェブ!」

 黒い服の男性と戦うロクロウ。

 といっても、戦っているのは鎧姿のカンサだ。金属音をたてながら動いている。

 剣というリーチの差を活かし、フェブにうまく立ち回られる。周りの建物を壊しながら、じょじょにジューンは追い詰められていった。

 このままではまずい。もっと早くに手を下すべきだったか。判断が遅れた。ササメは悔やんだ。

「ゆくのだ。カンサ・ジュラ!」

 さっそうと、ササメが加勢した。

「なんだと」

卑怯ひきょうですね。社長」

 ニヒルな笑みを浮かべながら、ロクロウが述べた。やはり、頼りになる部下だ。

「部下を見捨てることなどできるか」

「よく言う。女狐めぎつねめ」

 軽口をたたきながらも、ピンチになる黒い服の男性。

 そこへ、別の男性がやってきた。

「新しいカンサ使いか。よし。カンサ・ジャニュ!」

 ジュラの武器は槍。間合いを取って戦うと、ジャニュとフェブには有利に立ち回ることができる。剣で戦うには接近するしかないからだ。

「余計なことを」

「うるさいぞ、ミズチ」

 ダメージを受けているジューンの相手はあまりせず、二体はジュラに集中攻撃を仕掛けた。

卑怯ひきょうな」

「お前が言うな」

「まったくだぜ」

 フェブが牽制し、ジャニュが一撃与えた。じょじょにジュラを押していく。

 盾にならない部下に苛立ちを覚えるササメ。そして、すぐに自分の考えを恥じた。おのれの力不足下原因だ、と。

 ミズチともう一人の男性は二人で戦い、ササメたちを撤退に追い込んだ。

「くぅ。覚えておれ」

「社長。待ってください」

 追いつかれたくない。ササメは、必死で走った。

 とある休日。

 ササメが、ふところからカードを取り出す。

 ロングヘアの女性が応じた。

「わらわは、梛川なぎかわササメ」

小村崎こむらさきネネよ」

「いざ尋常じんじょうに」

「えーっと、勝負しょうぶ?」

 いまいち乗り切れていない様子のネネと、ササメが戦うことを決めた。腕を上げなければならない。

「ゆくか。わらわのカンサ・ジュラ!」

「カンサ・マーチ!」

 開くイマジン空間。駅前の広場も含め、辺りが紫色に染まっていく。

 槍の間合いの外から、弓矢で攻撃するマーチ。寸前で回避するジュラは、一気に間合いを詰める。一撃浴びせた。

「きゃあっ」

「負けを認めてはどうか」

「まだまだ!」

 すぐに距離をとり、マーチはさらに弓矢で狙う。一発当たった。

「うっ」

 激しい戦いになった。

 そして、時間が経過していく。

 時間が経ち過ぎてしまった。戦いの途中でマモノが現れたのだ。ヘビのような見た目の。

邪魔じゃまだ」

「ジャマよ!」

「しからば、ラストアーツ!」

「ラストアーツ!」

 一点突きと、ピアシングアロー。二体はほぼ同じタイミングで技を放ち、ヘビのようなマモノを撃退した。

 盛大に爆発が起こる。その爆発を背にして、男性が現れた。

「ここか? 黄泉よみへの入り口は」

「こやつは」

沢岸さわぎしソウオン。わたしたちの敵よ」

 歩いてきたソウオンが立ち止まる。すぐにカードを手に取り、ニヤリと笑う。

「やれ。カンサ・エイプ!」

 鎧姿の大男が現れ、二体を相手に殴りかかる。金属音がひびいた。

 2対1なのに、まったく引けをとらない強さを見せつける、ソウオンのカンサ・エイプ。

 素手なのに強いエイプ。周りの建物が壊れていく。

「なんなのだ、こやつは」

「ダメ。これ以上は」

 たまらず、ネネとササメは逃げ出した。

 カンサを戻したことで、紫だった空間が元に戻る。壊れていたはずの建物も元に戻った。

 ロクロウに連絡を取るササメ。

 呼び出し音が鳴る。

 そして、相手は出なかった。

「オンオフがしっかりしているやつだ」

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