8枚目 ショートケーキでさようなら

「私達、別れましょ…?」


「え…」


大事な話がある、と言われ部屋に入れてもらうなり、突然打ちつけられた提案。

男が驚くのも無理はない。

付き合い始めて約2年、お互い良い年齢になってきたし、てっきりプロポーズでもされるものなのだとばかり思っていたからである。

タマキも不意の出来事に口が開けっ放しになる。

ティッシュ箱からひっくり返りそうになった。


「ど、どうし、て…どうしてなんだ!?」


「…お互いのためを思ってのことなの、分かって!!」


「分からないよ…分からない!き、君がなんで、こんな…?」


「私だって悩んだ…でもこのままじゃ、2人とも幸せにならない!」


「そんな…僕はこんなに幸せだよ?ほらこのケーキだって駅前で買ってきた!」


「ごめんね、分かって、あなたの事を、思ってなの…」


「そんな…待ってくれナギサ…」


「…なに?」


「き、君を一生守るって、僕は約束したんだ!!」


「…それが、それが嫌だって言ってるの!!」


「…?」


「…お、重いのよぉぉぉっ!!!」


男は言葉を返せなかった。

あまりにも唐突で、現実味のない言葉を涙声で叫ばれたから。


「いつ送っても返信早いし、長文だし、私の投稿に絶対いいね押すし、急に電話かけてきて3時間は付き合わされるし、遊び行った帰りには絶対書いてきた手紙渡されるし…うぅっ!」


「そ、そうか…分かったよ。ナギサ。」


「…グスッ、ありがとう。でも楽しかったの…」


「他に男が出来たんだね。」


「…え?」


「恐ろしいよ、僕への当てつけか何かかい?前来た時と比べて、部屋の匂いも家具の配置も下着も本棚も何もかも整理されて変わってる。ほら、2人で撮った写真も飾ってくれてない。」


「いや、別にそういうつもりじゃ…」


「もういいよ!!!!」


「…!」


「僕は、僕はこんなにも君を愛しているのに…本当にショックだ。いつから二股なんかかけていたんだい?君らしくもない。僕に対する裏切りじゃないか。

好きなら好き、嫌いなら嫌いだと、はっきり口に出せばいいじゃないか。それをこんな小細工までして…ひどいよ、あんまりだ、立ち直れないよ。」


長丁場ご苦労さん、天命だ。

いつの間にか、男は泣きじゃくる女に向かって走り出していた。


ドスッッ!!


キッチンからは、包丁が1本取り出されていた。

いつか2人でカレーや肉じゃがを調理した時に用いた、思い出の品。


「拭かなきゃ…」


取り出されたタマキの薄い体は、純白から鮮やかな赤色に変貌していく。

植物繊維程度じゃ計り知れないことが、この大人間の間では巻き起こるのだろう。そう感じながら、彼女もゆっくりと目を閉じた。



・罪状:嫉妬

・死因:溺死

・来世:折り紙

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