第2話 赤い少女が見ていたアクマ

俺の彼女。

俺と同じ大学に通う。

ゼミも一緒。


「俺たち付き合ってみるなんてどうよ」

「そうだね、・・・・君ならいいかも」


「うん? マジでいいの。なら付き合っちゃう」

「うん。付き合お」


「あははは、よろしくな」

「あははは、うん、よろしく」


そんな展開だった。

思い返してみたらバカみたいだ。

チャラ男風。

だけど内心ではドキドキ物、体は冷や汗が垂れてた。


なんというか卑怯だ。

駄目っぽい反応だったら、冗談にして逃げる作戦。


「悪いけど・・・・君とは友達だから」

「何だよ、本気にするなよ。冗談だよ」


そういう展開になる可能性が六割だと思ってた。

でも三割の方になったのだ。

残り一割はその場で吹き出されるか、切れられるか。


彼女と居るとドキドキする。

それは本当だ。

心臓の働きが三倍くらいになってるんじゃないかと思う。

でも真剣に好きかと訊かれたら答えられない。

これは恋愛なんだろうか。

それとも恋愛のフリ。


俺は彼女いねーんだよと男友達に言うのがだるい。

カッコ悪いし、「どんなのがタイプだよ」みたいな話に発展するのも嫌だ。

多分彼女も同じだ。

女友達に彼氏いないと言いたくない。

「ホントに、居ないの?」と優越感を隠して訊かれる。

「紹介しよっか」親切めかした上から目線。

そんなの誰だってイヤだ。


それだったら、

「アイツと付き合ってんだって、どうよ?」

「別に普通だよ。たまにケンカするけど、一緒にいると楽しいしな。やっぱ愛だよ、人間には愛が必要だよな」

そんな風に返す方が100万倍いい。


恋人同士っぽい事はいろいろしてる。

彼女は俺の誕生日に手作りの菓子を焼いてくれた。

俺は彼女の誕生日にバイト代を注ぎ込んでレストランの予約をした。

デイナーコース、ケーキ付。

ケーキの写メ撮って友達に自慢するのに丁度いいカンジ。

その帰りに夜の公園でキス。


彼女は一人暮らし。

オートロック付きマンション。

奇麗だけど部屋はワンルーム、意外とせまい。

狭い部屋に入れて貰った事も有る。

だけどまだベッドに二人で横になった事は無い。


男友達に言ったら「何やってんだ、オマエ」と言われそうだ。

俺だって色々調べたのだ。

彼女が一人暮らしの部屋に入れてくれたならそれはOKのサインだって。

俺は内心ガクブルになりながら、彼女に迫った。

狭い部屋で彼女の肩を抱こうとする。

するっと逃げられた。

「あたし、お茶入れて来る」

ベッドには何故かモノが置いてある。

メイク道具とか、小物とかいろいろ。

ベッドに二人で腰掛けたり出来ない様に。

そのためだと思う。

世間話してお茶飲んで、ケーキ食べて帰る。

帰りの公園でキスするのはOK。

彼女の部屋でキスするのはNG。

それが俺らの関係。


俺はそれ以上強引に迫ったりしない。

というか、俺が強引に押し倒すような人間じゃないから彼女は付き合ってくれてるんだと思う。

押し倒したりしたら「私達、やっぱり友達に戻りましょう」そんな台詞を普通に言われそうな、そんな気がする。


良いんじゃないか。

このままでも。

たまにデートするんで充分楽しい。

下半身の欲求はVR動画が有る。

それだって十分気持ち良い。


そう思っていた。

それで上手くいってる、その筈だった。


だけど本当は俺、彼女を無理やりでもヤりたかったのか。

ネット検索してしまった俺は彼女に似たセクシー女優を乱暴する動画を毎日俺が見ていた事に気付く。

気付いてしまった。

もうあの動画は見れない。


考えても見ろ。

俺は恋人に似た女優をレイプする、そんな動画で毎日自分を慰めていたのだ。

最低だろう。

サイアクの気分。

俺は自分をもっとマシな人間だと思っていたのだ。


大学だって親に言われた通り国立の四年制に通ってる。

私立大学の費用は出せない、そう言われたから頑張ったのだ。

文系だけどな。

容姿だって、そんな目を見張るイケメンじゃないけどブサイクじゃない筈だ。

鼻筋だって通ってるし、睫毛も長い。

むしろイケてる方じゃね。

密かにそう思ってるのだ。

スポーツだって運動系部活はしてないが、足は速い。

球技は苦手だ。

