~太陽と暗闇 2~
放課後。部活の時間がやってきた。
楽しいんだけど、谷先輩に会わなきゃいけないのがなあ・・・。
絶対なんか絡んでくるよ。
それにしても、なんで女遊びしてるんだろ。しかも恋なんかしたことないなんて・・・。
ほんと、可哀そう。“好き”っていう気持ち、それだけで毎日がキラキラして見えるのに。
まあ、私の場合は先越されてたけどね。
なんか、谷先輩には一回でもいいから誰かを本気で好きになってほしいな。
「こんにちはー」
「こんにちは」
私と千翔が挨拶をすると、もう来ていた人たちが「うーっす」っと、気の抜けた挨拶を返してくれる。
「お、鈴音ちゃん、待ってたよ!」
うわあ、さっそく来たよ。
「谷先輩・・・はあ・・・」
「いきなりため息!?」
「ちょっ、近づかないでください」
「あれ、無防備って言ったから気にしてる?」
「そーですよ!」
グイグイくる谷先輩に困っていると、
「谷先輩、さすがにもう集合かけたほうが良いんじゃないですか?時間も時間ですし」
「あ?おう、そうだな」
千翔が助けてくれた。先輩が集合をかける。
「分かってると思うが、二週間後には地区大会が始まる。試合に出るのは三年と二年が主だが、一年も練習は気を抜かず、これから先、試合に出れるように頑張ってくれ」
谷先輩がそう言った後、監督の先生からスタメンの発表が始まった。
「まず、谷」
「はい」
まあ、そりゃそうだよね。仮にもキャプテンだし。
「二人目、大川。三人目、山下」
その次に呼ばれたのも三年の先輩。あと、二人。
私は、心の中で手を合わせる。理人と千翔が選ばれてますように。
「四人目、白崎理人。最後は、白崎千翔」
「・・・!」
「え、本当にですか?」
「ああ、お願いできるか?」
「はい」
「ありがとうございます」
嘘・・・。いや、私だって選ばれるように祈ってたけど、まさか本当に・・・。
千翔、顔にはあまり出ていないけど、嬉しそう。少し頬が緩んでるもん。
でも、理人は意外にも普通の反応だ。嬉しくないというわけではなさそうだけど、なんていうか選ばれたことが当たり前、みたいな。
考えすぎだと思うけど。
隣にいる愛衣をチラッと見ると、満面の笑顔だった。選ばれた本人よりも嬉しそう。
喧嘩してるけど、でも変わらず愛衣は理人のことが好きなんだなあ・・・。
その後、ベンチ入りの七人も指名され、練習に入った。
私たちマネージャーも、仕事に取り掛かる。
「愛衣、今日さ理人と帰る?」
隣で一緒にドリンクを作っている愛衣に理人の話題を出す。
「うん。でも、別れようって言われた翌日から全然話さなくなっちゃった・・・。ずっと無言なの」
「無言!?それ辛くない!?」
「そう、辛い。でも、嫌いになれないの。理人はわたしのこと嫌いになっちゃったのかもしれないけど、わたしは・・・」
そう言って、言葉を詰まらせる愛衣。
「付き合って、二年目なんでしょ?」
「あ、そうだっけ」
愛衣は、今気づいたようなことを発する。
「そうだっけって、把握してないの!?」
「うん・・・。わたしたちは、記念日とかそういうの気にしてないから」
「じゃあ、クリスマスとかどうしてんの?」
「それはもちろん一緒にいるし、プレゼントも渡したよ。バレンタインだって、チョコ渡したもん」
「お返しは?」
「ないよ」
てっきりネックレス貰ったよとかブレスレット貰ったよとか言うのかと思ったら、予想外の言葉が返ってきて驚いた。
私は性格上、記念日とかは気にしないからプレゼントとかはあげないで普段の生活を大切にする派なんだけど・・・。あ、貰ったらちゃんとお返しはするよ!?
でも、普通はクリスマスではプレゼントをお互い用意してるもんじゃないの?
「じゃあ、デートとかは・・・」
「それもないなあ。あ、でも付き合って最初の頃は一、二回くらいしたよ」
まじか・・・。これはちょっと酷い。
「なにそれ。理人は何してるの?」
「バスケ。だから、理人はスポーツに夢中でわたしのことはそんなに見てないよ」
「それが分かってて、付き合ってるの?」
「うん。やっぱり嫌いになれないし、それに、わたしはバスケをやってる理人が一番好きだから!」
愛衣の横顔は、とてもキラキラしていた。
こんなに好きっていう気持ちが伝わってくるのに、理人は分からないの?
