TOKYOヴィラン

くろねこ教授

第1話 スカイツリーから駆け出すアクマ

【この作品はフィクションです。実在の地名、建物、人物とは一切関係ありません】

【暴力描写、反社会的描写が相当量出てきます。苦手な方はご遠慮ください。作者には政治的意図は一切ありません。大人のファンタジーとして楽しめる方にお送りしています】











俺は夜の街を見下ろしていた。



煌めくビルの窓。

闇を引き裂くネオン。

車のライトが流れていく。


俺が居るのはスカイツリー。

その最頂上部。

人は上がって来ない筈なのに、金網で囲われてる。

俺はその金網に立って、夜の東京を見回しているのだ。


高い。

本来なら恐怖で体が竦んでしまいそうだ。

だが、俺の胸に沸き上がるのは爽快な高揚感のみ。

なんせ、ゲームの中なのだ。

何一つ危険は無い。


この快感を思いっきり味わおう。

俺は金網から駆け出す。


夜の空中へ。


何も無い空間を俺の足が蹴る。

透明なガラスが在るかの様に何かが俺の足の裏に応える。

俺は跳ねるように夜の空を舞う。


おっ、電車が走っていく。

メタリックな輝き。

中には通勤帰りの人々が見える。

寝ているサラリーマン。

スマホに見入るオフィスレディー。


特急なのか、デザインの違う列車も見える。

白いボディーの先端は流線形。

未来風なデザインてヤツかな。


俺はロケットランチャーを構える。

近代兵器、バズーカ砲なんて呼んだりもするヤツ。

兵器らしく地味なグリーンに塗られたそれを肩に担ぎ上げる。

通常列車の方に砲身を向ける。

左手で砲身を抑え、右手でトリガーボタンを押す。

良く狙いもせず俺はロケットランチャーを撃った。


その先端から火花を上げる何かが飛んでいく。

打ち上げ花火の様な音が聞こえる。

何かが通常列車に当たり、大爆発を起こす。


轟音が周囲に響き渡る。


列車はバラバラ。

俺の肩に有る兵器から撃ち出された弾は列車の中腹部に当たった。

中央の3車両位が吹き飛び、残骸しか残っていない。

列車の先頭と後部は残っている。


中に居る人々は衝撃で倒れている。

列車の外に投げ出された人。

片足が無い。

爆発で吹き飛ばされたのか。

オフィスレディーらしき女性は首がおかしな方向を向いている。

どう見ても生きてはいないだろう。


あっひゃっひゃっひゃひゃひゃ。


俺は笑い転げる。

凄まじくリアルな映像だ。

世の中進歩している。

ゲームのVR映像なんてもう現実と区別が付かない。


だけどこれは現実じゃない。

当たり前だ。

俺が空を跳べる筈が無いし、ロケットランチャーなんて持っている筈も無い。


だから俺に罪悪感なんて物は無い。

だってゲームなのだから。


あそこに死んでる人々。

死に損なって、苦痛の呻き声を上げる奴らだって造られた映像に過ぎないのだ。

罪悪感なんて感じる奴が居るとしたら、それこそゲームと現実の区別が付かない危険な奴だろう。


俺は夜の空を駆け回る。


「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ…ハァッハッハッアヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ」





