14枚目 フラッシュバックシンドローム

「それじゃあ今から、先生達と折り紙折っていきましょうね〜」


「はーいっ!!!!!」


「えーーやだ、つまんなーい。」


おままごとや、絵を描くのが好きな園児は意気揚々と準備に取り掛かるが、

走ったりじゃれ合ったりヒーローごっこで体を動かすのが好きな子からは不満が出てしまう。


「ごめんね隆二君〜今日はお外が雨だからお部屋で遊ぼうね〜。」


「ちぇっ…」


「ふふ、ありがとうね。折り紙も楽しいからね。」


「…はーい。」


グラウンドを叩きつける様な豪雨の前では、いくら活発といえども諦めて

大人しくせざるを得ない。

園児らは、テーブルの上にある紙で思い思いの作品を折っていく。


「わたし、ひこーき作れるの!見てて!」


「あらそうなの?萌ちゃんすごいわね〜!先生に見せてくれる?」


「うん!いーよ!!」


三つ編みの園児は濃い緑色の折り紙に手を伸ばし、

初手としてキッチリ半分に折り畳む。


「あぶふぇっっ!!」


瞬間、緑紙のイオリは泡を吹き卒倒してしまう。


毎度の事ながら同紙の声は人間には届かない。

今回は天命に次ぐ天命、オンパレードになりそうだ。


「イオリ!!まぁなんてこと…!!背骨が、逆に曲げられてる…!」


呑気に他人の心配をしている、赤紙のオリミにも魔の手が伸びる。

外で遊びたがっていた子どもだ。


「キャッ!」


ビリビリビリッ!!


「ぶべはぁあっっ!!!」


見るも無残、何回も何回も何回でも。

残酷に全身を引き裂かれ、終いには空中に放り投げられる始末。


「アタシ達…何を、したっていうの…?」

桜の様に舞い散る彼女の目には、園児達の笑顔と同紙らの阿鼻叫喚。


「あぁっ!もぅ隆二君!折り紙は破って遊んじゃいけないんだー!」


「っるせー!」


純粋無垢で体力の有り余っている子どもの、おもちゃ相手・遊び相手は意外と

ハードなのである。


「こんなの、まるで、地獄…よ…」


哀咽しながら呟く、鶴になった黄紙のサオリ。

白目を剥いたまま動かない、緑紙の飛行機。

満身創痍でアサガオになっていた青紙のカオリ。

その周りで、彩りを加える様に床に落ちていく赤紙のオリミ。


「もう、グスッ…やめて…」


お尻を押されると跳ねるカエルになった、黒紙のイノリ。

体中の痛みと戦いながら、廊下で黄緑色のカエルとピョンピョン

競争させられているのだ。

跳ねさせられ、着地する度聞こえる全身の軋む音が、

かつて折り紙として産まれた頃の自尊心を消失させる。


「今までは天国だと思ってた…でも今は地獄…そしてしばらく一生この姿…

ここから未来は…永遠の煉獄?」


彼女達の目から光が消え、表情からはもう生気を感じ取れない。


「死にたいのに…死ねない?」


土砂降りの雨音に、子ども達の笑い声が溶けてゆく。


「誰か…私たちを焼き払って。」



・死因:全身粉砕骨折

・来世:ティッシュペーパー

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