私の心の中に、やり場のない小さな怒りが湧き上がってくる。仮にも好きな人だけど。
「そっか。あのさ、今日は私が理人と一緒に帰っていいかな?」
「え・・・」
「心配しないで!聞くだけだから」
「うん・・・。わかった。なんか、ごめんね。迷惑かかってるよね」
愛衣は申し訳ない気持ちになっているのか、涙目になっている。迷惑だとは思ってない。ただ、あの時協力すると言ってしまった自分に後悔しているだけ。
「いや、全然大丈夫」
「本当、鈴音ありがとう!」
なんかなあ・・・。いろいろなことに巻き込まれてる気がする。
ドリンクを作り終え、体育館の中に入ると、いつも以上に熱気がこもっていた。
特に凄いのは、スタメンに選ばれた五人。見ているだけで、迫力が伝わってくる。
みんな、かっこいいなあ。愛衣が言っていた、バスケをしている理人が一番好きっていうのは私も分かる。
いつもはドリンクを持って入ってきたらすぐ休憩の合図をかける谷先輩も、今日は全く私たちに気づかず、練習を続けている。
そんな谷先輩を見てか、美奈先輩が声をかけた。
「漣!ドリンクとタオル、準備できてるよ!」
「お、わりい。十分休憩!」
しばらくして、私は胴のあたりを後ろから抱くように引き寄せられた。誰が、なんて分かってる。
「そういうの、やめてくださーい。セクハラですよ」
「良いじゃん」
「全然良くないです」
「ちぇー」
谷先輩は、しぶしぶ私から離れた。
ちぇーじゃないよ。
「それにしても、お前体型いいな」
「え、ありがとうございます」
普通に褒められた感じなので、素直にお礼を言う。
「俺の好きな体だ」
「あんたの好みなんか聞いてないでしょうが!」
なんなの、この人は!あまりに衝撃的すぎて、先輩なのにため口で話しちゃったじゃんか!
まあ、いいか。谷先輩だし。
ついでに持っていたドリンクを顔めがけて投げたが、あっさりキャッチされた。
「お、サンキュ」
「~~っ!」
飄々とした顔で去っていく谷先輩。
むかつく。
ドキドキさせるのが目的でさっきみたいに抱き寄せて、かと思ったら優しい笑顔で笑いかけて。
何をしたら女の子が惚れるのかというのを分かってる。私は惚れないけど。
谷先輩の用事は終わったので、他の人たちにもドリンクとタオルを渡しに行き、最後に千翔の所へ。
理人は愛衣から受け取ったようだ。会話はしてなかったみたいだけど。強いて言うなら、「はい」「ん」っていうのだけ。
「ごめんね、千翔。毎回毎回最後になっちゃって」
「僕は全然大丈夫ですよ」
なんか、千翔と落ち着いて話すの久しぶりな感じ。お昼にも話したけど、谷先輩との会話が衝撃だからかすれるんだよな。こんなこと、本人には言えないけど。
隣に座ると、風に乗ってふわっとレモンの匂いが鼻をかすめる。
「今舐めてる?」
「はい。よく分かりますね」
「ふふっ。でも、レモンの匂いがすると千翔が近くにいるなって思うから、便利だね。探してる時とかは」
「ははっ。すぐ見つかりますね」
「っ!」
千翔が笑った。いや、人間だから笑うのは当たり前なんだけど。
初めて見たんじゃないかな。凄く不思議な感じがする。でも、なんだろう。嬉しい。
「あの」
「んー?」
「え・・・っと」
珍しく千翔が言葉を濁している。何を迷っているんだろうか。
「どうかした?」
「鈴音さんは、谷先輩とどういう・・・。さっき、その、抱きしめられてましたけど」
ああー・・・。なんか誤解されてる?
「勘違いしないでよ。谷先輩が勝手に付きまとってるだけなの。私は迷惑してるんだから」
「本当に大丈夫ですか?」
千翔は不安げな顔をする。
「うん。余計なことは心配しないで、練習に集中して?スタメンに選ばれたんだし」
「・・・はい。でも、駄目だと思ったらちゃんと言ってくださいね」
「ふふっ。ありがとう」
千翔の気持ちは嬉しい。でも、ごめんね。私は、きっと助けは求めない。
千翔が私に無理しないでと思ってるように、私も千翔には余計なことは考えてほしくない。ましてや、今は大事な時。高校に入って初めての大会で、スタメンなんだから。
「あ、ねえ、今日も一緒に帰れないんだけど・・・」
「僕は全然いいですけど、誰と帰るんですか?」
「えー・・・それは・・・そのぉー・・・」
理人と帰る、なんて言えない。絶対なんで?って聞かれるよね。
「まあ、いいですよ」
なかなか言わない私に千翔は追跡しないでくれた。
「ごめんね、本当に」
「いいえ」
その後、休憩終了の合図が出て、練習を再開した。
私がスコアを書いていると、美奈先輩が傍にやって来た。
「いやあ、今年はいいところまでいけそうやね。やっぱり、理人君と千翔君が入ってきてくれたことが大きいな」
「今年は?」
「ああ、うちら、去年までは地区大会で敗退してたんや」
「そうなんですか」
私は、試合をしている理人と千翔を見る。二人の力が、このチームを変えるのかな。
自然と、スコア帳を持つ手に力がこもった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます