3枚目 勝手に紙やがれ
俺っちの名前はテッタ。
このマンションの1部屋で過ごしている、ただのしがないティッシュさ。
ルームフレグランスの香りに包まれ、家主のアサミがいない時は
ペットのチワワに構ってもらってるから退屈しないねぇ。
すぐに仲良くなったんだ、もう俺っちと奴は相棒だぜ。
小綺麗に家具やら雑貨も整理していて、ありがてえ環境だ。
おっと、早速コングラチュレーション。
短かったこの場所ともお別れか、天使がラッパを吹きながら
迎えに来てくださった様だ。
ゆっくりと箱から引き抜かれ、半分に折り畳まれて彼女の鼻にあてがわれる。
初めてこんなに近くで見たが、こんなに小さい鼻だったんだな。
お目目もまん丸で可愛いじゃねえか、無機物と味気ないキスでもするかい。
まあ冗談はやめよう、俺っちの腹はもう決まってる。
さぁ、お前の全てをぶつけてくれ。
「んふーっ。」
誰もいないのなら、盛大に音を奏でて鼻水を追い出せば良いのに。
遠慮せずに激しくぶっかけてくれて問題無かったんだぜ?
こんな所からも育ちの良さが伺えるな。
いや女の人って、俺たち男とは違ってるだけかも?
しかし同紙達から聞いてた不快感など全く無いな、むしろ心地よい。
粘度は高くてベチョベチョしてはいるが、なんでだろう。
この瞬間をずっと心待ちにしていたからかな。
汗臭い野郎の鼻水にまみれた、なんて話も聞いてたからそんな
暗黒エピソードと比べたら最高だ、ティッシュ冥利に尽きるぜ。
大学生の若い体液で溺れ死ぬなんて、幸福以外になんて形容したら良い。
しかしこれからおっ死ぬってのに、この安らぎはなんだ?
ハッ、呑気なもんだぜ。
身体中でこんなに温もりを感じられるのは、今までこの体液が
アサミの中に存在していた何よりの証拠だ。
人間ってこんなに温度があるんだな、初めて知った。
ご存知の通り、ティッシュだからちょっと羨ましいぜ。
蓋が開き、ゴミ箱に収納される。
じゃあな、アサミ。元気でガンバレよ。
あと昨日から少し咳が出てる様だが、もしかして風邪引いたんじゃないか?
だめだぜ、試験が近いからって無理して夜更かししちゃあ。
とりあえず薬でも飲んで、今日は早く寝な。
ベッドにはもう相棒が丸まってるだろう。
いつもこの時間は床で伸びてんのに珍しいだろ?そういうことだ。
後は任せたぜ、相棒。
へっ、元気の良い返事だな。
さて次の俺っちは今よりもっと位の高い紙になってるだろうな。
来世を楽しみに眠りにつくとしよう。
それじゃあ、さよならだ。
・罪状:色欲
・死因:溺死
・来世:画用紙
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