ドッジみたく球から逃げるのは良いけど、バスケやサッカーみたく球を取りに行くのは積極性が必要なのだ。

水泳や陸上みたいな単純スポーツならまずまず。


そう考えていけば、俺は悪くない男だと思う。

メッチャイケてる、そんな事が無いのは分かってる。

でも平均より下って事は無いだろう。

並の上では有る筈だ。

上の下かな。

そこまでは厳しいか。

あと一つ、実家が金持ちとか、何かカッコイイ特技が有るとか、そう言うのが無いと上の下は厳しい気がする。


そんなまずまずの人間である筈の俺。

俺が彼女に似た女優のVRエロ動画を毎日見てた。

これはヤバ過ぎる。

どうしたらいい。

なんとなく余裕で誤魔化すのはどうだろう。


「男ってさ、征服欲ってのが有んだよな。

 遠い昔、獣を狩ってた狩猟本能。

 だからレイプ動画の一本位見てても普通だよ」


それは誰に向かって誤魔化してるんだ。

何に対する言い訳?。

もしかして彼女にバレた時用なのか。

彼女にバレたら絶対それどころじゃない。

余裕を持って講釈どころか、その場で土下座してしまいそうだ。

その土下座だって何に対して謝ってるんだ。

レイプ動画を観てた事か。

彼女に似たセクシー女優を選んだ事か。


あっそうだ、分かった。

彼女に似てない別の女優のレイプ動画をダウンロードするのはどうだ。

そうすればさっきの言い訳が通用する。

いや、何言ってんだ俺。

レイプ動画がまず駄目だろ。

バレたらサイアクなのは変わらない。


ああ、もう全然頭が回ってない。

もういい。

考えるのは明日だ、明日。

今日は寝ちまえ。


そして俺は夢をみる。

VRゲームの夢。


夢なのかな。

半分寝ながら俺は適当にVR映像が楽しめるコンテンツを検索してた。

今見てるのは、ゲームのデモムービー。


TOKYOの夜景。

凄い良く出来てる。

車がちゃんと動いてるし、運転手だって乗っている。

街を歩いてる人が居る。

それぞれの恰好でバラバラに動いているのだ。

すげー。

リアル過ぎないか、これ。

自分の視点でちゃんと動く。

デモムービーというか、体験版みたいなヤツか。

スマホゲームでここまで出来るんだ。

世の中ハンパねーな。


俺は試しにジャンプしてみる。

10メートルくらいは跳んだだろうか。

ビルの壁に着地。

そのまま垂直な壁に俺の手は貼りつく。

アレだ、アメコミヒーロー蜘蛛男風。

そんな感じで、俺はビルからビルに飛び移る。


ざわつく声がする。

通りを歩く人々の驚く声。


「何だアレ。パフォーマンスか」

「どうやってんだ、立体映像か何かか」


「どう見ても本物の人間だろ」

「アタシ知ってる、アレよホラ。パルクールってヤツよ」


パルクール?!

有ったな、何か。

屋上やら、塀やらをヒョイヒョイ跳んでくスポーツ。

スポーツなのかな、アレ。


「そうか、その練習か」

「いいのか、こんな街中で。人騒がせだろ」


「別に犯罪じゃ無いだろ」

「いやでも迷惑行為だろ」


なんかうるせーな。

俺はビルの間をヒョイヒョイ飛び跳ねる。

やってみたら、ビルの壁である必要も無かった。

空中、何もない空間を蹴って昇って行けるのだ。


後ろの人間達が更にザワツク。

知った事か。

ゲームだろ。

犯罪とか言い出すんじゃねーよ。


俺はVRゲームの体験版を楽しむ。

ビルの屋上をヒョイヒョイと飛び跳ねていく。


俺の恰好は真っ白なタキシード

顔にはマスク。

風邪や流行してる肺炎用のそれじゃない。

顔の上半分を覆う、奇術師みたいなマスク。

ビルの窓に反射して見たのだ。

本物の俺は今VRヘッドセットをしてる筈なのに。

顔に有る装着感を誤魔化す為か。

芸が細かいな。


白いタキシードを着てマントをはためかせる俺が夜の街を飛び跳ねる。

下界では人間達がなにやらざわつく。

上空にいる俺にはもう何を言ってるか聞こえない。


夜の街の頂上を目指す。

TOKYOで一番高い場所。


スカイツリーの屋上で俺は街を見下ろす。


このゲームって飛び跳ねるだけなのかな。

リアルに出来てるTOKYOの街。

そこを跳んで行くだけでも十分楽しいっちゃ楽しい。

でもそろそろ飽きて来た。

ゲームなら障害物とか有るもんだろ。


俺はフと気が付く。

俺武器持ってるじゃん。

何処に?

