~なくなった居場所、消えた存在~

文化祭が終わってだいぶ経った。

もう十月の下旬。

そろそろ風が冷たくなってきた。

それでもクラスの雰囲気というのは文化祭の時と変わらず明るい。

というより熱いくらい。

私は千翔だけでなく他の人たちとも話すようになっていた。

もちろん千翔とも普通に接していて、部活でも今まで通り仲は良い。

何事もなく過ぎていき、三期考査がやってきた。今回も理人の勉強を見てやった。

愛衣がいるから私は別にいらないと思うんだけどなあ。愛衣もそこまで馬鹿じゃないし。

けど、この三期考査は私も本気で勉強をした。一期と二期は二位だったけど、今回はちゃんと目標がある。

それは、千翔を抜かして一位になること。それだけだ。私は、体がみなぎり渡るような心持ちでテストに挑んだのだった。






そして順位表が返される日。私は期待半分、不安半分といったところだ。

相手は千翔だからな。一つのミスも命取りになる。でも、何回も見直しはした。

だから、大丈夫。なはず・・・。






「おーし。順位表を返すわよ!今回の成績で、まだ一年だから大丈夫と思わないで、そろそろ進路の事も考えていくように」






進路・・・かあ。どうしよう。全然考えてない。

と言っても、お母さんはいない、お父さんも仕事で忙しくて深夜に帰ってくるし。

相談するような人もいないな。私って何に興味があるんだろう。

特にこれと言ってやりたいこともないし・・・。






「・・・っ!・・・さん!藤宮さん!藤宮っ!」

「あっ、はい!」






うわあ。デジャヴ。入学式の時も同じことやった気がする。

先生は紙を持っていて、その紙はぺらぺらと風に乗って揺られていた。恐らく、私の順位表。

ちょっ!そんなことしたら前の席の人に見られるじゃん!

私は一目散に駆け寄り、その紙をひったくる。そして自分の席に戻り、順位表を見る。






国語100点。数学100点。理科100点。社会100点。英語98点。






うわ。英語おおおお!オール満点には一歩届かず。肝心の順位は・・・。






117人中1位。






え・・・。嘘。私が、一位!?

私は、千翔の方を見やる。自分より前の席だから表情は分からないけど、その背中からは何も感じ取れなかった。

でも、私が一位って本当に?

千翔を抜かすように頑張ったけど、いざ達成してみるとなんか変。

けど、何度見ても私の順位表に書いてある数字はまぎれもない1で、嬉しくて頬が緩んだ。







「ゆーきーと!」

「一位、おめでとうございます」






部活中、千翔とテストのことについて話そうと声を掛けたら、千翔からその話題を口にした。すると、近くにいた理人と愛衣にも聞かれてしまった。






「はっ!?鈴音、お前一位だったの!?」

「本当に!?」

「あー、うん」

「へえ。千翔君が抜かされることってあるんだ」

「ちょっと、びっくりだな・・・」






二人して酷い。私が千翔を抜かせないとか思ってたのか。

まあ、本気出せばこんなもんよ!






