19枚目 気高き字札のマダムとしては

今回の勝負の結果、そして札が何枚取れたか、専用のプリントにメモを残し、

席を一つ隣に移動する児童達。クラス中で総当たりになる様に、もう何ヶ月もかけて百人一首に取り組んでいるのだ。


それぞれの机の隅には屍の如く、積み重なった字札の束。

すると、彼らを収納している箱からスルスルと何枚かの絵札が出てくる。


「ウェーッヘッヘッヘッ!!もう、あんなにボロボロになって。下々の皆様にはお似合いです事。本日も、高みの見物させて頂くザーンス!精進なさって!」


「あれは…貴婦人。またか、絵札はどいつもこいつも性格がねじ曲がってやがる。」


「ほ〜らほら!素早く立ち上がるザンス!あーた方の様な駄紙は、

童に叩き潰されてる姿がお似合いザンスよぉ!ウェーッヘッヘッヘッ!!」


「ウェーッヘッヘッヘッ!!!!!」


鮮やかな色彩も上の句も施されている絵札達は、横一列に並んで変形するほど仰け反りながら嘲笑うのであった。


「ち…きしょう、め…」


「あいつらも…俺らと同じ歌が書いてある…ただの紙だろうが!」


突然、パチンッと先生の手を叩く音が木霊する。


「えー、準備できましたね!それじゃ始める前に先生の方を見てください!」


「…?なんだなんだ?」


「せんせー早くー!やんないのー?」


教室内の視線が教卓に集まる。


「オホンッ!みんな百人一首暗記してきてるから、少しルールを変えます!!」


「ええぇぇっ!?!?」


「大丈夫!いつもと逆の事をするだけです。今、机に並べてる字札は片付けて

絵札を並べて下さい!これから、先生は下の句だけ読みますので、みんなは

上の句を思い出しながら絵札を取ってください!。」


「…はーーっい!!!!」


好奇心旺盛な児童は、常に新しいものを求める。

今まで、穴があくほど見てきた文字だけの札は箱にしまい、

代わりに手垢や汗の染みてない、綺麗な絵札を並べていく。

普段と比べて、取り組む姿勢は1段階ギアが上がった様に見て取れる。


「ちょっ、と…嘘でしょう…?」


木製のリングに並べられ、動揺を隠せない上流絵札ら。


「では、読みます!ながながし夜を〜…」


「はいっ!!!!!」


「デベファッァア!!!!!」


高尚なお方が描かれている紙を叩く事が少し気になるが、純粋無垢な子どもに

取っては瑣末な事かもしれない。


「しづ心なく〜…」


「はいっ!!!!!!!!!!!!」


「ぎゃああああザンス!!!!!!」


ひさかたの貴婦人の顔面も、容赦無いビンタにより吹き飛ばされた。

絵札達の断末魔を聞くなり、瀕死状態だったはずがひょっこり

起き上がる、マダム朝ぼらけ。


「あらあら、まぁまぁまああっ!なんとも貧弱なお声ザァマスねぇええええ〜♪

上の句さん達にお手本ご教示願うザマスわぁ〜よぉおっほっほっほっほっほ!

ブォオオッフォッッフォッフォッフォッフォッフォッフォッ!!!!!!」


悲鳴と高笑いが、いつまでも教室内を包むのであった。



・罪状:怠惰

・死因:圧死

・来世:ティッシュペーパー

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