夏休みの課題が終わらない兄と、計画的に済ませた妹

さとすみれ

1話完結

 うーん……。夏休みの課題……。全然終わらない……。僕はやろうと思って目の前に広げた数学の課題を見つめた。椅子に座ったのは一時間も前だ。しかし、問題は二問しか進んでいなかった。普通に集中してやっていたならば十問は進んでいただろう。ぼーっとしたり、テキストの端っこに落書きをしていたらいつの間にか時間が経っていた。はぁと深いため息をつき、もう一度テキストと向き合う。軽いことが売りのシャーペンを持つ。自然とペン回しをしてしまう。軽いからクルクル回せる。あー、やる気が起きねぇ。

「ねぇ、にいに。ペンくるくる回して何やってんの。課題終わったの?」

突然聞こえた声に僕は肩をビクッとさせてしまった。声の主はそれに驚いた様だ。

「な、なに? 課題終わったの?」

「いや、終わってねぇけど……」

「ねぇ早く終わらせてよ! 夏休みはにいにとゲームするって決めてるんだから! にいにが早く課題を終わらせないと、私だってゲームできないんだから!」

お気づきだろうが、声の主は僕の三個下の妹、名前を鈴という。こいつは僕とは違ってさっさと課題を終わらせたようだ。僕の家では僕と妹、両方が課題を終わらせない限りゲームをさせてくれないのだ。

「ねぇ、にいに! 聞いてるの? 早く! 終わらせて!」

「き、聞いてるよ。わ、わかったから」

僕が返事をしなかったから鈴は声を大きくして言う。あぁ耳が痛い……。

鈴は言いたいことを言って満足したのか、部屋のドアをバンっと音を立てながら閉め階段を降りていった。ふぅ……。だけど早く終わらせないとなぁ。……鈴の言うことも理解できる。早く終わらせられたらそれだけゲームできる時間が増えるし、友達とだって宿題のことを考えずに遊べる。……やるか……。すると、また大きな声が僕の部屋に響いた。

「ねぇ! にいに! 私が課題の計画表作ろっか?」

「はぁ?! 何だよそれ! 僕には必要ねーわ! ほら、さっさと下行け!」

鈴からの提案に半分怒りながら答える。鈴は流石に怖いと感じたのか「にいにの手伝いしたいだけなのになぁ」と小声で言いながら階段を降りて行った。ドアは開けっ放し。開けっ放しで行くなよと思いつつドアを閉める。……ちょっと待てよ。計画表? 小学校の時はよく作らされたが面倒だと思い途中から嘘を書いたアレか? 鈴はあれを書いてもう終わらせたと言うのか? そう思った瞬間、僕は二階から鈴の名前を呼んでいた。


 「……で? 私に計画表の作り方を教えてください……と。あはははは!」

鈴は笑い始めてしまった。そりゃそうだよな。中学二年の僕が小学五年の妹に課題の終わらせ方を聞いてるんだもんなぁ。

「あはは! で? どんだけ残ってんの?」

鈴は笑いながらも真剣に考えてくれるらしい。

「えっえーっと……」

僕はほとんど終わっていない課題の山を鈴の前に出した。鈴の顔が笑顔からどんどん険しい顔になる。

「に、にいに? これ終わってるんーー」

「終わってない」

僕は鈴の言葉に重ねて言った。鈴の顔が怒りの顔に変わるのがわかった。あぁ、これ俺死ぬ?

「にいに? 私ゲームしたいんだけど? 一週間経つよね? 夏休み入ってから! 何で全然進んでないのー!」


 鈴にめちゃくちゃ叱られた後、僕はもう一度課題と向き合った。確かに……夏休み入って一週間経つのに全然進んでないのは問題だよなぁ……。鈴は僕の目の前でうーんと悩みながらカレンダーの日付のところに何かを書き込んでいる。僕はそれをぼーっとしながら見つめつつ、ペン回しをする。

 どれくらい時間が経っただろうか。鈴は突然机を叩いた。

「ほらっ! にいに! 出来たよ!」

大声で僕に一枚の紙を差し出した。その紙にはどの日にここまで終わらせるということがびっしりと書かれていた。頭がくらっとするのを抑え、鈴を見る。鈴は笑顔で僕を見ながら言った。

「これ通りにやれば、一週間で終わるから!」

僕は鈴の剣幕に圧倒され、小声で「はい……」とだけ言った。


 一週間後。僕は鈴の言う通り、毎日紙に書かれたノルマをこなし、見事に課題を終わらせた。

「にいに! 終わったでしょ! ふふーん。計画すれば簡単に終わるんだよー」

「そ、そうだな……」

今回ばかりは鈴に頭を下げざるを得なかった。

 計画を立てて課題をする……。恐るべし……計画の力……。いや、妹すごい……。

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夏休みの課題が終わらない兄と、計画的に済ませた妹 さとすみれ @Sato_Sumire

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