「千翔は悔しくないのかよ?」






理人が千翔に問いかけた。私もそれは気になって、耳を傾ける。






「悔しい、ですか・・・。それはあまりありません。むしろ、嬉しいですね。鈴音さんがどれだけ努力してたのか分かってますから」






千翔は本当にそう思っているのか、とても清々しい表情をしていた。

千翔は、私にお母さんがいないことも、お母さんとの過去のことも知っている。

だからそう言えるんだろう。

千翔はあまり競争心とか闘争心がないのかもしれない。今まで一位を取ってたのだって、取れるから取ってたって感じだったのかも。

部活でだって、千翔も充分上手いのになぜか理人には遠慮しているように見える。

自分しかいなければ自分で決めるけど、そこに理人がいれば理人に決めてもらう。なんか、理人に花を持たせている、そんな感じ。

そういうところは、千翔の良い所でもあり悪い所でもあるよね。

でも、今だけは“悔しい”って言ってほしかったな。






「確かに、私は努力したよ。毎日毎日遅くまで勉強して、千翔を抜かしたいってそれだけの為に・・・。けど、そうやって必死になってたのって、私だけだったんだ・・・」

「す、鈴音?」






駄目だ。場を考えずに言ってしまうところ、直さないといけないのに。

思いが、溢れ出てしまう。隣にいる理人が、変だということを悟ったのか、声を掛けてきた。






「私、前から言ってたじゃん。次は抜かすって、聞いてたでしょ?」

「・・・はい」

「じゃあ、抜かされないように千翔も努力してよ!別に抜かされてもいいって思ってる人を抜かしても、こっちは何も嬉しくない!」






“悔しい”って言ってくれないことが悔しい。






「鈴音!」






あれ、景色が、霞む。これは、涙?

