7枚目 ヘッドショットは陽動に

ティッシュにだって辟易する権利がある。


年季を感じさせない綺麗でモダンな白い室内なのに、床には脱ぎ捨てた衣類や

漫画・小説・ビニール袋が乱雑に多国籍に積み重なっている。

認めたくはないが少々、ハエなんかも絶賛飛翔中だ。

タダシとしては、それらが終始視界に入っているので、いい加減に片付けて欲しいと願っている。


しかし家主は誰がなんと言おうと動かない。

親や友の言葉も耳に入らない、自分の中で全て答えが固まっているから。

死んでいるわけでは無いが、無機物の彼から見ても生きているとは

とても言い難い。

椅子にどっかり腰掛け、一日の大半を机に向かって過ごす。

たまに動き出したかと思えば、寝巻きのままコンビニに行って、

カップラーメンとおにぎりを2つばかし購入する。

黒いジャージは外出する場合にも対応している様だ。

午後を回ると清掃しそうな雰囲気を醸し出す。

チラチラと自らが犯した惨劇を流し目で確認し、気にかけているからである。

結局は何もしない。実に5日連続でこの調子である。

いくらティッシュといえど溜息も漏れる。

タダシの立ち位置としては家主の背後にいるため、

岩を見ているのとほとんど差異は無いのだ。

また彼の住処箱も例に漏れず、フローリングの床に置かれている。


おっと、おめでとさん、君に天命のお迎えだ。

クルッと家主が振り返り、腰を浮かせ、コッペパンみたいな腕を伸ばす。


「…遂に、きたか…」


バッ!バッ!バッ!バッ!バッ!バッ!バッ!


「ズフーーーーー!!」


タダシのみならず、豪快に何枚も同紙達を抜き取り、間髪入れず鼻をかむ家主。

激しい面構えの割には割と乾いた音を聞く限り、

そこまで鼻水を吐き出せている様には見えない。

先に旅立った同紙の話では、7〜9人の仲間が消えるので別れの言葉は

早めに済ませないと後悔してしまうという。

なるほど、合点がいった。

そしてこの家主の様なタイプは我々にとって、そして大いなる森林にとっても

非常に害のある人間だ。

丸まった彼らを見てみよう。

おいおい…

硬式野球の球くらいはあるんじゃないのか。

彼らの苦しい嘆きが聞こえてきそうな程、ギッチギチに固められている。

ありえない。

これは明らかに、同紙に対する侮辱であり冒涜、名誉毀損である。

鼻水を受け止めるなどという仕事、本当は2枚で充分事足りるのだ。

それを何枚も何人も…

役目もそこそこに、ほぼ乾いたままの姿でこの世を去ること。

こんなに報われないんじゃ来世は絶望的だ、まるで期待できないよ。

適切に消費しないと世界が壊れてしまう事を、同紙は知っている。


「ふぃー、っしょっと。」


家主は定位置に座り直し、伸び過ぎた前髪を掻いた後、深夜までアプリゲームに耽るのだった。


・罪状:傲慢

・死因:圧死

・来世:トイレットペーパー

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