家の中でも……
二週間の間に生徒の中から三人もの死者を出した赤目ヶ丘中学校は、にわかに騒然としていた。その三人とも、怨恨による他殺としか思えない異様な死に方をしていたものだから、騒ぎにならないはずもない。
そんな生徒たちの中で、とりわけびくびくと怯えている者が一人いた。かつて秋野翼を橋の上から落として殺しておきながら、何の咎めも受けずに平穏な暮らしを享受していた平田である。
秋野殺害の件に関わった三人の内、二人が悲惨な死に方をした。やはりこれは秋野の祟りで、次は自分の番になるのではないか……と思ったが、吉井の部活仲間というだけで殺された須永がどうも気にかかる。平田は須永のことをあまり知らないが、少なくとも秋野の件には関わっていないはずだ。
平田はメッセージアプリを使って、それとなく須永のことを探ってみた。すると、どうやら小学生の頃、須永は他の悪童たちと一緒になって秋野に暴力を振るっていたらしいことが分かった。彼もまた、秋野の恨みを買っていたと考えて不思議はない。
――これは、復讐だ。秋野の亡霊による祟りだ……
あまりの恐ろしさに、平田は外に出られなくなった。仮病を使って学校を休み、家に閉じこもるようになったのであった。
***
吉井と須永の死から十日後のこと……
平田と付き合っている彼女の五十嵐は、夜寝る前に友達と通話をしていた。
「そういやさ、平田くんとはどうなの?」
「あー……何か最近様子がヘンなんだよね。学校にも来ないし、返事も全然くれない。どうしちゃったんだろう」
彼氏の平田が学校に来なくなって三日が経った。学校に来ないだけならまだしも、スマホに送ったメッセージすらろくに返してくれないことに、五十嵐はいら立ちを募らせていた。
同級生の連続死が彼氏に何かしらの影響を与えているのは分かる。自分に近しい人々が立て続けに不審な死に方をすれば、動揺するのも無理はない。けれども彼氏は何か、大きなことを彼女の自分に隠している……そう五十嵐は勘付いていた。勘付いてはいるのだが、それがどのような事情なのかはさっぱりだ。
友達との通話を終え、ベッドにスマホを放り投げた、まさにその時のことだった。
突然、部屋の東側のガラスが、外側から叩き割られた。飛び上がって驚いた五十嵐が見たのは、人の体の上に乗っている鷲の頭であった。鷲の頭と大きな翼を持つ怪人が、ガラスの割れた窓から飛び込んできて部屋に降り立ったのだ。ぎょろりと剥いた目が、じっとこちらを睨みつけている――
鷲人間はあっという間に距離を詰め、部屋を出ようとした五十嵐の頭髪をぐわっと掴んだ。自慢の艶やかな黒髪が、ぶちぶちという音を立てて抜けていく。
そのまま、鷲人間は力任せに五十嵐の頭を床に叩きつけた。思い切り鼻をぶつけた五十嵐は「ぎゃっ」という悲鳴を発した。鷲人間はそんな悲鳴に構うことなく、五十嵐の頭を右手で掴み直した。
物凄い力で、頭を掴まれた五十嵐の体が持ち上げられていく。鷲人間の握力はすさまじく、五十嵐の頭はぎりぎりと締めつけられている。五十嵐は頭の痛みに耐えながら、右手を振りかぶって鷲の頬をひっぱたいた。だが、鷲人間は全く怯まない。
鷲人間は空いている左手の爪を開き、五十嵐の下腹部にずぶりと突きこんだ。腹というのは大事な臓器がたくさん詰まっている。ゆえに腹部を破られるとまず助からない。その上即死はしないので、被害者は生命活動が完全に停止するまでの長い時間を地獄のような苦しみの中で過ごすことになる。
「あああああああっ!」
甲高い悲鳴が、部屋の中に響き渡った。鷲人間はぐちゃぐちゃと何かを探すような手つきで五十嵐の腹の中をかき回している。そうして、腹の中で何かを掴んだ鷲人間は、巻かれたホースを伸ばすように、ずるずるとそれを引きずり出した。
五十嵐の腹から引きずり出されたのは、腸であった。赤い血にまみれたホースのような腸を、鷲人間は縄を手繰り寄せるようにひたすら引きずり出している。
「どうしたの!?」
ドアを開けて部屋に飛び込んできたのは、五十嵐の母親であった。尋常でない叫び声を聞きつけ、足早に二階に上がってきたのだ。
そんな母親が目の当たりにしたものは、愛する娘の無惨な姿であった。床のカーペットは血に染まり、娘の腹からは臓物がでろりと飛び出ている。こんな状態でも娘にはまだ息があり、ひくひくと身を震わせているのが何とも痛々しい。さんざん泣き叫んだせいで喉が枯れたのか、その口からはか細い声がかすかに聞かれるのみであった。
鷲人間は、娘の体を母親の方に投げると、そのまま割れた窓から外に飛び出した。
ショックが大きすぎたのだろう。母親はしばらく、放心状態でその場に座り込んでいた。
その後、意識を取り戻した母親は警察に通報したが、犯人は見つからず、娘は搬送先の病院で死亡が確認された。母親は「鳥のような頭をして、背中に翼を生やした奇っ怪な人物が娘の腹をかっ捌いていた」と証言したが、警察は錯乱状態となっていた母親の証言を真剣に受け取らなかった。
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