~太陽と暗闇 3~
部活が終わり、いつもより早く着替え、校門の前で理人を待つ。ちなみに、女の子を一人で帰らせるのは危険だから、愛衣は千翔に送らせた。
数分ほど待っていると、やっと来た。理人は、私に気づく。
「鈴音。お前、一人か?」
「うん」
「いつも千翔と帰ってんじゃねえの?」
「今日は先に帰らせた。愛衣と」
「愛衣?」
「そう」
「へえ。来ないと思ったら・・・」
「私がそうさせたの」
「ふーん。で、鈴音は?誰か待ってんの?」
「理人を待ってたの」
「え、俺?」
意外だと思ったのか、目を丸くさせる理人。
「そう。ちょっと話があって。喋りながら帰ろっか!」
私は理人の腕を引っ張って、無理やり帰路についた。
「回りくどいのは好きじゃないから単刀直入に言うけど、愛衣のこと嫌いなの?」
その話題を出すと、理人は明らかに不機嫌になった。そんな顔しなくても・・・。
「本当のこと、言っていいのかよ」
「どうぞ?その方が手っ取り早い」
私がそう言うと、少しの間があって理人は言い放った。
「嫌いだね」
予想はしてたけど、そんなにはっきり・・・。
「でも、最初から嫌いだったわけじゃないでしょ?」
「まあ・・・。付き合ってすぐの頃は普通に好きだったよ。俺から告白したんだし」
「えっ!?そうなの!?」
それは意外だ。私はてっきり愛衣からかと・・・。
「じゃあ、なんで?」
「あいつ、重いんだよ。最初は我慢してたけど、もう疲れた」
「重いって?どこが重いの?」
「どこがって言われてもな・・・。一番は“わたしのこと好き?”って聞きすぎ。正直うざい。あと、プレゼントとかそういうの必要ない。あとは・・・一緒にいようとしすぎ」
「でも、理人から告白したんでしょ?そういうのも分かってて___」
「いや、俺があいつのこと好きになったのは、ほとんど顔だ。あんな重い奴だとは思わなかったよ」
そう言って、愛衣のことを見下すように笑う理人。
その言葉も、あまりに酷いものだった。今まで感じたことのないような怒りが、私の中に湧き上がっていく。
「なにそれ・・・。それはあんたの我儘じゃない!」
「我儘?」
私は、何を口走ってるんだろう。原因を聞くだけのはずなのに。
「そうよ!どう考えてもあんたがおかしい!」
「はあ?なんでだよ」
「愛衣に聞いたところ、デートもまともにしていない、プレゼントやバレンタインのチョコもお返しをしていないそうじゃない」
「そうだけど、それが?」
「愛衣に感謝するべきって言ってんの!」
「・・・!」
「よく聞くじゃない。彼氏が部活にばっかり夢中で相手にしてくれなくて、寂しくなってつまんなくなって、別れるって。普通そうでしょ。
でも、愛衣はそれでも理人が好きなんだって。バスケをしている理人が一番好きなんだって。
全然重くない。“わたしのこと好き?”って聞くのも、ただの自己満足で言ってるんじゃない。不安だから、自然に口に出しちゃってるの。
プレゼントを渡すのも、少しでも思い出を残したいからなんだよ。だってそうでしょう!?
普段の生活では、彼氏はずっとバスケをしているんだから。そういう特別な日でしか、自分の存在をアピールできないの。
それなのに、あんたは“重い”で切り捨ててる。
言っとくけど、みんながみんなあんたの好みの性格に合わせてくれるわけないんだから」
私は一気に言った。理人を見ると、今までの毅然とした態度ではなくなっていた。
そんな理人にとどめを刺す。
「勘違いしないで。理人が我慢してるんじゃない。愛衣が我慢して付き合って“くれてる”の。くれぐれも、付き合って“やってる”と思わないで」
「・・・っ!」
そう言うと、理人は何かに悟られたように、はっとなった。
ああ・・・やってしまったんだな。私は、下を向く。
「鈴音」
名を呼ばれ、無意識に顔を上げる。
「ありがとな」
そこには、まるで太陽な笑顔が私を照らしていた。けど、今の私にとってその笑顔は、眩しすぎる。
「俺、愛衣の所に行ってくる」
「うん」
理人の背中が、どんどん小さくなっていく。そんな彼と、私の心の中はきっと面白いくらいに正反対。太陽と暗闇。
あーあ・・・なんで、こんなことになってるんだろう。本当に原因だけ聞くつもりだったのに。でも、口が止まらなくなっていた。
「千翔に、怒られちゃうかなあ・・・。“何やってるんですか!あなたは馬鹿なんですか!?”ってね」
私は、千翔の声真似をしてみる。けど、それは似ても似つかないもので。
思わず、自虐的に笑ってしまう。
「ははっ、言いそう。そうだよ、馬鹿だよ」
馬鹿通り越して、愚かだよね。
私は、泣きながら走って、家に帰った。今頃、理人と愛衣は仲直りしてるんだろうなあ・・・。
そうなるようにしたのも、全部私。今頃後悔しても、もう後の祭りだ。
でも、これで良かったのかもしれない。愛衣は悪くないのに、別れるなんて悲しい結末にさせたくないし。
大丈夫。最初の状態に戻っただけ。私が、我慢すればいいの。
自分の部屋のベッドの上で毛布にくるまり、そんなことを思っていると、お母さんの声が聞こえてきた。けど、全て無視し、私は気づくと深い眠りについていた。
そしてそのまま、学校に行く気は起きず、地区大会当日まで休んでしまった。
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