18枚目 ついぞエブリナイ
昼下がり。偶然、隣に居合わせた知人を見つけ、声高になる女性。
「あらっ、マダムじゃない!久しくです〜。」
「まぁっ!やだ奥さん!お久しぶりザマス♪ちょっとお痩せになった?」
「そうなの〜、なんだか最近忙しいじゃない〜?」
「ほんっとそうなのよね…でもジムに行かなくてちょっとラッキー?
な、ん、て!オホホホホホホホホホ!」
「やぁだもぅ〜、オホホホホホホホホホホ!!!!」
「奥山に〜、もみ…」
「ホホホ……べブォファッァア!!!!!!!!」
彼女の御尊顔は引っ叩かれ、あまりの勢いに床に弾き飛ばされ落ちてしまった。
「はいっ!!!!!!!!」
その衝撃と同時か、先か。子どものハツラツとした声が響く。
「奥さん!まぁ、なんて事ザマス…」
対面の相手よりも先に、早く札に触らないといけない。
乱雑に見えるが、これが在るべき姿。
百人一首の取り札である、彼女らの役割なのである。
「また、始まってしまったのザマスね…」
「秋の田の〜、か…」
「はい!はい!はいっ!はい!はい!はい!はい!はいっ!!はい!」
「ングォ!!ハビィッ!!ザマス!!ベファ!!イデェッ!!ゲフォッ!!」
タンタンタタンッ!と、幾つもの机を叩く音がアサルトライフルの如く鳴る。
同時多発的に同紙らの、悲痛な叫びも聞こえるのであった。
鼻が曲がってしまった札、目の上に紫のアザができた札、
打撃に耐えきれず失神した札もいる。
下の句達は毎回、満身創痍である。
文字しか記載がないのに、叩かれ飛ばされの重労働で割に合わない。
それに比べて、上の句は気楽なもんだ。古のお偉方の絵も描かれてれば、
丁寧に色も塗ってあるし、汗を流す仕事なんかほとんどない。
「屈辱ザマス…毎日毎日こんな仕打ち…もう、百人一首労働組合を徒党して、
不当な就業条件を抗議する運動を…始めるしか、道は無いザマス…!!」
と、キーキー騒ぎ立てるマダムの横に、一際ひどく傷んだ札が寄り添う。
「お耐えなさんし…マダム朝ぼらけ。それは天命に反する行為。
あっしらは、ジッと凝視され叩かれる事で児童の記憶力と反射神経、並びに学力向上の手助けをするのが役割。そんな事をしたら、来世が高くツキますぜ。」
「…あしびきのオヤっさん…そこまで言うなら…我慢、するザマス…」
「フッ、まぁぼちぼちやっていきやしょう。比較的ここでの命は、長い。」
「はい!それじゃあ以上となりま〜す!」
毎日この瞬間のために生きている。
この業務終了の合図を聞くと、同紙達は泣いて喜び、とんがった肩を抱き合う。
「それじゃあ、窓側の人だけ席を隣にずらして、2回目行きましょうね〜。」
黒板の前で読み上げていた教師がそう告げると、忙しなく子ども達は
席替えを始めた。
「…もう、無理ザマス…」
・死因:過労死
・来世:画用紙
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