2枚目 飾りじゃないのよ、ティッシュは
我々と彼らには共通点がいくつか存在する。
例えば役職。
学級委員長が転校した場合、副委員長が代わりに座す。
村長が死去した場合は、副村長が代表として村をまとめる。
あくまでも基本的には、の話だからね。
彼らも同じなのだ。
上の者が引き抜かれると同時に、無慈悲にも世界に晒される。
ロケット鉛筆の原理とは、真逆の運動で次の者が出現する。
そんな調子でひょっこりした出現と同時に、彼は違和感を覚える。
「ん、なんか…見た事ある気が…」
このワンルーム、畳の床、木製の丸テーブルに置かれた灰皿とタバコ。
ヤニがたっぷり染み込んだのが見て取れる、黄色い四方の壁。
洗ってないであろう、ビール缶は部屋中に散在。
何より懐かしい、この扇風機のそよ風。
「ぬおぉおおわぁぁああぁああぁっっっっ!!!!!!」
悪魔か幽霊にでも出くわしたかの様な絶叫は、家主の耳には届かない。
「っざけんなよ!!!こんなトコ、なんでまたいるんだよ!」
そうら、見てごらん。
おめでとうございます、早速彼にも天命が迎えに来た様だ。
「ブゥエエェェックシュゥウ!!!」
毛むくじゃらの腕で、吹き出物だらけの臀部をぽりぽり掻きむしりながら、
彼に近づく黒い影。
ヨレヨレに伸びきった青いチェック柄のパンツに、白いタンクトップで部屋を
うろつく中年。
「またこいつじゃねえか!なんでだよオッサン!!!ふざけんな!!」
聞こえるはずのない、タケシの虚しい絶叫。
「ちっ、うるせぇんだよ!ったく、近頃のセミはうるさくて仕方ねえ。
テレビの音もろくに聞こえねぇや。」
ザサッ、と人差し指と中指の手慣れたフォームでタケシを引き抜く部屋の家主。
自身の顔が上方向に無理矢理引っ張られ、彼を留めていた紙箱から脱出してしまう。
全てを察する。
「でも窓閉めたらあちーしなぁ…」
うちわを仰ぎながら、恨めしそうに外の灼熱世界を睨む中年。
「…なっ、くそこいつ、何を…」
隕石が墜落した草原みたいな禿げ方をした家主は、タケシを4つに折り曲げ、
おでこにくっつける。
「な、やめ…やめてくれ…」
家主の体内から生まれ出た、コッテリの皮脂がタケシによって吸い上げられる。
「うわぁああァァアあぁアアアアアアアアァァァァアアァァァァァ!!!!!」
漢らしいといえばそれまでだが、ゴシゴシとなんとも荒い拭きっぷり。
丈夫な代物でもない為、モロモロとそこら中が崩れてしまった。
「やめてぇええ!!うわ!きったねえっし、クッセェエ!!!」
「ふぃーー、っしょっと。」
「くそっ、なんでこんな臭えんだよ!!鼻水じゃねえのに!はなせぇっ、離しやがれえええ!!!!」
独身中年男性の顔面脂が、またもやタケシの汚れなき真っ白な身体を
侵していく。可哀想に、どんどん彼が黄色くなってしまっているのが
遠目でも分かる。
「いやだー!まだ死にたくねぇええぇぇぇょぉぉ…!!」
最初こそ威勢良く発せられていたタケシの叫びは、家主から溢れ出る
ギットリした脂に絡み取られ、徐々に消えていった。
「や、やめ…ゆるし、て…」
やがてポイッと。
なんとも簡単にゴミ箱に投げ捨てられた。
ナイスシュート、この距離からだとスリーポイントだ。
彼は白目を剥き、泡を吹き、生気を失っているのは明らかだった。
・罪状:憤怒
・死因:溺死
・来世:トイレットペーパー(シングル)
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