第三話 試験前の三人
「・・・何なんだ?お前は?」
リサは自分が住んでいた地域では見たことが無い外見、しゃべり方をするこの男に対して警戒感をあらわにする。
「そんなに睨まないでよぉ、オカマはこの辺じゃ珍しいかしら?」
「オカマ?ああ、そうなのか、なるほど。」
横を見るとクレインが露骨に嫌そうな反応をしている。
「このプリティな外見の
「とってもプリティよね?そう思わない?」
「まぁ・・・言われて見ればそう・・・かもな。」
「リオも!何言ってるんだよ?」
珍しいと思ったことは無かったが王都周辺では珍しいものなのだろうか、と改めてクレインを観察する。
「そ、それより。さっきの試合はなんなんだよ!いきなり降参なんてして。」
「アタシにクレイン君を殴れっていうの!?無理よ!」
「ぼ、ボクはそういうことをいってるんじゃ・・・離せっ!!」
いつの間にか手を握られているクレインが何か言っているが会話はいまいち進まない。
クレインから話を聞くと、この男はクレインと模擬戦をしたものの碌に戦わずに降参したそうだ。
「つまりお前は研究者志望でこの試験を受けている、と?」
「ええ、そうよ。」
話を要約するとそうなる。
防衛隊士は一般的に前線に出て戦闘を行うイメージが強いがそれだけではない。
後方での支援活動に特化したもの、仲間や民間人の救助や治療に特化したもの、研究、開発の分野で力を発揮するもの様々である。
この男が得意とする研究、開発の分野において防衛隊士の権限は大きな力を発揮する。
防衛隊士の階級に応じて研究資金や人材の補助が国からなされ、一般の研究施設では手に入らない研究機器の使用も認められている。
そしてなんといっても国が管理する貴重な文献や論文の閲覧が許可されることも大きい。
一見一人の人間が編み出したように謳われる近年の発明品も一人の力で生み出されたわけではない。
過去から今に通じて数多の優秀な人間達が試行錯誤を積み重ね蓄えた知識をまとめ上げることがで新たな発明が生まれる。
その知識の宝庫を手に入れる為に防衛隊士の資格、防衛隊士の資格を手に入れようとする研究者は少なくない。
「まぁ、そんなところねぇん。あら、申し遅れました、あたしラルゴ・デルパルロよ。よろしく。」
「ラルゴか。よろしく。」
「・・・所でなぜ模擬戦に参加している?研究者志望の受験者は模擬戦が免除されているはずだが?」
「そりゃあまぁ・・・」
「私はどっちもイけるってことが証明したかったのぉ!!」
ラルゴは頬を赤らめふざけているが、ラルゴは研究者でありながら戦闘も他の防衛隊士と同等にこなせるということを言っているのだ。
「あーもう!なんなんだキミは!男なのにその言葉使い!ボクを馬鹿にしているのか!?」
「あーゴメンねぇ!アタシはクレイン君が一番よ!信じて!」
「ま、まぁクレイン、人にはそれぞれあるんだ。分かってあげな。」
「リ、リオ!?」
リサの口数は少ない。
ラルゴの言動については理解しづらいリサであったが、少なくとも彼を否定する権利は自分には無い。
(そう・・・人それぞれあるのよ・・・。)
時間があった為か待合室の中でも雑談の声が広がっていた。
とはいえリサ達のように馬鹿話を繰り広げているわけでは無く、それは手の内の探り合いといった様子に近い。
その様子を見て出遅れたかと少し焦ったリサだが、そもそもこの男、ラルゴ・デルパルロに自分達は探りを入れられていたのかも知れない。
「静粛に・・・!」
そんな三人の束の間も現役の防衛隊士の入室によって終わりを告げる。
「さて、いよいよか」
「待ちくたびれたわよ・・・?」
「何でもいいから早く始まってくれよ!」
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