4枚目 今宵、悪魔と燃え上がる

秋。陽が傾き始め、空気が少し冷たくなってきたキャンプ場。

ハエの様に両手をこする男女が1組。


ポケットティッシュの中にいるタヤコは、彼の左ポケットの中が好きだった。

優しく包容力のある体温を、直に感じることができるのだ。

彼は花粉症では無く一応の備えとして持ち歩いているため、

この3ヶ月間ほど出番は来ていない。

だからここ最近、外出する際は必ずタヤコ達を携えていく。


「…いつまでもあたしを側に置いてね。」


ポソッと呟いた言葉は、空っ風に混ざって飛ばされる。

タヤコは彼に恋をしていたのだ。


でもおめでとう、思わぬところで天命が訪れた。


「なんか火つかないねぇ…ちょっと、寒い…かも。」


「…大丈夫だよ、ほらっ!」


いつの間にか密閉されていた袋から寒空の下に引っ張り出されていた。

そしてタヤコにライターから上がった焔が移る。


「…え、うそ…でしょ?え?え?マジ?」


一瞬で戸惑うタヤコの全身を駆け巡っていく炎。


「ケン君すごーい!火ついた!」


「まずは水分が無くて燃えやすいものから薪に火を移していくんだ。」


「詳しい〜!もう、好きぃ〜〜!!」


「アハハハハ!」


テンションの上がる二人。

キャッキャキャッキャと賑やかに保冷バッグから野菜や肉を取り出していく。


「なに!?なにこれ!!!どういうこと!!!?」


打って変わってタヤコは自分の場所がいつの間にか、彼のポケットから

松ぼっくりや小枝と一緒の焚き火台になっていることに驚いていた。


「うそ…なんであたし、こんな…汚いとこに…」


そんな彼女などお構いなしに、火炎は真っ白の身体を黒く焦がしていく。

無事に十分な火力を得た二人はイスと肩を近づけ、暖を取っていた。


その様子を、燃え盛る炎越しに見てしまったタヤコ。


「うそ…ケンくん…」


多分、いや気のせいではなく、彼女の頬から涙が伝い落ちた様に見えた。

そんな微量の水分で、火は消えてくれないのに。


「…くそがぁぁあああぁぁああ…おぼえてなさいよおぉおおぉおおおぉ!!!」


真っ黒になってしまった彼女の憎しみは誰にも聞こえない。


「こんっの、どろぼうねこがぁあぁああああ!ぜっっったいに来世でも呪ってやるわぁぁああははははへはははあははあはははあはへはああああああぁぁ…!」


やがてティッシュの様に薄い素材の紙は灰となり、

炎が生み出す上昇気流に乗ってどこかへ吹き飛んでいった。

役目を終えた彼女は、そのまま天に還っていったのだろうか。


「あんたのせいねぇ…!あんたがさむいさむいなんていうからしかたなくけんくんがあたしをぉおむぉぉもおおもやしてえええええええ!!!ゆるさないからぁああぁぁあ!!あんたのつらおぼえたからああははああぁぁぁああおぉぉ……」


夜の楽しいキャンプは始まったばかり。


・罪状:嫉妬

・死因:焼死

・来世:爪楊枝

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