第二話 【|陽炎幻視《エルリスファントム》】
リサ・トゥリカ=リストヴァルは何をしているのだろう?
十代の、年端も行かぬ少女が王都
周囲には屈強な男の姿が映るのみであり、彼女の兄であるリオ・ドルス・リストヴァルですらこの中では浮いて見えた。
彼女、リサ・トゥリカの身体は紛れもなく年齢相応の少女のものである。
先の大男との戦いでも当然余裕など無かったが、それ以上に彼女は負ける訳には行かなかった。
そう、彼女の思い描く兄は力だけの大男などに負けるはずもなく、彼女もそれを許さない。
リオ・ドルスと呼ばれる少女は何なのか?
連日続くこの暑さで観衆の頭がおかしくなったのだろうか?
いや、少なくとも会場で気づいている人間は居ないはずである、この幻影を。
リサが纏う【
この世界ではごく一部の人間に、生まれながらにして異能の力を持っているものが存在していた。
彼女はその中でも二つの異能の力を生まれながらにして持っており、その内の力の一つ【
【
【
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たとえリサ・トゥリカの身体を触ろうと、視覚との誤差を相手に与えることなく、寸分違わず男のリオ・ドルスの身体に触れた様な感覚を相手に伝えることが出来るのだ。。
【
その証拠として、この場にいる正式な防衛隊士の隊員達ですらリサの姿を見破ることが出来なかったのであった。
その動作、その仕草、その口調、その態度。
リサの動きに一遍の淀みは無い。
それもそのはず、リサは【
この力を以てして、姿を変え、名を変え、リサはこの屈強な男たちに挑む。
”この程度、兄上ならば出来て当然。”そう言い放つ彼女は何がしたいのだろう?
いくら見てくれを兄に変えようが、いくら周りからリオ・ドルスとして扱われようが、そこに立つのは彼の妹リサ・トゥリカ・リストヴァルでしか無いのだから。
そしてこれは国中から強者が集められ開催された、この第113回 王都
「お疲れー、流石リオだね。あんな大男に勝っちゃうんだもん」
「なんだクレイン、見てたのか」
リサが選手用の控室に戻ると声を掛けてきたのは一人の
見た目は
リサは女性の中では背の高い方ではあったが、クレインの身長はリサの胸の辺り程度しか無い。
髪は男性にしては長めで柔らかな茶色をしており、
手首や足先は体躯と比較して若干大きく、手の平に出来た独特の瘤や土色に汚れた爪を見るからして土を触り暮らしている農民の出であることを見破るのはそう難しくないだろう。
「なんかすっごく余裕って感じだった、じゃん?」
「余裕なんかないさ、事実アイツ・・・石拳のゴイル・・?とかいう男は強かったよ。」
「へぇ、嫌味っぽくて良いと思うよ」
クレインの表情は変わらない。
少し怪訝な顔をするリサだったが言葉を選びながら話進める。
「あの手の力任せの奴の相手は苦手だよ、知ってるだろ?」
クレインは表情だけで相槌を打つ、まぁね、と。
「大男が俺みたいな餓鬼を相手にするときどこを狙って来ると思う?」
「頭を潰すか、掴んで握り潰そうとするかな?」
自分も経験があるのだろうか、クレインからの回答は速かった。
「分かっていれば避けられる。そして小さな相手に潜り込まれた相手は急所を守る。」
「首とか腹かな?」
「・・・それでお留守の脚をいただいたってわけさ。」
「ボクだったら初撃で死んでるから参考にならないね」
クレインはリサの為にコップに水を入れて渡してくる。
「なーんだ、ボクはてっきりいつもの幻術”魔法”でズルしたのかと思ったよ。」
「無駄に手の内を晒す必要はないだろ?まぁ、その話はよそうぜ。」
「ははは、ごめんごめん」
まだ試験は終わっていない。今後どんな試験が続くか分からない以上、自分の実力を隠しておくのが得策だ。
対人戦の試験が終わったとはいえ、これで終わりとは限らない。
クレインはその一言で理解してくれたようで、冗談のように謝罪の言葉を放つがその表情からは朗らかな笑みと誠意が伝わってきていた。
【
相手の五感を狂わせるこの能力は攻め、守り、どちらにも使えることはリサが一番良くわかっている。
最も、多少戦闘に使ったとしても「今のは幻術魔法を使った」と言い張れば押し通すことは出来るだろう。
しかし幻術魔法に長けた者であれば「これは幻術”魔法”ではない。」と見抜く可能性は高い。
リサは正体を見破られることだけは絶対に避けなければならなかった。
【
それがリサの立ち回りであり、生き方にもなっていた。
そうは言っても、リサの持つ”もう一つの異能の力もある意味目を引いてしまうことから使うのをためらわれる。
まだ試験は終わっていない。
他の受験生達の目を引かないように、それを徹底するのだ。
そこで、倒せるならば力を見せずに倒してしまう。
それが最善であった。
もっとも、そんなリサの都合で
リサの持つ【
いや、教える訳が無い。
それはもちろん、リサの果たすべき使命、生きる目的の為でもある。
リサ・トゥリカはこの
しかしクレインはリオ・ドルスのことを親友だと思ってくれているだろう。
リオ・ドルスを親友だと思って長年接してくれているこの
いままで笑いあった、馬鹿話をした、あの日々を。
幼き日の甘い青春を。
いったい何時から?本当に7年か?5年か?10年か?信じられるか?
本物のリオ・ドルスはどこだ?お前は誰だ?
絶対にそう言われるだろう。
口が避けても言えるはずがない。
” リオ・ドルスは、もうこの世にいない、などと。 ”
(リオ・・・兄様・・・。)
リサ・トゥリカは周囲の人間と比較して自分のことを、あまり相手のことを思いやることが出来ない人間だと分かっている。
いや、他人を思いやる余裕が彼女の人生であまり無かったのかもしれない。
だが、この友情を、この信頼を、掃いて捨てるような真似を、そこまで自分が腐っているとは思いたくもない。
そう、リサは親友であるからこそ正体をバラすことなど決してない。
しかし、リサはそこであることに気づく。
クレインの衣服に汚れはなく、汗をかいている様子も見られない。
対戦相手は確か色黒で長身の筋肉質な男だったはず。
模擬戦は狭いリングで行われる、そしてリサ以上にクレインの能力を考慮すれば余裕が無いことは用意に想像出来た。
リサは少し考えるが答えは出ない。
この場合、本人に聞くのが一番早いという回答にたどり着く。
「いやー、ボクなんか実は・・・」
「あらぁん!こんな所にいたのぉ?クレインくぅん!」
男の野太い声が少し離れた位置から聞こえた。
可愛らしい口調で何かの間違いかとその方向へ目をやるとクレインの模擬戦での対戦相手だったはずの色黒の逞しい男がそこに立っている。
「探したんだからぁ・・・いきなりどこかにいっちゃうんだもの」
「ははは・・・友達を見つけちゃってね。少し話してたんだ。」
リサは少し面を食らったがこの色黒の男に対してまだ警戒を解いていない。
一見
見るからにガラが悪そうな外見をしており、街を歩けば自然と道が開いていきそうである。
派手なピンク色のスーツを上下に身に着けており、なぜか胸部、腹部を大きく露出している。
そしてこの独特の口調と仕草はリサがこれまで出会って来た男達には無いものであった。
そしてこの男の纏う独特の異質な雰囲気。
出会ってから感じる警戒感。嫌悪感。
(まさか、この男も私のように性別を偽装しているのか・・・!?)
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