第3話 アクマはお嬢様の執事兼、奇術師兼、道化
真っ赤な服の少女。
ウエストを絞った服。
スカートはミニ、裾が膨らんだヤツ。
ゴスロリ風になるのか。
俺はファッションの系統や呼び名には詳しくない。
服の背中からは蝙蝠のような羽根。
お尻あたりからは尻尾。
頭には角、羊みたいな角が髪の毛の左右から出てる。
コスプレか。
いわゆる小悪魔風。
一昔前はオタの趣味だったけど、いまではアリだ。
お洒落な趣味とすら言えるかもしれない。
SNS、youtube、TikTokではコスプレした女子の画像で溢れてる。
「小鳥遊リリスだよ」
「あ、ああ。
そうか」
少女は自分の名前らしいのを名乗る。
俺は挨拶だか何だか分からない物を返す。
こいつ何だろう。
ゲームのイベントキャラ?
いや、むしろ敵キャラって可能性が高くないか。
俺はロケットランチャーを持ってる。
武器を持ってるゲームなら、撃破すべき敵が居る。
その方が自然だ。
少女は近付いてきて、俺の腕を掴む。
「ちょっと、いつまでスカートめくりしてんの」
「そうか、ワリィ」
つい謝ってしまった。
くそっ。
別に悪く無いだろ。
「あーあ、やっぱり男の子はしょうも無いねー」
小鳥遊リリスは俺にチョップするような仕草。
男の子って。
お前の方が明らかに年下だろうに。
「ねぇ、小鳥遊リリスって名前どう思った?」
「ああ、お洒落な名前じゃないか」
「やっぱりそう、雰囲気出てる?」
「出てる、出てる」
名前を自分で考えたような質問。
多分偽名、ニックネーム。
ユーチューバー名みたいな物か。
TikTokの場合なんて言うんだ。
ティックトッカー名とか言うのかな。
「電子の精霊、ゲームの小悪魔、アプリの奥に潜む忌まわしきモノ。小鳥遊リリスだよ」
キャッチフレーズなのか。
少女はそんな事を言う。
精霊、小悪魔。
そういうコスプレな訳だ。
「うん、良いんじゃないか。
雰囲気出てるし、お洒落だ」
男にも、女にも人気出そうだ。
これもしかしてアレかもな。
ゲーム内で他のプレイヤーとコミュニケーション取れるってヤツ。
ゲームの中でフレンズ作ったり、パーティの仲間造るヤツ。
俺はその手のゲームをあんまやらないから良く分からないが、珍しいモノじゃない筈だ。
「へへへー、そっか」
少女は俺に褒められて満足気。
可愛らしく微笑む。
その笑顔はチャーミングだが、俺は少しイラついてる。
俺だけで楽しんでたのに。
他人が入って来ちまったのだ。
スカートを撒くってる場面も見られた。
他人が居ると自分の行動にセーブ掛けなきゃいけない。
自分の行動が客観的にどう見えるか。
イチイチ気にしなきゃいけない。
今夜は充分楽しんだ。
もう止めようか。
そう思う俺。
アレこのゲーム、どうやって止めるんだ。
というか本当は気づいてる。
これは夢なのだ。
やけにリアルな夢。
夢だと気づいてる夢。
明晰夢、そんな風に呼ばれてる夢。
俺はVRヘッドセットを付けたまま眠っちまった。
VR画像が見れるゲームを探しながら。
その情報が脳に貼りついて、こんな夢を見せてる。
そんな分析はとっくに出来てる。
ただそう思っちまうとこの夢のようなゲーム、ゲームのような夢を思いっきり楽しめない。
だから気付かないフリをしてたのに。
この女のせいで気付かされた。
そう考えるとこの少女だって俺の夢の中の登場人物。
自由にしていい筈、俺の思い通りになってもいい筈。
俺は拳銃で少女を狙う。
ロケットランチャーで撃っちまったら粉々。
せっかくの可愛らしい少女が後も残らない。
なんかもっと威力抑えた武器無いかな。
そう思ったらタキシードの裾から出て来たのだ。
俺はその拳銃を横に構える。
「あれー、アタシを撃つ気?
バカだなー。
アンタまだ初心者でしょ。
ゲームで言ったらレベル1。
ラスボスの悪魔ちゃんを狙うなら成長してからになさい」
俺は拳銃のトリガーを引く。
だけど飛び出たのは弾丸じゃない。
旗、国旗を繋げたヒモみたいなのが拳銃から飛び出る。
何だこりゃ。
俺が国旗のついたヒモを引っ張るとズルズルと何処までも出て来る。
パーティ用のジョークグッズかよ。
「ほーら、レベル上げの為のザコいのが来たわよ」
小鳥遊リリスがそんな事を言う。
俺にも聞こえてる。
ウーウー響くサイレン。
パトカーの群れだ。
赤く光る緊急用ランプを回転させながら、警察車両がこちらに向かってくる。
アレが雑魚モンスター。
レベルアップの為の敵キャラ?