泣いてるのかと思ったけど、どうやら違うみたい。






私は、その瞬間転倒した。

あー・・・また、やっちゃった。次、目が覚めた時、きっと私は保健室にいるんだろうな。

なんて、呑気なこと言ってる場合じゃないか。ははっ、デジャヴ。







「んっ・・・んん。んあ?」






目が唐突に覚めた。瞬間、眩しい光が刺し込んでくる。






「んあ?って、怖いよ」






声が聞こえ、まだはっきりとしない頭を無理やり起こすと、そこにいたのは愛衣。私のカバンも持ってきてくれたのか、そこにある。






「理人は?」

「そこ、千翔君じゃないの?」






そう言われ、私は押し黙る。悩んで結局理人の名前にしたの、ばれてるな。






「私、また倒れちゃったんだ」

「そう・・・って話ずらさないの!」






ちぇー。






「先生が寝不足と栄養失調が原因だって」






やっぱり。そうじゃないかと予想はしてた。まあ、あんな生活してればこうなるのも当たり前か。

ここ毎日朝方まで勉強してたから睡眠は一日二、三時間程度。休みの日は朝食も昼食もおにぎりで済ませてたもんな。






「自覚はあるの?」

「うん」

「はあ・・・。もう、心配したんだから!鈴音ってば無茶するからー」

「ごめん、ごめん」

「前だってそう言って今回また倒れたんだよ!?付きっきりで監視しなきゃ駄目ですか!?」

「いや、それはいいです」

「じゃあちゃんと体調管理してよね!」

「はいはい」






愛衣ってばお母さんみたいだな。






「で、理人は?」

「あー、千翔君に話を聞いてたよ。もうすぐ千翔君と来るんじゃないかな」






まじか。その時、保健室のドアが控えめに開いた。私と愛衣は、同時にその方向を見やる。けど、入って来たのは理人だけだった。ちょっとだけ、安心。






「あれ、理人だけ?千翔君は?」






愛衣がそう聞くと、理人はばつが悪そうに下を向いて頭を掻いた。

表情は、なんか怒ってる?眉、めっちゃ寄ってるし。こわっ。






「いや、それが、あいつ帰っちまった」

「帰った!?」






帰った・・・。千翔が、何も言わずに。

何よ、結局私が言ったこと図星ってこと?私だけが必死だったんだ。

なのに、一人で寝ずに食べずに頑張って、馬鹿みたい。






「なんで!?」

「俺に聞かれても知らねえ。・・・鈴音、大丈夫か?」

「ああ、うん」

「ちょっと、鈴音冷静過ぎじゃない?」

「そうかな」






私は、完全に覚めた体を起こしベッドから出て、震脚をする。






「そうだよ!鈴音が倒れたのに、あいつ何も声掛けないで帰ったんだぜ?しかも、あいつが原因かもしれないのに・・・」






理人のその言葉に、私は手を止め、二人の顔を見て言う。






「ま、それだけの存在だったってことでしょ」

「っ!」

「・・・そんな」






二人が悲しそうに唇を噛んで下を向く。






「別に理人と愛衣が悲しむことじゃないよ。私は大丈夫だからさ」

「でも___」

「あ、私、もう帰るね。ごめん、キャプテンに言っといてくれない?」

「鈴音!」






まだ何か言おうとした愛衣を、理人が手を出して止めた。






「分かった」

「理人!」

「その代わり、大丈夫じゃなくなったら言えよ」

「わたしにもね!」

「うん。ありがとう」






私は、カバンを持って保健室を後にした。

本当、良い友達だなあ。






「ふっ・・・。うっ、くっ・・・あああ」






涙が出るよ。この涙は、理人と愛衣の言葉に感動して?それとも・・・。






「千翔・・・」






その名前を口に出してみたけれど、誰に拾われることもなく泡のように消えていった。






鈴音がいなくなった保健室では、理人と愛衣が話をしていた。その空気はとても沈んでいる。






「鈴音、大丈夫かな」

「どうだろうな。鈴音と千翔、前にも一回仲違いはあったんだよ」

「え!?わたし、知らない!」

「言ってねえもん。まあ、その時は喧嘩ってほどでもないからなんとかなったけど・・・」

「そっか。でも、千翔君が帰っちゃったことには驚いた。今までは、自分に非があったら素直に謝ってたのに」

「そうだよなあ。だから、俺も千翔が帰るって言った時はびっくりした。てことは、今回は鈴音が悪いのか?」






理人がそう言うと、愛衣が凄い剣幕で怒り出した。






「鈴音が悪いわけない!あんな・・・あんなに、悲しそうな鈴音、初めて見た」

「そうだよな」






二人の頭の中に浮かんでいるのは、さっきまで一緒にいた鈴音の表情。






___『ま、それだけの存在だったってことでしょ』






そう言った鈴音は、笑っていた。けど、二人には泣いているようにしか見えなくて。きっと、今頃涙を流しているはず。






「けど、きっと仲直りできる」

「うん!いろいろ乗り越えてきた二人だもん!ちょっとばかしの困難じゃ、二人を引き離すことは出来ないわよ!」






本人たちは気づいていないけど、この二人の支えも、少なからず鈴音と千翔を元気にさせている。

理人と愛衣は、体育館に戻った。







___『じゃあ、抜かされないように千翔も努力してよ!別に抜かされてもいいって思ってる人を抜かしても、こっちは何も嬉しくない!』






鈴音さんはそう言った。けど、僕は全力で取り組んだ。

その上で鈴音さんは僕を抜かした。つまり、実力で鈴音さんは勝ったということ。だから、心の底から嬉しかった。

鈴音さんの過去の事もあったから余計に。

けど、僕はそれを上手く伝えられなかった。今回は、それが原因だ。

しかも、一番悪いタイミングであの場から去ってしまうことになってしまったし。






