5枚目 踊ろよディッシュ
昼下がりの洋風ファミレス。
店内に1組の母親と子が入り、席に通される。
メニューや調味料と、一緒に並んでいるテーブルナプキン。
その一番手前にいる彼の名は、テツミチ。
前世はティッシュだったが、社会的地位も権力も財もあるお方の口周りを拭った功績から今世はここで生活している。
身支度はきっちりこなし、皺なんて1か所も見当たらない。
「…しかし俺はラッキーで、なんて誇り高いんだ。こんな素晴らしい場所で働けるなんて。同期のあいつらなんかと比べても頭一つ抜けたな。
ここでも高貴なお方のお世話をして、俺はさらに成り上がる。出世街道をひた走るんだろうなぁ。」
早速注文した品が来たのだろう、素敵な香りが近づいてきた。
なんとも微笑ましい日常ではないか、親子仲良く食事を楽しんでいる。
そしてこちらもお祝いだ。君にも天命が来た様だね。
「またお口汚して〜。ほらっ、拭いてあげるから!」
急いで母親は、テツミチを引っ張り上げる。
対面にいる息子は、まだお子様ランチをお行儀良く食べられる年齢に無かった。
ミートソースが唇だけでなく頬にまで付着してしまっている。
「…こっ、こいつの世話だと!?やめろ!そんな…何も成してない何者でもないやつじゃあ、私は上に行けない!!その手を離すんだ!!」
嘆き叫んだところで、誰の耳にも入るはず無いのだが。
「あれ、昨日の、私…?」
我が子の口周りを綺麗にしてあげている中、既視感に気づく。
母は、化粧など気にせず泣きじゃくっていた昨晩を思い出す。
自分でやったのか、あの人にぶたれた時か。
手で口を触り、真っ赤な口紅が伸びてしまって、口裂け女みたいになっていたっけ。マスカラも涙で落ちて、まるで動物園のパンダだった。
「ぁ…」
いつ寝てしまったのか覚えてない。
大声で怒鳴ったから1日中、喉の奥がイガイガする。
あの人の姿は無かった。
「きゃうーーー、やっ!」
そのままぼーっとしていた母の手からテツミチは奪われ、
幼子によりビリビリと破られてしまう。
「のわぁああああああ!いってぇええええ!!!!!!」
ミートソースだらけのテツミチの身体が半分になり、
片方は床に落とされてしまった。
かわいそうに、まさに悪魔の所業。
片翼をもがれてしまった鳥はイメージ通りに飛翔できない。
食べカスが落ちている床の上で、テツミチは転げ悶える。
「くっそ、私ともあろう者がこんなガキに…!畜生、畜生…!!」
幼子らしく、食器をカチャカチャ鳴らして愉快そうだ。
彼の怒れる声が聞こえているのだろうか、いや聞こえない。
「パフェも食べちゃおうか!」
「アィーーー!!!」
まだ上手に発音するには時間がかかるが、きっと喜んでいる。
気持ちや感情は手に取るように分かる、なぜなら我が子だから。
親子の幸せなひと時はしばらく続いた。
・罪状:傲慢
・死因:過労死
・来世:ウェットティッシュ
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