13枚目 木になる人

夜が明け、06:32。

なんとかベッドの誘惑から抜け出し冷蔵庫に向かう。眠い。

ペットボトルの水を口に含む。

グチュグチュとしばらく口内をすすぎ、続けてガラガラうがいも欠かさない。

そしてペチャッと鉢の土に吐き出す。


「全く、どんなプレイよ…これ。」


この不可思議な苗をもらった際、花屋の魔女に栽培方法を聞いた。

植物を育てるには、水と日光が大切だと。

この苗は近い将来、私の彼氏が生えてくる。

どうせなら理想の男を育てたいわよね。

魔女曰く、生理的な好き嫌いは自分の頭で考えるより、

DNAに既に刻まれているらしい。


まぁ、なんとなく分かる。

嫌がらせをされた訳でも不気味な人でもないのに、

会社や学校で苦手な人間はいた。だからまずこちらからはアプローチしない。

そういうことなのかな。

無意識下で、私の細胞達が拒絶反応を起こしていたのかも。

そんな彼氏が生えてきたらマジで最悪。速攻枯らすから。


そんなミスマッチを防ぐために品こそは無いが、先ほどの様な水やりを行う。

鉢の中には人間が生えてくる苗。

それに伴って、土も南アフリカで採れる希少なものを使ってるらしい。

唾液まみれの水を吸うことによってその人間が今、細胞レベルで最も求めている生命体を構築していきながら成長していく、と。

身長、体格、年齢、顔に性格、ジグソーパズルの様にぴったりと私にハマる人間(この場合は彼氏ね)が生まれてくる。

なんだか占いみたい。自分が知らない自分のことを、

他人から明かされるみたいな。

口の中だけで、細菌が何億個と生息しているってどっかで聞いたっけ。

合ってるか分からないけど。

そう思うと人間の身体は摩訶不思議だ。

とにかく朝一番と夜寝る前の2回、この要領で水をあげてやるそうだ。


今日で3日目、土の中からニョキッと1cmくらいの枝が生え、

その頂上に葉っぱが成った。

単子葉類なのか双子葉類なのかの種類は詳しく無いので判別できないが、

ひとまずは成長しているのだ。

でも本当に人間が生まれてくるのかしら、まだちょっと疑わしい。


「やば、会社行かなきゃ…」


ティッシュ箱から眠っていたトモヤが引き抜かれ、彼女の濡れた唇と首回りに浮かべた汗を拭い取った。


髪を梳かし、口紅を施し出社の準備をする美亜。

天命はいつ来るか分からない、油断大敵さ。


「…ハッ!ここはどこティシュか!?…くっ、苦しい、息がっ…!」


同紙達が眠る墓場で彼もまた、運命を共にするのである。

この世界で生まれ落ちた瞬間に、素晴らしい未来は確定したも同然。

さぁ、楽しんでおいで。


・死因:溺死

・来世:和紙

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