「鈴音さん・・・」






僕は、その名前を口に出してみたけど、誰にも拾われることはなく泡のように消えていった。嫌われてしまっただろう。

けど、これで僕はもう・・・。

悔しいというより、寂しい。なんだかんだ、楽しかったし。

鈴音さんがいたから、あの部に馴染めることが出来たんだから。






「ただいま」






僕は、自分の家に帰り、母さんがいるであろうキッチンに顔を出した。

今の僕の足は、まるで鉛のようで、なかなか動かない。

母さんは、僕を待っていたのかいつも食事をとっている椅子に座っていた。

順位表が返ってくる日は毎回こう。

部活は顔を出す程度ですぐに帰ってこいと言われ、家に帰ると厳粛な空気を纏って僕を待っている。

今までは順位表の1という数字を見て、ぱっと顔色を変えてくれた。無表情から、喜びへと。けど、今日は違う。そして、約束もした。もし一位を取れなかったら・・・。

母さんは足音を聞いてか、こちらに顔を向けた。






「あら、お帰りなさい。遅かったわね?順位表が返ってくる日はすぐに帰ってこいと言ってるでしょう」






母さんは、坦々とそう言った。表情も、何を考えてるのか分からない。

だから、怖い。






「すいません」

「まあ、いいわ」






すると、手を僕の前に差し出した。

僕は、何を求めてるのか分かってるので、順位表をカバンから取り出し、母さんに渡す。

それを、じろじろと舐め回すように見る母さんを見て、僕は恐怖で心臓が止まりそうになる。

しばらくの間、お互い何も言わなかった。不気味な沈黙に居たたまれなくなる。

何分経っただろうか、いや、実際は何秒だったと思うが、それほどに僕の足は疲れていた。

単に、緊張と恐怖で石のように固まっていたからだろうけど。

突然、母さんが口を開いた。






「二位?なんで、一位じゃないの」






そう問いかけられるが、僕にとっては母さんが口に出す言葉全部が拷問にしか感じられない。

それでも、黙っていると逆に酷くなるだけなので、必死に口を動かす。






「抜かされ、たんです」

「抜かされた?」

「・・・はい」






心臓の鼓動は、かちかちと鳴る時計の秒針を追い抜き、一段と早くなる。

音が、身体中に響いていた。






「あなた、手を抜いたの?」






もう、名前を呼んでくれることもなくなってしまった。






「いいえ。勉強で手を抜いたことはありません。前と同じように全力でやって、抜かされたんです」

「じゃあ、今回あなたを抜かしたそいつが、今まで本気を出していなかったってことね」






僕が言えば、間髪入れずにすぐに言葉を発してくる。これが、精神を削られるんだ。僕は、何も言えなくなる。






「名前、何ていうの」

「え・・・」

「名前よ。あんたを抜かした奴」






母さんは、人を殺しそうなほどの目をしていた。

何を、するつもりだ?






「何もしないわよ」






母さんは、僕の気持ちを読んだかのようにそう言った。

結局、僕は母さんには勝てない。






「鈴音、さんです」

「すずね?」

「藤宮、鈴音さんです」

「ふーん。もしかして、バスケ部のマネージャーだったり?」






なんで、分かるんだ。僕は、そんなこと一言も・・・。






「図星みたいね。もともと、こうなったら辞めさせるつもりだったけど、あんたを抜かした奴がいるなら続けさせる意味はないわ」

「・・・」






ここで何も言えない自分に、腹が立つ。






「明日、自分で言いに行きなさい。顧問に、部活辞めるって」

「分かりました」






どうせ、母さんには勝てやしない。逆らったところで、何も変わらないんだ。

こうなったことに後悔はしていない。

最初は、入るつもりなんてなかったんだし。

鈴音さんが自分から傷つくようなところに行こうとするから放っておけなくて・・・。鈴音さんがいたから・・・。

辞めたら、元の生活に戻るだけ。元の、勉強だけの生活に。






「ふん。そんな素直に聞くなら、最初から部活に入らずに勉強に専念すれば良かったのに」






僕は、その言葉に頭に血が上るのが分かった。もう、我慢できない。






「逆らったところで、母さんは聞いてくれるんですか!?どうせ、切り捨てるだけなんでしょう!そうやって___」











パンッ___











乾いた音が、響いた。

僕はなぜか、懐かしいと思った。次第に、頬がじんじんと痛む。






「聞くわけないでしょう。あなたも、そして当然理人も、私の言うことだけを聞いていればいいの。これは暴力じゃない。教育よ。はあ・・・。あなたには、本当に失望したわ。今度は絶対に一位を奪還しなさい」






もう、何を言っても駄目だ。母さんは、“僕”を見てくれていない。僕は、何も言わずに自分の部屋に向かった。そして、ただひたすらにテストで間違えた問題を何回も、何回も、何回も解いた。






僕は、叩かれた頬をそっと撫でた。






「何年ぶりだっけ・・・」






最後に叩かれたのは、無理やりバスケを辞めさせられた小六の頃。久しぶりの感覚だった。

叩かれた時の衝撃は、今までのものも溜まっていたようで大きかった。結局また、繰り返し。

でも、少しでもバスケが出来ただけ、良かったのかも。






僕は、いつの間にか眠っていた。







千翔と喧嘩した翌日、私たちは部活の顧問から衝撃的なことを聞かされた。






「白崎千翔が、今日で退部することとなった。もちろん、本人の意思で。荷物などは、自分で少しずつ持って帰るらしいから、ばったり会ってもあまり気にするな」






千翔が・・・!?

