10枚目 荒唐無稽のラブソング

おほんっ!


この稼業に心休まる時間なんて無いんですよ。

正義のヒーローは多忙なんです。

みんな寝食の時間を削って任務に就いているんだ。

奴らいるところに悪ありなのだ。

全員絶滅しちまえば多少は休日ができるのかもしれないが、

そうなったら今度は食い扶持に困っちまう。

こちとら、養育費とか納税とかで大変なんですわ。


さて、もう良いですか?


そろそろ現場に行かなきゃなんでね。

あ、そうそう名刺を出してくださいね。

えーっと…はいはい、芸能会社の方ね。

おたくの所属している女性アイドルの記事に関して虚偽があるって?

裁判も辞さないって仰ってましたっけ?


構いやぁしませんがね。損するんはおたくですよ?

判決は1日、2日でサクッと決まるもんやない。

1年、2年、いやもっと時間はかかりますよ。

ほんでもし、激闘の末おたくらが勝訴したとしましょう。

その成果は、すずめの涙ほどの賠償金が支払われるんがオチや。

そうそう、優秀な弁護士雇うんも覚悟せな。

とんでもない額かかりますからね、目玉飛び出まっせ。

そのお嬢さんとそちらさんの未来、よーく勘定してから決めた方がいいですわ。

別にええことやないですか、その子だって立派な1人の女の子や。

恋愛なんてして当たり前やないですか、何をさっきから怒ってはるのか…

真実知らせるんが私らの仕事言いましたやろ?

仕事しただけですよ。


それともアレですか?

おたくら彼女が男とお泊まりしてるなんて知らないから、

先に見ず知らずの私が知ったことが悔しいんでしょ?

ナハハハハハハハ!!!!!!

いや失敬、オホンッ

まあ、あれや。

そっちがどう動くか勝手ですけど、覚悟持ってやってください。

これ以上騒ぎを起こしたくないなら、もう黙っといた方が身のためですよ。


それじゃあこの辺で。

おい、橋本!裏に車回しときぃや!!!


バタンッ!


「…」

あの記者は出て行ってしまった。

これから華やかな舞台を目指す地下アイドルにとって、

熱愛発覚の報道は即ち死を表す。

うちは小さい事務所で彼女達の知名度も低いからまだ

大丈夫だろうと高を括っていた。

くそ、俺はこれからどうしたら…サブマリンラブを…住宮ミヤを救わねば…

彼女達だけじゃない、

折角ここまで付いてきてくれたファンを失望させてしまう…

稼げなければ我々社員、その家族は路頭に迷ってしまう…

金が全てじゃないのは分かってる!

でも…ちきしょうっ!

ここまで泥水を啜ってきたのに…ここまで這い上がってきたのに…

だめだ、悔しくて立ち上がれない。

自然と近くにあるティッシュに手が伸び、涙と鼻水もついでに拭き取る。

なんとかしなくては、俺がなんとかしなくては。


・死因:溺死

・来世:新聞紙

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