第6話 マーチ

 じきに、吐く息が白くなる季節。

 アラタは、これまでの情報を整理していた。

 カンサを呼ぶと、イマジン空間が開く。

 イマジン空間を長く開くと、マモノが現れる。

 マモノは、人の体力を奪う。

 マモノを倒せるのは、カンサだけ。

「戦ってもいいことがないじゃないか。むしろ悪い」

 まったくの正論。しかし、それはバトルロイヤルを考慮していない。かなえたい願い。そのことが、このときのアラタには分からなかった。

「それじゃ、お先に失礼します」

「おう」

 カフェのマスター、ナオツグが、ぶっきらぼうにあいさつを返した。

 仕事を終えたアラタが帰路につく。

 携帯電話に着信がある。相手は、コハルと書かれている。押される通話。機械的に変換された音声が、スピーカーから響いた。

『いまどこ?』

「わかってるだろ? 仕事終わったとこ」

『ちょっとつきあって』

 少しして、ボブカットの女性がやってきた。夜の街に繰り出す二人。

 アラタとコハルは近場で食事をする。

 高級なレストランではない。家族向けの、低価格でおさえられる店だ。ほかにも何組か客が入っていた。

「何かあった?」

「いや。別に」

 コハルは、アラタが悩んでいると感じ取っていた。

「ふうん。言えないんだ」

「そういうわけじゃないって。説明が面倒なだけで、さ」

 アラタは、ウソは言っていなかった。信じてもらえる自信がなかった。カードからカンサが出てきて戦うことを説明するには、まずカンサが何かを伝えないといけない。それが、億劫おっくうだった。

「なんかわかんないけど、アラタはアラタのままでいいんじゃない?」

「おれのままで?」

 自分のやりたいこと。その片鱗へんりんを、アラタはつかんだようだ。すこし明るい表情になった。

「そう」

「そっか。そうだよな。ありがとな、コハル」

 アラタは、自分の望みを形にできたようだ。戦いを、バトルロイヤルをやめさせる決意を固めたような顔つきになった。


 朝日のなか、ひびく金属音。

 そして、破壊される標識と建物。

「やれ、フェブ!」

「頑張って、マーチ!」

 ミズチとネネが、カンサを使って争っていた。右手にカードを持って。もちろん、イマジン空間が広がっていて、周りは紫色になっている。

 鎧が動くたびに、ガシャリと音が鳴る。

「くっ」

「ううっ」

 攻撃がお互いに当たり、ダメージが痛みとなって現れた。ミズチとネネが、痛みをこらえている。

 その場所で、マモノが出現した。

 マモノはサイのような見た目。

 遠くからでも、イマジン空間は分かる。紫のドームが街を包んでいるように見えた。

「またか。ミズチ」

 アラタが現場に向かう。

 何かを言いながら戦っているのは、胸の大きなネネ。

「私の願いは、世界平和だから。倒されなさい!」

「うさんくさいやつだ!」

 ミズチは自分の考えを口に出していた。相手にしていない。

 縦に振られたフェブの剣によって、建物がまっぷたつになる。崩れていく瓦礫がれき。そこには、男性がいた。

「僕は千年原せんねんばらリク。あとは言わなくても分かるだろう?」

 リクは、カンサやマモノを目で追っている。それに、姿が紫になっていない。

「カンサ使い」

 ネネの言葉へかぶせ気味に、リクが口を開く。右手にカードを持った。

「いくぞ。僕のカンサ・メイ!」

 カンサ・メイは女性のような姿をしている。もちろん鎧姿。武器はレイピア。

 そこへ、アラタが到着した。カードを右手に持ち、全身に力を入れてポーズをとる。

「カンサ・ジャニュ!」

 フェブとマーチ、メイとジャニュがそれぞれ戦いになる。

 鎧がガシャガシャと音を立て、激しく動く。

 雄々しいジャニュが、サイのようなマモノを狙った。そこを、メイが見逃すはずもない。攻撃がヒットした。

「いてぇ」

 カンサへのダメージは、カンサ使いにも痛みとして伝わる。アラタは、初めてそれを知った。

「素直に負けを認めろ!」

「お前、誰なんだよ!」

 激しい戦いが起こっているため、周りの建物が壊れていく。

 横一閃。ジャニュの剣がメイをとらえた。

「ぐっ」

 リクがうめく。ダメージを受けることに慣れていないのか、体勢を崩した。

 ぐらついたところを容赦なく攻める、アラタ。ジャニュを操り、メイをあと一歩まで追い詰めた。

「くっ。お前、名前は」

「アラタ。兜山かぶとやまアラタだ」

兜山かぶとやまアラタ。その名、忘れないぞ。僕は千年原せんねんばらリクだ。忘れるな!」

 台詞ぜりふをはいて、リクが去っていく。

 縦一閃。凛々しいフェブの剣が、マーチをとらえた。

「きゃっ」

 押されるマーチ。武器が弓矢なので、接近されると分が悪い。

 ネネも去っていった。

「やるぞ」

「言われるまでもない」

 ジャニュとフェブが協力して、サイのようなマモノに斬りかかる。

「ラストアーツ!」

「ら、ラストアーツ?」

 唐竹割からたけわりと横一文字斬りが、ほぼ同時に決まった。二体のカンサは見事な連携を見せ、マモノを撃破した。

 爆発が起こる。

「さて、次は」

「やめろ。またマモノが出てくるだろ」

 さらに戦おうとするミズチを、アラタがたしなめた。

 ミズチは、いら立ちを隠さない。

 カードをしまう二人。それぞれのカンサが消えていく。

 紫が薄くなっていく。空間が元に戻り、壊れていたはずの建物も元に戻った。

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