第四話 ラルゴ・デルパルロ 吼える
第113回 王都
1次試験は筆記試験と面接が行われた。
筆記試験は一般教養からアイラス・ル・ビア王国史、戦術知識、薬学、工学に至るまで多岐に渡る。
面接については自己申告での能力の評価、人間性、協調性が評価される。
2次試験は体力試験、各自が持つ能力、魔力の測定といった内容であった。。
多くはここで振るいに掛けられ落とされるものは多い。
生まれながらに持つ力の優劣、その練度は大きく影響する。
リサは【
試験官に申告した能力は【
リサの持つもう一つの能力のみ。
体型を測定されたが問題無い。
リサの身長は女性にしては高い方である。男性にしては少し低いかもしれないが問題無く騙し通せた。
実際の重量はごまかすことが出来ない為、身体に鉄の重りを仕込み、体重計に乗った。
もちろん試験官達の目に重りは映っていない。
腹囲を測られた時には違和感が凄かった。
【
【
そして3次試験が先ほど行われた1対1の模擬戦闘試験である。
個人の戦闘能力を合理的に判断する為の試験だ。
殺傷力の低い武器に持ち替え、能力の使用や魔法の使用は認められていた。
にもかかわらずリサは能力を使わずに相手を倒してしまった。
相手からすれば馬鹿にされているようにしか映らなかっただろう。
そして最終試験となる4次試験であるが、この試験内容は毎回変更されており、リサにも予想はついていなかった。
リサは事前に集められる限り情報は集めておこうとしたがあまり有益な情報は集まらなかった。
いくつか集まった情報としては魔物の群れの討伐。
討伐時間を競うような戦闘に特化したような試験内容の場合もあれば、決められた所持金を一定時間でどこまで増やせるかなど諜報能力や交渉能力を必要とされる試験など様々であった。
「静粛に。」
現役の防衛隊士の一人である試験官が口を開く。
いよいよかと、持ち物、武器、手荷物に不足が無いことを改めて確認する。
「これより、4次試験の内容を説明する」
「これよりお前達にチームを編成してもらう。チーム毎に森を抜け、その先にある村にこの物資を届け明日の夜明けまでに戻ってくること。以上で説明を終了する。」
試験官は片手で白い二つの袋を掲げそう叫んだ。
あまりの単略さに軽い騒めきが起こる。
だが周りが見せるのは困惑、といいうよりは試験内容が「簡単そうだ」という安堵の表情が多い。
「・・・」
「おバカちゃんが多いのねぇ・・・」
またラルゴが独特の口調で毒を吐くがリサも概ね同じ意見だ。
「組む相手は誰でも構わん、二人までのチームを組み、出来たものから順に受付を済ませ、広場へ集合すること!以上!」
「では、解散せよ。」
本当に説明は終わってしまった。
試験官達が退出しドアが閉まると我先にとペア争奪戦の口火が切って落とされた。
まず体格の良いもの、先の模擬戦闘訓練で目立っていたものなどに声がかけられていく。
ペアとなるために受験生たちは自分の優秀さ、誘ったパートナーとの相性の良さ、自分のサポート力の高さなど、様々にアピールしているが中には相手に金を握らせているものも少なくない。
戦闘力を重要視するものは多いようだ、森、村というキーワードが出てきたことからして口先ではなく腕力で解決できる問題は多いように思われる。
スピードに自身のあるもの、単純に試験の後に取り入っておきたい、コネを作っておきたいといった王侯貴族の関係者もまた人気のようだ。
小柄なリサやクレインは控え室の隅で唐突に始まったこの騒乱をまるで川を流れる落ち葉を眺めるかのような目で見ていた。
「リオも家柄は凄いんだから隠さなければモテモテなんじゃないの?」
「家柄は、だって?それ以外がダメなように聞こえるな。お前こそ小さいから売れ残るぞ?」
「ほんと変わらないねキミは。」
予想はしていたがこの試験。
目的、条件、準備、何をするにも情報が足りなさ過ぎる。
”森”というキーワードがある以上、少なからず戦闘は考慮すべきだろう。
リサはある程度戦闘能力に自信があるが、相方もそれなりの戦闘力があることが好ましい。
掲げられた白い袋の重量はそこまで重量はないように見える。
重量があるようであれば身体的に劣るリサは、相方に荷物の運搬を頼まなければならないと思っていた所であった。
村に届ける…?