この頃の俺は焦っている。

胸に重く圧し掛かる重圧感。


就職活動が思うように行っていないのだ。

俺は既に大学四年生、夏休みも終わっている。

まだ内定を一社からも貰えていない。


俺の棲むTOKYOは未曽有のウイルス性肺炎による混乱で偉い事になっていた。

TOKYOだけじゃなくて全世界だけどな。


最初のうち面白がってた俺。

大学の知人たちも一緒だ。

学校は行かなくてもいいし、テストは無し。

レポート提出もいい加減。

とくりゃ遊び放題。


良い事ばかりでも無い。

バイト先のファミレスは営業時間を減らした。

俺のシフトは大幅に削られた。

挙句、営業をしばらく取りやめると言う。

せっかく時間が余ってるってのに、遊ぶ金が無い。


別のバイト先を探そうとした俺だが、親に止められた。


「アンタ、もう就職活動でしょ。

 内定貰ってからにしなさい」


何だよ、だったらもっと小遣いよこせよ。


就職活動を本気でやり出した頃には笑えなくなった。

まだ騒ぎは収まる様子が無い。

学校でやる筈の就職説明会も中止になった。

卒業した先輩たちが来て為になる話をしてくれるってアレ。

毎年、行っていた企業説明会も無し。


どこの会社も説明会は行わない。

ネット上で説明動画を公開したり、一時間程度のWEBミーティングが有る程度。

どの程度動画を見りゃいいのか、幾つミーティングに参加すりゃいいのか、さっぱり分からない。


大学に問い合わせて見ても一緒だ。

大学側もこんな事は初めて。

何とも言えないしか言ってくれない。

大学が分からないのだ。

俺に分かる訳無いじゃん。


俺は別に大企業じゃなきゃ嫌だとかそんな高望みはしていない。

もちろん有名企業には入れりゃいいけど、難しいこと位分かってる。

中小企業である程度安定してりゃ充分。

年間休日は多い方が良いよな。


だけど全く感覚が掴めないのだ。

会社で開かれる説明会にでも行けりゃ、周りの学生のレベルが分かる。

企業の人の食い付き、俺と話が弾むかどうか。

そんな事で俺でもイケル、ここはレベルが高すぎて俺には無理。

そういった雰囲気が掴めそうな気はするんだが、WEBミーティングじゃ全く分からない。


同じゼミの連中と話してみる。

リアルで会うんじゃなくて、ZOOM会話。


「就活どうよ、俺全然ムリだわ」

「俺も、俺も」


「幾つの会社に就職希望出せばいいんだろな」

「とりあえず、数出しとくしか無いんじゃね」


俺は彼女とも話す。

付き合ってる彼女。

同じ大学の学生。

彼女の家の近くの公園で二人で逢う。


「就活どうよ、俺全然ムリだわ」

「あははは、アタシも一緒」


「やっぱり、そうだよな。

 全然雰囲気掴めねーよ」

「今年はどこの会社もまともに新人入れないって言うし。

 就職浪人して来年に掛ける方が良いのかもって」


そうなのか。

女子はそれもアリなのかもしれん。

だけど就職浪人したらしたで、来年の印象は当然良く無いだろ。

第一親が許さんよな。


とにかくハジから就職志望書類送ってみる。

ハジからメールが届く。


「誠に申し訳ありませんが・・・・」

「・・希望に添いかねる結果となりました事を・・・」


「本年度は採用を既に締め切っており・・・」

「貴方様が今後より一層活躍される事をお祈り申し上げます」


似たような内容。

やたら文章だけは丁寧なメールが帰ってくる。

向こうがへりくだってるので俺が虐めてるような気にすらなる。

知りもしない人たちにやたらめったら俺の今後の活躍を祈られてしまうのだ。


余裕が有るかの様に言ってるが、俺の胸はドンドン重くなってる。

メールを開くたびに心臓が冷える。

血液の流れがおかしくなってんじゃね。

本気でそう思うのだ。

くっそ。

気晴らししないと心臓に悪い。


俺はVRヘッドセットをスマホにリンクさせる。

聞いた事も無いメーカーの安いゴーグルじゃない。

有名メーカーの本格的なヤツ。

ビックリする位高かったが、その頃の俺はファミレスのバイトに入りまくってて財布に余裕が有った。