何処にと言われても困るが、ゲームだし。

マントの中から俺はロケットランチャーを取り出す。

肩に担いで走り出す。

ヒャッハー。


俺はロケットランチャーを撃ちまくる。


電車が破壊される。

車が吹っ飛ぶ。

ビルが倒壊する。

建物に圧し潰される人間たち。

内臓がはみ出てる死体。

頭部が転がってたりする。


アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ。


やっば、何これ。

ちょー面白い。


俺はフッと思いついて死体をつついてみる。

最初はおっかなびっくり、ロケットランチャーの先端で。

フツーに触れるみたい。

両手で掴む。

黒スーツ、サラリーマンのオッサン。

手に布の感触がある。

けどやっぱゲームの中の物体だな。

軽い。

空ダンボールでも持ち上げるみたいに軽く持つ事が出来る。

そのままリーマンのオッサンを放り投げる。

ビルの壁にぶつかってグシャッと音を立てるオッサン。

上半身がグチャグチャ、肋骨が体からセリだし、体液がドクドク流れてく。

コンクリの地面が赤黒く染まってく。


うひゃひゃ、無駄にリアルになってるな。

これ、本当に日本のゲームかな。

いくらR指定でも、ここまでやったらアウトじゃね。

海外のゲームかもな。

海外のはX指定、大人しかやっちゃダメなゲームが有る。

そんな話を聞いた覚えが有るのだ。


海外のゲーム、体験版を俺は夢うつつでやってるのか。

本当に無料体験版かな。

後で目の玉飛び出るような請求来たらどうするよ。

いや、知るものか。

そりゃサギだろ。

無視すりゃ良いんだよ。


俺は路地の奥、OLさんの死体を見つける。

頭から血が流れてる。

後頭部が凹んでるのだ。

グロイからそっちは見ないで、身体を見る。

乱れたスカートからストッキングの足が伸びてる。


その足に手を伸ばしてみる。

触れちゃうな。

俺の手を押し返す感触。


チラッ。

なんちゃって。

誰になんちゃってと言ってるんだ、俺。

スカートを撒くってみると下着が見える。

ストッキングに覆われて、白いものが薄っすらと。


俺は辺りを見回す。

大通りだけど動く人は誰もいない。

周りには死体しかない。

後はみんな逃げたのだ。

誰も近寄ってこない。

誰も見てないとは言え、落ち着かねーな。


俺はオフィスレディーの死体を担ぎ上げて、ビルを垂直に跳ねてく。

ビルの屋上に死体を降ろす。

死体は発泡スチロール製みたく軽い。


頭部は血が垂れててグロイ。

目もむき出し。

どこ見てるか分かんない視線がコワい。

瞼を閉じさせて、ハンカチで顔の血を拭いとる。

すると大分マシになった。


紺のスーツを着たOL。

白いシャツとタイトなスカート。

オフィスレディーってやっぱイロっぽいよな。

ストッキングを俺は引っ張ってみる。

お、すげー。

脱げるじゃん。


女性の生足が見えて来る。

更にその付け根には、ストッキングから薄っすら見えてた白いもの。

レースのパンティ。

女性の下着ってなんでこんなにキレイに出来てるんだろうな。

CGでこの画像を造ったヤツだって、恐ろしく気合を入れて造ったんだろう。

俺の目はクギヅケ。

白い下着、さらに内部には淡い陰りまで見えてる。


もちろん、分かってるのだ。

下着を脱がしたらガッカリするだけ。

そこはワイヤーだけか透明か。

良くて肌色ののっぺりした空間。

CG、造られた画像だってハッキリしちゃうだけ。

下着の上から見ておくのが一番エロイ光景。


それでも脱がしてみたいよな。

ちょっと確認するだけ。


俺はずっとOLさんの死体のスカートを撒くってる。

他人が見たらヤバイ光景。

でもここに他人はいないのだ。


「それはどうかしら~。

 アタシが見てるわよ~」


女性の声。

ビルの屋上にいつの間にか誰かいた。

赤い服を着た女性、まだ少女。

そいつが俺を見ていた。

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