第5話 小村崎ネネ

 小村崎こむらさきネネは、ほくそ笑んでいた。

 父の仕事の都合で、カンサバトルについて詳しく知っていたのだ。

 右手が強く光る。

 あっさりと、カンサのカードを手に入れた。

「誰?」

 やはり、頭の中にひびくノイズ。まったく知らない声だ。カンサバトルについて詳しく説明している。頭を揺らして、ネネの長い髪が揺れる。

「もう、知ってるってば」

 豊満ほうまん身体からだつきの女性の声など無視して、声は説明を続けている。ネネが、心底うんざりした表情を見せた。

 そして、ネネが行動を開始する。

 駅の近くの公園までは、結構な距離がある。歩いて移動するネネ。

 公園の近くで、ネネはカードを取り出した。

「いくよ。カンサ・マーチ!」

 カンサを呼び出して展開する、紫色の空間。イマジン空間が、ドーム状に広がっていく。

 ドーム内のものは、カンサ使いとカンサをのぞいて紫色に変わっている。そして、走ってきた男性は普段どおりの色をしていた。

「現れたわね」

 ネネは、その男性を待っていた。自分の願いを叶えるために。すぐに構える。

「なるほど。カンサ使いか」

 黒い服の男性が言い終わる前に、建物の陰に隠しておいたマーチを場に出す。ガシャンと音が鳴った。

 女性型で弓矢を持つ、ネネのカンサだ。鎧姿で、名前はマーチ。

「早く勝負をつけないと、マモノが出るわ」

「分かっている。こい。フェブ!」

 男性が、カードを右手に持つ。そのそばに、剣を持った鎧姿の男性が召喚された。

 カンサ同士の戦いが始まる。

「さっさと、やられなさい!」

「できない相談だ!」

 叫ぶ二人を、周りの紫色の人たちが不思議そうに見つめていた。それ以上見つめていても何も起こらない。歩き去っていった。

「あなたの願いはなんなの?」

「お前の知るところではない!」

 戦いが長引いたことで、コウモリのようなマモノが現れてしまった。ネネは、予想していた。いきなり一人を倒すのは無理だろう、と。その場合に取る行動も。

 ネネは、無言でその場をあとにした。初めから決めていた行動。だが、引っかかるものがある。といっても、協力する道は、ない。

 その日、ネネはマモノと戦う悪夢を見た。

 朝の公園。

「バトルロイヤルって、なんなんだ」

 男性が、右手に持つカードを眺めている。ネネは、その人に声をかけた。打算をこめて。

「道を教えてくれませんか?」

「ええ。いいですよ」

 その男性とスタイルのいい女性は、一緒に歩き出した。

「この辺、よく分からなくて」

「へえ。そうなんですね」

 男性は、ポケットにカードを入れた。ジャニュと書かれている。

 ネネがうながしたことにより、男性が名前を名乗った。兜山かぶとやまアラタ、と。

 携帯電話で、連絡先を交換する。

「今度、お礼をするから」

 と言い残し、去っていくネネ。やはり、これも打算だった。次の手を考えている。

 そして、次の機会はすぐに訪れた。

 喫茶店の前で、アラタともう一人の男性が口論をしていた。黒い服の男性は、カンサを召喚している。

 イマジン空間が開いて、辺りは紫色に染まっていた。カンサ使いとカンサをのぞいて。

「なんだよ。なんなんだよ」

 アラタが困惑している。そこへ、ネネがやってきた。

 どう見てもネネは、紫色ではない。

「お前――」

 男性が何か言おうとしたとき、無数に針の生えた玉が、突然現れた。

「イマジン空間を開いている時間が長くなったから、マモノが現れたのよ」

「魔物?」

 マモノは、ハリネズミのような見た目。きょろきょろと辺りを見回している。何かを探しているかのように。

 鼻から大きく息をはき出すネネ。アラタに戦うよううながすつもりだ。まずは、遠回しに。

「ポケット」

「え?」

「ああ。もういい!」

 見かねたネネが、ポーチからカードを取り出した。これは計算ではなく、心からの行動だった。

「来て。カンサ・マーチ!」

「お前がオレの相手か」

 争う、ネネと男性。

 といっても、二人が直接戦っているわけではない。呼び出したカンサ同士が戦っていた。ガシャガシャと音を鳴らして。鎧姿の男性のように見えるフェブと、女性のように見えるマーチ。

 フェブは剣。マーチは、弓矢を使っている。

 剣がマーチに当たり、痛みが走る。矢がフェブに当たり、やはり男性も痛みをこらえたような表情になった。

 喫茶店が壊れ、道路に穴が開いた。

 マモノは放置されている。

「なんだよ。わけわかんねーよ」

 アラタは、そこから逃げ出した。

「ラストアーツ!」

 アラタが去ったことで、状況が変わった。いまなら、マモノに攻撃できる。

 ネネのカンサ・マーチが特別な大技を使う。ピアシングアローがマモノを穿うがち、撃退した。

 爆発が起こる。

 ネネは、戦いをやめて去っていく。最初から決めていた行動だ。長居は無用。

「待て!」

「待てと言われて待つ人なんているの?」

 悔しそうにカードをしまう、黒い服の男性。辺りの色が元に戻っていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る