21枚目 ひとつき
ある一人暮らしの部屋、今日は来客を招いている様子だ。
「ケン君の家、キッチンも綺麗なんだ〜すご〜い!」
「いやいや、はははは!ほら、肉じゃが出来たよ!」
「すごーい!超美味しそう〜!」
「いや〜!あ、そうだ!ごめんね、うち箸1膳しか無くて…割り箸でもいい?」
「全然いいよー!じゃ、これ開けて使うねぇ…いたっ!」
ビニールの個包装から取り出す時は少し気をつけねばならない。
付属の爪楊枝が飛び出し、突き刺さってしまったのだろう。
人差し指にプックリと血が浮かんでくる。
「あーん…!ケンくーん、絆創膏とかあるー?」
「…ん?あぁ、あるけどどうした?」
円らな目を輝かせ、上目遣いで指先を舐める姿にケンは何を感じるのか。
「あひゃひゃひゃひゃ!!やった!やってやったわ!ザマァみなさい!
泥棒猫がぁぁあああ!!復讐してやったわぁっひゃっはっはっ!!」
爪楊枝のタヤコは、住処から飛び出すなり爆発したように笑いが止まらない。
無機物といえど、何か世間に対して鬱憤が溜まっていたのだろうか。
眼球は遥か上を見つめ、口角も釣りあがっている。
「つまらない女っ!情けない女ぁ!あたしから見りゃあんたなんか鼠輩よ!!!
アッヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャアヒャ!!!」
部屋にいる同紙の白い目など気にも留めず、タヤコは快哉を叫び続けた。
「え、っと…確かここの引き出しに…あった!絆創膏あったから使って!」
「アヒャヒャッ!!こんなんじゃ、まだまだあたしは終わらないわよ!
おるぁわぁぁああああっ!!!!」
タヤコは床に落ちると同時に受け身を取り、その力に任せ側の冷蔵庫の下に転がり込む。
「あれっ…楊枝落ちちゃったはずだけど、見つかんない…」
「んー?ほんとだ、どっかに入っちゃったんだろうね。
まぁー、いいよ!それより食べよ!お腹減ってたでしょ?」
「うそー最悪〜。ごめんね?」
「全然!こういうのってポロっと出てくるもんだから!」
2人は器に装った肉じゃがを持ち、キッチンを後にした。
バラエティを鑑賞しながら、楽しげに食事する姿を暗がりの中から眺める爪楊枝。
「あはは!な〜んて間抜けな女!馬鹿な女!あたしとは大違いよう!
ケンちゃん安心して!あたしここにいるからね!もう離れないからね!!」
暗い影に紛れ、埃に塗れ、引っ越しのために冷蔵庫を撤去するまでタヤコが発見される事は無かった。
「ずっと、ずっと側に置いてね。」
・罪状:嫉妬
・死因:餓死
・来世:紙コップ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます