9枚目 かねてより愛を込めて

お引き取り頂けませんか?

あのねぇ。

さっきから何遍も言ってます様に、我々は正義の味方なんです。


悪事を暴き、真実を白日の元に晒してるのですよ。

重大な政治事件だとか、警察や裁判が手を出せない事件まで、

あんまり大きな声じゃ言えない凶悪な事件を取り扱ってるんですよ。

民主的イデオロギーに基づいて、機密情報を告発しています。

この国で最も強力な影響力並びに権力であると自負しております。

だからこそ正しく働かにゃあならんのですよ。


そうです。

危険を伴う稼業ではありますが、誰かが悪の根を取り除かねばならないんです。

私たちは誇りを持って日々闘っています。

来月で2歳になる娘の自慢のパパになるために、

腹ぁ括って毎日現場に急行してるんです。

また悪というのは空気みたいなもんで、どこにでも存在しているのですよ。

朝だろうが夜だろうがね。


それでなに?

記事の内容に虚偽がある?


ったく…

良いかい?

あんたは悪人の何たるかを心得ていない!


細かい部分なんてどうだって良いんですよ。

理解できますか?

あんな人間が今も、のうのうと過ごしている事実自体が

既に間違っているんですよ。

たかが人様の前で、やれ歌ったりだの踊ったりだの、ふざけたりだの、

半裸同然になってみたりって…

そんなんで、我々の月給の何十倍もの金を受け取っているんだ。

あぁ、しょうもない、しょうもない。

私はね、愕然としているんですよ。

こんなの、悪以外にどう形容できると言うんです?


ああいった奴らの身辺を調査して、命からがら、なんとか得られた裏情報を

国民の皆々様に広くお伝えする。知る権利ってのがありますから。

正義の審判を下す者として当然の行為なんですよ。

そもそも一言一句、正確な情報を知ってるなんてその本人しか知らないだろう?

内容に多少の間違いは付き物さ。

これだから若造は…


もっと言うと、正確さなんてどうでも良いんだよ。

こちとら命削って書いてそれで飯食ってんだ。

記事が出来ちまえば、後のこたぁ知ったこっちゃなんのこっちゃだ。

はぃ?

良いんだよ、向こうは金持ってんだから。

こっちは仕事だが、あんたらは経済的格差が引き起こしたレジスタンスとでも思ってくれればいい。

どこの国でもある、大した事ないんですよ。



一気にそう言い放つと、彼はキツツキみたいな唇をより一層尖らせ、

その僅かな隙間に紙タバコを差し込んだ。

両眉を中心に寄せて、緑色の100円ライターに手を伸ばす。

小指の爪くらいの大きさの火を上げ、タバコの先端を紅に染めあげる。

ブハァッと白煙を天井に吹き付け、さらに続けた。


退屈だね、今日も出番が来なかった。

もう少し待てば天命が来るよ、タマキ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る