村で買い集めてくるのでも無ければ村に売りつけるわけでもない。
時間の指定も無い。速度を競うだけのようにも感じられない。絶対的な評価基準が推し量れない。
「組む相手、そんなの決まってるわぁん。」
ラルゴがリサとクレインの前に立ちはだかる。
「もぉちろん!アタシはク・レ・イ・ンきゅ・・・」
「そ、そぉだリオ!ボクと組みたいと思ってたんだよね!?そうだよね!お願いだからっ!」
抱き着こうとするラルゴをクレインはかわし、素早くリサの背後に廻る。
作戦を立てる前にこの場の流れでペアが決まろうとしている。
実際クレインと組むのは悪くない。
お互いの能力を”ある程度”分かっており、気も通じる。
試験会場で見せる仲間との連携力も評価基準に加えられていてもおかしくは無い。
「ああ、クレイン、組もう。」
「決まり!もう決まったからね!」
「リオ・・・!あなた、可愛く、ないわよ・・・!・・・そう、でしょう・・・?・・・ねぇ?」
ラルゴがリサに額を擦り付け喉を鳴らし迫る様は、深夜の酒場に行けばよく見られる光景だ。
だが頭一つ分大柄なラルゴの鬼の形相に迫られてもリサが怯むことはない。
「ラルゴ、お前のほうが可愛くなくなってるぞ?」
「そんなのクレイン君が可愛いんだから組みたいと思うのは当然でしょ!あと森を通るならクレイン君の【
「何を言っているのか分らんが、クレインの力については俺も同じことを考えていた所だ」
「そ、それよりなんでお前、ボクの能力を知ってるんだよ!?」
「もうっ!クレインきゅんのことなら何でもお見通しなんだからねっ!リオのいじわる!覚えてらっしゃいいい!」
キィィィィと金切り声を上げて女々しい走りをしながらラルゴが離れて行く。
その姿を見てリサはつくづく見た目と声が合っていないことの違和感に驚かされた。
「クレイン、模擬戦で能力を見せたんじゃないのか?」
「見せてないよ…まったく、あいつ何で知ってるんだよ…。」
「色々と面倒そうな男だな、まったく。」
ラルゴと組むの悪くなかった。
だがこちらが相手の手の内を探ろうとするのと同時に相手もこちらを探ってくるだろう。
試験中に面倒は避けたい。
「誰かぁ!誰かこのゴイルと組んでくれぇぇぇぇ!」
大柄な男が控室の中央で叫んでいる。
「あれって確かリオの3次試験の相手だった石拳のゴイルとかいう人じゃないの?」
「ああ、そうだな。」
3次試験で敗れた場合も一様に失格となるわけではないようだ。
1次、2次試験の結果や試験官に何かしらの素養ありと認められれば4次試験に進んでいるものも少なくないようだ。
見てくれは屈強そうなゴイルであるが3次試験で小柄な少年に無様な敗北した姿を晒しており、組もうと声を上げるものは現れない。
何よりも拳を石に変えるという彼の能力と運搬や移動をメインとした今回の試験との相性は決して良くない。
その上で3次試験の醜態から戦闘力なし、と判断されれば現状運搬するタイムを競うと考えられる今回の試験に、この愚鈍な大男と組もうと考える者がいるとは考えにくかった。
「リオひどくない?」
「じゃあお前なら負けてやってたか?」
「まさか、でもそこじゃないかも。」
「俺はお人よしじゃないんでね」
「誰か!誰か!このゴイルとくんでくれぇぇぇ!後生だぁぁぁ…ぁぁ…ぁ。」
(私を恨まないでね?ゴイル。まだお前が合格する可能性は0じゃないから。)
リサとクレインは身支度を整えると二人で控え室を後にした。
控え室の扉を閉めてからも男の声はよく響いていた。
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