~本気の告白~
ついに四日目。合宿の最終日。告白すると決めてから今日まで、あっという間に過ぎていったような気がする。
きつかった練習も終わり、あとは荷物を積んで帰るだけとなった時に、俺は行動に移した。
「鈴音ちゃん、ちょっといい?」
俺が声をかけると、不思議そうにしながらも承諾してくれた。人気のないところまで連れて行き、向かい合う。
「あの、私、何かしましたっけ?」
良いのか悪いのか、鈴音ちゃんは呼び出したことで説教だと思っているみたいだ。
そんな鈴音ちゃんに、驚くであろう一声を掛ける。
「俺さ、今恋してる」
「・・・はあ、また次の遊び相手を見つけたんですか。いい加減、本気で誰かを好きになったらどうですか?」
意外にも、落ち着いていた。いや、落ち着いてるというか呆れてる?
「言っておくけど、本気の恋だからな」
「ほっ!?本気って、何があったんですか!?」
鈴音ちゃんは、今まで見たことがないくらいに取り乱した。
「何もねえよ。で、ここからが本題なんだけど」
俺は、一呼吸を置いた。場の空気が変わる。それが分かったのか、鈴音ちゃんの顔も強張る。
「好きだ。他の誰でもない、お前が」
「え・・・」
突然の告白に、彼女は戸惑った様子を見せたが、俺は続けて言葉を紡ぐ。
「本当は、お前を落とすつもりだった。こんな生意気な口を利く女、俺が落として、遊んでそれで捨ててやるって思ってた。でも、お前の言葉にどんどん救われていって、惹かれていく自分がいたんだ。逆に落とされたんだよ。
お前が、本気で好きなんだ!お前の事が・・・鈴音の事が!」
「・・・っ!」
思ったことを何も考えずにべらべらそのまま言って、その後急に恥ずかしさが募る。
しかも、“鈴音”って思わず呼び捨てで呼んでしまったし。
「ご、ごめんな。急に話して・・・」
「大丈夫です。でも、ごめんなさい。先輩の気持ちには答えられません」
「そっか・・・。まあ、好きな人がいるってのは知ってたから、ちょっとは予想してたけど。一つだけ、聞いていいか?」
「・・・はい」
「告られて、嫌だったか?」
そう言うと、鈴音ちゃんは怒りながら泣き出した。
「そんなわけないじゃないですか!嬉しいですよ!先輩は良い人です。何だかんだ私の事気にかけてくれて、努力家で・・・。先輩が本気で好きになった相手が私で、一生懸命告白してくれて、嬉しくないわけがない!でも、ごめんなさい!だから、凄く心苦しいです。罪悪感でいっぱいです」
そう赤裸々に語る鈴音ちゃんは、まるで赤ん坊のようだった。顔をぐしゃぐしゃにして、助けがないと何も出来ないような・・・。いつもは凛として強気な鈴音ちゃんが、今は少し触れただけでも壊れそうだ。
俺は、見ていられなくなって鈴音ちゃんの肩を抱き寄せる。今の間だけなら、良いよな?
「それだけ聞ければもう充分だよ。その好きって気持ちは、お前が教えてくれたんだ。ありがとな」
「はい・・・」
「よし、学校に帰るぞ。向こうに戻ったら、すぐにインターハイだ」
俺は、鈴音ちゃんの肩をぽんっと叩き、バスが止まっている所に戻る。鈴音ちゃんも涙を手の甲で拭き、後に着いてきた。
初恋は実らなかったけど、これで良かったんだと思う。不思議なほどに悲しくない。むしろ、清々しい。
そういえば、まだ父さんが生きていた時、言っていた。
___『父さんはな、自分が惨めだとは思ってないぞ。漣、お前が俺の子供として生まれてきてくれたのも、俺がお前の母さんと出会ったからだ。父さんはな、どんな出会いでも、何か得るものがあると思うんだ』
あの時の俺は、何のことを言っているのか分からなかった。けど、今なら分かる。
父さんが、人生は幸せだったと書いた理由が。
きっと父さんは、“どうせ今度も捨てられる”とは思わなかったはず。ちゃんと、一人ひとり愛していたんだと思う。
それは、全然惨めじゃない。逆に、称賛に値する。
せめて、父さんが生きている時にそれに気づいていたかった。
本当は直接言いたかったけど、父さん、俺をここまで育ててくれてありがとな。
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