敵キャラって事はこっちを攻撃したりもしてくるのか。
もう止めようかと思ってたけど。
少しだけ試してみようか。
俺はビルの屋上から舞い降りる。
空中を軽く飛び跳ねながら、パトカーを狙う。
ランチャーから飛んで行くロケット弾。
警察車輛が爆散する。
中に乗ってたであろう警察官なんて跡も残らない。
車輌の扉で有っただろう鉄の板が飛んでいく。
別のパトカーに当たって窓を突き破る大惨事。
中の警察官は頭が潰れてる。
車輌の中は血まみれ。
グロいねー。
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
俺は適当にロケットランチャーを発射。
あっという間に大通りはメチャクチャ。
コンクート地面には穴が開き、破片が飛び散る。
通りを歩いてた人々は爆発に巻き込まれグチャグチャ。
死体や人間の破片が幾つも転がってる。
「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
「いーねぇ、やるじゃん」
見ると横に小鳥遊リリスがいた。
服に着いた蝙蝠の羽根を羽ばたかせてる。
それ、人間の身体を浮かせるほどデカイ羽根には見えねーぞ。
「何言ってんのよ、翼も無いのに飛んでるよりマシでしょ」
そう言われれりゃそうだ。
俺はタキシードにマント姿。
紳士靴でステップを踏むように空中を歩いてるのだ。
ワラワラと警察官が集まって来る。
おっかなびっくりと言った風情。
俺から距離を取って集合。
拡声器を向ける男。
「あー、あー、そこの男性。
降りて来なさい。
無駄な抵抗は慎みなさい。
君たちは犯罪を犯している。
銃刀法違反、器物破損。
重傷者も多数。
おそらく死者も出ている。
素直に投降しなさい」
はぁ、おそらくって。
馬鹿なのか、こいつ。
間違いなく死んでんだろ。
残骸になった人間を何人も見ただろうに。
俺はイラっとする。
ロケットランチャーを向けてトリガーを押す。
マヌケな音を立ててロケット弾が飛んでいく。
直後には大爆発。
拡声器を持っていた人間、集まっていた警察官は爆散してる。
銃声が聞こえる。
ドラマとかでよく聞く、乾いた音。
別の場所にいた警察官が俺を撃ったのか。
俺はマントを掴んでクルリとその場で回転して見せる。
銃弾がマントに包まれる。
俺が回転を止めると、銃弾がパラパラと地面に落ちていく。
「かっこいいいー!」
小鳥遊リリスが拍手。
だろ。
な、今の決まってたろ。
撃ったのは何処に居る?
アレか、あの黒服の刑事風。
ロケット弾ばかりじゃ芸が無い。
俺はマントから凶器を取り出す。
曲刀。
大きく湾曲した片刃の刀。
中近東風。
シャムシールとか言うんだっけ。
そのデッカイ版。
俺は曲刀を右手に持って振ってみる。
うん、扱えそう。
俺は黒服の男に近づく。
男は諦め悪く、俺に銃を向ける。
「ウソだろ、撃ってるのに。何で効かねーんだ」
「防弾マント?!」
「そんな風に見えねーな」
「チクショウ、どんな仕掛けだ。奇術師みたいな恰好しやがって」
隣にいたメガネの男もお仲間だったらしい。
俺に銃を向け発砲する。
俺は一瞬で近づいて刀を振る。
スパンっと。
メガネ男の首が切れ、頭部が飛ぶ。
首ちょんぱ。
隣の黒服に頭部が飛んでいき、盛大に血しぶきが掛かる。
せっかくの黒服が赤黒く染まってる。
「あ、あああ、ななんで・・・」
なんだ、せっかくベテラン刑事風に見えてたのに。
そんなパニクっちゃ、渋い雰囲気台無し。
俺は今度は曲刀を縦に振る。
黒服男の顔が左右に割れる、真っ二つ。
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
「ぷぷぷ、奇術師だってさー。
いいじゃん、“狂った奇術師”って名乗りなよ」
小鳥遊リリスが言う。
真っ白なタキシードの俺に。
「うーん。“殺戮の貴公子”とかじゃダメか」
「貴公子、似合わねー。
“マッドマジシャン”とか“鮮血の道化師”くらいがいいよ」
「“迸る狂気の凶器”でどうだ」
「ダジャレかよ」
「んじゃ、いいよ。“狂った奇術師”で。
そいでリリスは俺の助手な」
真っ白な俺と真っ赤な服装の小鳥遊リリス。
手品師とその助手風に見えなくも無いだろう。
「なんでアタシがアンタの助手なのよ。
アタシがリリスお嬢様。
アンタはそれに使える執事。
執事兼、奇術師兼、道化ね」
兼業多いな。
会社じゃ副業は禁止だぞ。
俺は笑いながら夜空を飛び回る。
「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」
俺はぼうっとしながら目覚めた。
頭が重い。
スマホを見るともう昼近い時間。
VRヘッドセットはいつの間にか床に落ちてる。
高かったんだぞ。
壊れて無いだろうな。
母親の声が聞こえる。
「アンタ、ご飯はどうするの。
もうお昼よ」
ドアをノックしてる。
ノックのせいで目覚めたのか。
「あー、食うよ。
シャワー浴びてからな」
なんだか、身体がだるいし汗もかいてる。
一階に降りてくとテレビが付きっぱなし。
ニュースキャスターが興奮したように叫んでる。
「見てください。この惨状を。
道路は爆破され、車輛が大破しております。
まだようやっと死傷者の搬送が終わったところ。
まだ大破した車輛の回収に取り掛かれないでおります」
画面に映ってるのは 爆破され穴が開いたような道路。
パトカーの残骸らしき物が映ってる。
似てる。
昨日の夢に見た光景に。
俺がロケット弾で撃ちまくった街。
それにそっくりな光景がテレビに映っていた。
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