第2話 ジャニュ

「もしかして、あれがカンサ。ジャニュ」

 アラタが、ポケットから取り出したもの。そのカードを右手に持つと、光がほとばしった。

「これが、カンサ。名前は、ジャニュか」

「あいつ」

 黒い服のミズチが悪態をつくなか、カンサが召喚しょうかんされた。カードにえがかれている姿と同じ、いや、それ以上に神々しい姿で。

 あきらかに、コウモリのようなマモノに襲われた人が弱っている。マモノは人の体力を奪うのだ。

「いけ! ジャニュ!」

 ミズチのカンサである鎧姿の人物には目もくれず、アラタのカンサ・ジャニュはコウモリのような物体のほうへと走る。ガシャンガシャンと音が鳴った。

「縦か? いや、横だ!」

 指示どおり、横薙よこなぎの斬撃でコウモリのようなマモノをはらうジャニュ。深く決まった。その一撃が致命傷となる。

 起こった爆発に驚くアラタ。

「うわっぶねっ」

「マモノを倒しやがった」

 ミズチがカードをしまう。カンサ・フェブが消えた。

 アラタも同じようにカードをしまう。ジャニュが消え、紫色が薄くなっていく。辺りの空間が元に戻った。


 紫色だった辺りが、いつもの夕暮れ時の色になる。

 そして、空間が元に戻ると、壊れていたはずの建物や信号機などが元に戻っていた。

「こっちにこい」

「言われなくても」

 ミズチに手招きされ、アラタは近くの喫茶店に入る。これまで入ったことがなかったようで、アラタはきょろきょろしていた。

 紅茶とコーヒーが注文された。

「お前に聞きたいことがある」

「お前じゃない。とりあえず、名前から。おれはアラタ。兜山かぶとやまアラタだ」

楠堂くすどうミズチ」

「ミズチか。って、さっき聞いたぞ。これからよろしくな」

 屈託くったくのない笑顔で言い切ったアラタ。

 何も知らない様子のアラタを見かねて、ミズチが説明する気になったようだ。

「よく聞け。カンサを持つ者は、バトルロイヤルの参加権を得ている」

「バトル?」

「勝利者には願いを叶える権利が与えられる」

「願い?」

 ミズチの表情が少し曇ったことに、アラタは気付いていた。だが、それには触れなかった。

「つまり、オレとお前は敵同士ってことだ」

「はあ?」

「ふっ」

 短く息をはき出すミズチ。アラタは鼻から大きく息をはき出しつつ、頭をかいている。

「それより、なんで壊れた建物が元に戻ってるんだよ」

「イマジン空間でいくら物が壊れても、現実には影響しない」

 紫色の景色は、イマジン空間という名前らしい。カンサを呼び出した場所を中心として、ある程度の広さまでが範囲に入る。ミズチの説明は的確だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る