第4話 フェブ

 街を歩くアラタ。

 まだ日は登り切っていない。というよりも、時間は朝。ジョギングやウォーキングをする人たちが、公園のそばを通りすぎていく。

 ふと、黒髪の若者が、カードを拾った場所で立ち止まる。

「バトルロイヤルって、なんなんだ」

 右手に持つカードを眺めるアラタ。そこへ、ロングヘアの女性が声をかける。アラタと同い年か、ひとつ上くらいに見える。

「道を教えてくれませんか?」

「ええ。いいですよ」

 といっても、看板が近くにあって道は分かる。アラタは気づいていた。しかし、男性は見て見ぬふりをする。

 案内をせがまれ、アラタとスタイルのいい女性は一緒に歩き出した。

「この辺、よく分からなくて」

「へえ。そうなんですね」

 アラタは、ポケットにカードを入れた。もちろん、カンサ・ジャニュのカードだ。

 うながされ、名前を名乗るアラタ。

 女性から言いだし、二人は連絡先を交換する。携帯電話で。

 小村崎こむらさきネネと名乗った女性は、豊満ほうまん身体からだつきをしている。今度お礼をすると言い残し、去っていく。


「おう。偶然だな。ミズチ」

「そんな偶然があるものか」

 喫茶店の前で、ミズチと鉢合わせしたアラタ。相手の次の行動に衝撃を受けた。

 ミズチがカンサを呼び出し、戦いを求めたのだ。

「カンサ・フェブ! どうした。オレと戦え」

 イマジン空間が広がり、辺りが紫色になる。周りの建物も、人も。ただ、カンサのカードを持つ者だけは色が変わっていない。

 ほかにも変わらないものがあった。カンサも、カードにえがかれた色のまま。

 ミズチのカンサ・フェブが剣を突きつける。しかし、アラタは戦えない。戦う気がなかった。

「なんだよ。なんなんだよ」

 そこへ、ネネがやってきた。

 どう見てもネネは、紫色ではなかった。

「お前――」

 ミズチが何か言おうとしたとき、無数に針の生えた玉が、突然現れた。

「イマジン空間を開いている時間が長くなったから、マモノが現れたのよ」

「魔物?」

 アラタの頭は働いていなかった。

 ミズチはマモノを倒そうとしない。

 マモノは、ハリネズミのような見た目。きょろきょろと辺りを見回している。何かを探しているかのように。

 髪の長い女性が、鼻から息をはき出す。

「ポケット」

「え?」

「ああ。もういい!」

 見かねたネネが、ポーチからカードを取り出した。右手に持ち、構える。

「来て。カンサ・マーチ!」

「お前がオレの相手か」

 争うミズチとネネ。

 といっても、二人が直接戦っているわけではない。呼び出したカンサ同士が戦っていた。ガシャガシャと音を鳴らして。鎧姿の男性のように見えるフェブと、同じく鎧姿で女性のように見えるマーチ。

 フェブは剣。マーチは、弓矢を使っている。

 ミズチとネネは時折ときおり、痛みをこらえているような表情を見せる。アラタには意味が分からなかった。

 喫茶店が壊れ、道路に穴が開いた。

 マモノは放置されている。二人とも、完全に無視していた。

「なんだよ。わけわかんねーよ」

 戦いを嫌うアラタは、そこから逃げ出した。

 アラタがいなくなったことで、状況が変わった。ちらりと、マモノのほうを見るネネ。マーチに指示を出し、大技を構える。

「ラストアーツ!」

 ネネのカンサ・マーチが特別な大技を使う。ピアシングアローがマモノを穿うがち、撃退した。

 爆発が起こる。

 それを、遠くから、ミズチともアラタとも違う男性が見ていた。

「この千年原せんねんばらリクが出るまでもなさそうだ」

 ネネは、戦いをやめて去っていく。カードをしまい、カンサ・マーチが消えた。

「待て!」

「待てと言われて待つ人なんているの?」

 ミズチは、悔しそうにカードをしまった。辺りの色が元に戻っていく。

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