目的はまあまあ、あまり大きな声では言えない動画を見る事だ。

俺は20歳越えてるし、動画を買うのに何の支障も無い。

後から調べるとVR動画を見るだけなら五千円くらいのゴーグルでも問題無かったらしい。

チキショウ。

俺のウン万円返せ。


そんなモノに金使うなら、彼女に使えよ。

そんな内なる声も聞こえる。

だけどな、外出も外で他人と会うのも推奨されてない。

デートしようにも映画館だってやってないのだ。


俺はトイレに行くふりをして、両親の部屋の明かりがもう消えてるのを確認する。

ヘッドセットを着けて音量を大きくしてると本当に外部の事は分からない。

俺が頭にヘッドセット、下半身に手をやってる、そんな場面を親に見られたら死ねる。


安全な環境を確認して、俺は動画に没入する。

セーラー服の少女二人が俺の目の前に現れる。

右のツインテールちゃんが俺にキスする。

左の前髪パッツンが俺の下半身に手を伸ばす。

俺は翻弄されっぱなし。

そのまま俺は動画を切り替える。

ミニスカートのオフィスレディー。

俺はお姉さんを襲う。

嫌がってる筈なのにやたらイロっぽい声を出すお姉さん。

助けを求める彼女をベッドに追い詰めて服を脱がせる。

お姉さんが怯えた悲鳴を上げる。

・・・・・・・。


俺は下半身の始末をして、ベッドに寝っ転がる。

ヘッドセットは着けたままスマホでネットニュースなんかを眺める。

そのうちネットニュースもVRになるのだろうか。

幾ら何でもデータ量が大きくなりすぎるか。

俺は適当にニュースをスクロールさせる。


胸に少しだけわだかまり。

最近嫌がるお姉さんを押し倒す動画ばかり観てる気がする。

導入には別の動画も観るのだけど結局最後はそれだ。

俺どうしたんだろう。

暴力的に女性をどうこうするような動画に興味なかった筈なのに。

あの動画をダウンロードしたのだって、暴力的なヤツだったからじゃない。

お姉さんがイロっぽかったからだ。

一応レイプ物になってたけどサンプル画じゃそこまでハードじゃなかった。

だけど中身見たら後半に向けてさらにハードになっていく。

お姉さんを色々な方法でいたぶるのだ。

時にねちっこく、時に暴力的に。

最初は罪悪感が有って、俺はあまり見てなかった。

今では毎日のように観ている。


多分ストレスが溜まってるのだ。

苛々してたら暴力的にもなる。

もうあの動画を観るのは止めよう。

フィクションとして割り切って楽しめばいい。

そんな気もするのだけど、やはり見慣れてしまうと精神が荒む気がする。

だんだんレイプ物じゃないと興奮できなくなるとか、そんな人間になっちまったらコワイ。

明らかにヤベー奴だ。

男友達にだってそんなヤツ居たら嫌だろう。


俺はフッと思いついて検索する。

セクシー女優の名前、あのオフィスレディーのお姉さん。

あの女優が気に入ったのなら、同じ女優でレイプ物じゃない動画をダウンロードすればいい。


そして後悔した。


お姉さんは誰かに似ていると思っていた。

服装も髪型もOL風にしていたから気づかなかった。

女優が女子大生風にしてる動画のパッケージ画。

それは俺の彼女によく似ていたのだ。


ああ、もちろん実は彼女が隠れてセクシー女優のバイトをしてたなんて話じゃない。

少し似てるだけだ。

瞼の少し垂れた目元、鼻と口のバランス。

顔は似てるけど、身体は別物。

服の上から見たって女優さんの方が巨乳、足だって長い。


なんか、これ彼女をディスってるみたいだな。

彼女はもちろん可愛い。

プロポーションがイマイチなんて事は無い。

もちろんグラビアに出てるような連中と比べれば胸は小さい。

だけど人並みには有る。

俺は彼女で充分なのだ。


問題は俺が女優さんを無理やり乱暴する動画を好んでいて、その乱暴される女優さんが彼女に似てるって事。

こう整理すると、俺ってヤバイ奴じゃね。

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