第二の襲撃
「おい知ってるか? 今村が殺されたの」
「今朝先生が言ってた。平田のクラスだろ、今村」
「それなんだけど、死体がヤバイことになってたらしい」
金曜日の夜遅くのこと、平田はベッドに寝転がりながらスマホを眺め、友人たちとメッセージアプリで雑談をしていた。いつもは他愛もない話をしているが、この日は違う。昨晩、平田の友人であった今村が遺体となって発見されたからだ。
学校側はただ「死亡した」とだけ生徒に伝えたが、一部の生徒たちは「今村はどうやら異様な死に方をしたらしい」ということを知っていた。当然、それは午前中の内に平田の耳にも入っている。今村の遺体は胸を切り裂かれた上に、物凄い力によって首の骨をへし折られたのだという。凄惨な暴力を受けた痕跡があるということで、事件性があるものとみて間違いはない。
平田はいつになく張り詰めた表情で、スマホの画面を眺めていた。
――もしかして、秋野の奴が復讐しに来たのかも。
平田の頭に、ちらとそんな考えがよぎった。
「……バカらしい」
平田は虚空に向かって呟き、自分の考えを笑い飛ばした。
スマホを枕元に伏せた平田は、疲れた目をそのまま閉じた。
***
「うわぁ~疲れたなぁ」
「ほんと、今日の練習もキツかったぜ」
野球部の練習を終えた須永と吉井は、夕暮れ時の帰り道を歩いていた。同じ部活で帰り道も被っているとあって、この二人は一緒に帰ることが多い。
「今村って吉井のクラスだろ。怖くねぇか? あの事件」
「あんな死に方はしたくねぇ。ゾッとするわ」
今村の異様な死にざまは、ここでも話題になっていた。吉井は今村と一緒に平田のグループに属していたから、少なからずショックを受けていた。それだけではない。次にやられるのは、もしかして自分ではないのか……という思いが、この少年――吉井の頭の中に漂っている。
曲がり角を曲がると、二人の目に強い西日が差しこんできた。あまりの眩しさに目を細めた二人は、正面に一つの人影を認めた。逆光になっていて、正面の人影はまるで影絵のように見えた。それはだんだんと、こちらに近づいてくる。
鷲のような頭を持つ怪人が、大きな目玉をぎょろりと剥いてじっとこちらを見ている……二人はじっとりとかいた汗が、急激に冷えていくのを感じた。
「うわぁ!」
「バケモンだ!」
鷲頭の怪人はばさぁっと大きな翼を広げ、須永に向かって飛びかかると、くわっとかぎ爪を開き、その腕を振りかぶった。
ぱっ、と血しぶきが飛び散った。鋭い爪によって、須永の喉笛が掻っ切られたのだ。これだけでも十分に致命傷だが、鷲人間は追撃の手を緩めない。血で濡れた爪を須永の両目に突っ込んだ。
ぐちゅり……
鷲人間は、須永の目玉を爪でほじくるようにしてくり抜いたのだ。
「ひっ……」
部活仲間を目の前で惨たらしく殺された吉井は、すっかり腰を抜かして地面にへたり込んでしまった。逃げ出そうにも、足に力が入らない。理不尽な暴力を目の当たりにした吉井の恐怖は、最高潮に達していた。
鷲人間は、ゆっくりと吉井の方を向いた。その右手の爪には、ぐちゃりと潰れた白いもの――くり抜かれた須永の眼球が突き刺さっている。
鷲人間は、恐怖で逃げることさえままならない吉井の頭を、文字通り鷲掴みにした。そして近くに立っていた電柱に、思い切り吉井の頭をぶつけた。「ぐっ……」という声が、吉井の口から発せられた。彼の高い鼻は潰れ、鼻の穴からはだらだらと血が垂れている。
頭を持って電柱にぶつけたのは、一度ではなかった。鷲人間は二度、三度、四度、五度……と、何度もしつこく電柱に頭をぶつけた。最初は悲鳴をあげていた吉井も、しばらくすると何も言わなくなった。
電柱には、吉井の流した血がべっとりとついていた。血は電柱の根本まで流れ、赤い水溜まりを作っている。鷲人間は吉井の体を地面に放り出すと、その首を思い切り踏んづけて潰したのであった。
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