それは、愛衣も理人も同様の驚き方だった。他のみんなもそれぞれに驚きはしたものの、キャプテンの指示でいつも通り練習が始まった。

いろいろ聞きたいことはあったけど、私事で部活を止めるわけにはいかず、私もいつも通り仕事に取り掛かった。

けど、本当のところ気になってしまって仕事は一向に進まない。






「鈴音ちゃーん?気になんのは分かるけど、鈴音ちゃんらはバスケ部のマネージャーであって千翔君のマネージャーじゃないんやから、ちゃんと集中してな?」






そんなに動いてなかったのか、美奈先輩に注意されてしまう。






「あ・・・すいません」

「まあ、千翔君と一番仲良いのは鈴音だもんね。わたしも、もし理人が何も言わず辞めたら辛いし」






愛衣が精一杯のフォローをしてくれる。






「ありがとう、愛衣」

「え!?千翔君、何も言わんかったん!?」

「はい・・・」

「鈴音ちゃんにも?」

「聞いてません。というか、朝から一言も話してません」

「そっかあ・・・それは、辛いな」






本当に、千翔にとっては私ってそれだけの存在だったのかな。

私は、その後の部活も千翔の事が気になって全然集中できなかった。

その度に美奈先輩や漣先輩に注意されて、理人にも心配された。






そして、部活が終了し帰り道___。






「おい、鈴音」

「んー」






千翔がいない為、理人と愛衣と一緒に帰っていると、理人に話しかけられた。

けど、今は人の話を聞く余裕がない。私の口から出たのは、ため息のようなものだった。






「お前、大丈夫かよ。集中できてなかったけど」

「んー」

「・・・聞いてるか?」

「んー」

「駄目だ、こりゃ」

「まあ、それほど鈴音は千翔君が心配なんでしょ?」






愛衣の言葉に、少しだけ反応した。

心配・・・か。それもあるけど、






「怒りもあるかな」

「鈴音、怒ってるの?」

「だって、何も言わずに辞めて・・・。しかも、昨日あんなことあったのに。ただ逃げてるだけじゃん」






思い出すとまたイライラしてきた。何なんだ。






「理人は、何か聞いてないの?千翔君の事」

「あ?いや、何も。昨日は、ずっと自分の部屋に閉じこもってたからな」

「そっか・・・理人も分からないんじゃ、仕方ないね」

「本人に聞くしかないだろ。部活は辞めちまったけど、学校には来るだろうし。鈴音、お前同じクラスなんだから気になるなら聞いてみろよ」

「んー」






自分の家に着き、理人と愛衣と別れた。

私は、いつものように勉強に取り掛かるが、やっぱり部活の時と同じように全然集中できない。

集中しようとすればするほど、頭の中に千翔が浮かんで思考を支配してくる。






「あー!もう!」






胸がもやもやする。気持ち悪い。

私は、机の上に開かれていた教科書を閉じて、ベッドに勢いよく寝っ転がった。

何で、勝手にいなくなるのよ。なんて、言えないよね。

私は千翔の親でもないし、兄妹でもない。千翔の行動を私が決めることは出来ない。

でも、今までずっと一緒にいて、私は千翔に心を開いていたから、千翔も私に心を開いてくれていると思っていた。

だから、どんな時も話してくれる。そう思っていたのに・・・。

気づくと、私の目からは涙が流れていた。嗚咽は、出なかった。静かに、つーっと流れるだけだった。






「私たちの仲って、こんなにも脆かったんだね」






明日、聞いてみようかな。

そのまま、意識は落ちていった。

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