奇妙な同居

「おはよう。」

その後数日、彼との不思議な生活が続いた。

彼は彼女のベッドで眠り、僕の服を着て僕の家で過ごした。

僕の服。

不思議な事に、彼が着ると僕の服は、全て【薄汚れた白いシャツと白い半パンに、薄汚れた白いソックス】になってしまうらしい。

彼が着られそうな服を、風呂の都度彼に渡してはいたのだが、彼は必ず【薄汚れた白いシャツと白い半パンに、薄汚れた白いソックス】を身に着けていたから。

ただ、彼が脱ぎ捨てた服は、何故か元の僕の服に戻っている。

洗濯の度に何とも言えない不可解な思いを抱きながらも、それにも少しずつ慣れてきてしまっていた。


彼と過ごす、初めての週末。

一週間前の今頃には想像もしていなかったほど、僕の心はスッキリとしていた。

まだ、彼女への懺悔の気持ちは、心の底に残っていたけれど。

「今日は赤いウィンナーにしたんだ。タコさんウィンナーとカニさんウィンナー、好きだろ?」

2枚のパンを焼きながら、二つの卵でスクランブルエッグを作り、その隣でタコ型とカニ型にした赤いウィンナーを焼く。

彼は基本的に、僕の言葉には小さく頷くだけ。

それでも、その時僕には、彼が少しだけ笑ったように見えた。


彼女と過ごしていた間には、赤いウィンナーを口にしたことは無かった。

着色料を気にしていた彼女が、赤いウィンナーを好まなかったからだ。

だが僕は、小さい頃から赤いウィンナーが大好きだった。

そして、赤いウィンナーと言えば、タコさんウィンナーかカニさんウィンナーだろう。

昔、母が良く作ってくれた。作ってくれる度、僕は大喜びしたものだ。

自分だけが食べる為に作る気にはならなかったが、今は、彼がいる。

だから、久し振りに作ったのだ。赤いウィンナーで、タコさんウィンナーとカニさんウィンナーを。

「うまいか?」

そう尋ねる僕に、彼はやはり小さく頷く。

でも、どう欲目に見ても、口元が綻んでいるように見える。

そして、いつもの硝子玉の目の中には、僅かながらに『喜び』の感情が見えた気がした。

「味なんて変わらないんだけど、さ。ダメなんだよ、やっぱり。タコさんウィンナーとカニさんウィンナーじゃないと。」

僕の言葉を聞きながら、少年はペロリと朝食を平らげた。

うん、いい食べっぷりだ。

きっと彼は今日も、元気に生きてくれるはず。


少し安心したところで、他の不安要素が頭をもたげてきた。

彼は、このままここに居続けていいのだろうか。

彼のご家族は、心配しているのではないだろうか。

行方不明届や捜索願いなど、出されているのではないだろうか。

どうしても家に帰りたくない事情があるのであっても、見るからに未成年の彼の居所は、さすがに保護者には知らせる必要があるだろう。

幸い、今日は仕事も休みだ。時間はたっぷりある。

朝食の片づけを終えると、僕はダイニングテーブルを挟んで彼の正面に座り、彼と向き合った。

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