~瓢箪から駒が出る 2~
放課後になり、部活が始まろうとしている。
「はあ・・・。なんか、今日は疲れた。告白とか、人生で初めてだったし。ちょっときつく言い過ぎたかなあ」
「何を言ったんですか」
呆れたようにそう言う千翔からは、昼休みの時と同じレモンの匂いがする。
どんだけ持ってきてるんだ・・・。まあ、好きだからいいけど。
「んー?私と付き合いたいならまず精神面を鍛えな、的なことを言っただけだけど」
「ははっ、鈴音さんは自分の意見をバシッと言う方ですもんね」
「そうかなあ・・・」
ローファーを取ろうと靴箱の扉を開けると、バサバサッと何かが出てきた。
よく見ると、手紙だった。それも、二、三通じゃない。
そのうちの一つを、千翔が摘まみ上げる。
「何でしょう」
「貸して」
私は、千翔から手紙を受け取り、中身を取り出して読む。
しかし、最初の文で読む気が失せた。
「はあ・・・」
「何だったんですか?」
「告白」
きっと、他のもそうなんだろう。
「嫌なんですか?」
「嫌って言うか・・・」
私も一応女子だし、好意を持たれること自体は普通に嬉しい。
けど、
「なんで手紙なわけ」
「え」
今時、草食系男子と言うのが流行ってるらしいけど、私の意見としては、直接告白を言ってこない人とはこの先ずっと一緒にいれるとは思わない。
というより、私が気に入らない。
それだったら、昼休みに告白してきてくれた川下君の方が断然印象はいい。
あくまで、私の意見だけど。
「部活始まるし、行こう」
「あ、はい・・・」
私は千翔の腕を引っ張って、速足で体育館に向かった。
「遅れてすいません!」
私が息を切らしながらそう言うと、谷先輩が気付き、集合をかけた。
「今日から一年は本格的な部活に入る。少しでも早くレギュラーになれるように、しっかりと頑張ってほしい」
それだけ伝えられ、私と愛衣は美奈先輩の元に向かう。
「美奈先輩!これからよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
「おおー、よろしくな!」
軽めに挨拶を済ませ、私たちはそれぞれの仕事につく。だが、今日はいつもとは違うことが起こった。
「わたしも手伝う」
「へ・・・」
「なに、その間抜けな返事」
いや、普通にビビるんだけど!だって、今まで仕事と言えることは一つもやってこなかったんだよ!?なのに、急にドリンクを作りに来るって・・・。そりゃ、間抜けな返事にもなるでしょ。
「あ、じゃあ、一人ひとり粉の杯数変えてるから、これ見てやってくれる?」
私は、ジャージのポケットに入れていたメモ帳を見せる。
「わかった!」
そう言うと、愛衣はあの時とは打って変わってテキパキと作り始めた。
なんだ。普通にできるじゃん。愛衣も心を入れ替えてくれたってことか。そうなら嬉しい。
これなら、美奈先輩が引退しても、二人でやっていけそう。
それにしても、どういう風の吹き回しだ。
今までそんな素振りも見せなかったのに。
「理人に、怒られちゃった」
急に理人の名前が出てきて、私の胸はもやもやし始める。
「鈴音は、わたしと理人が付き合ってるの、知ってるんだよね?」
「・・・まあ」
「ちゃんと仕事しろって怒られちゃったの」
理人も気づいてたんだ。
でも、本当に愛衣は理人のこと好きなんだなあ。美奈先輩や谷先輩が注意しても聞かなかったのに、理人に言われたら直すんだ。
「じゃあ、最近二人の様子が変だったのも、それのせい?」
「あー・・・気づいてたんだ」
「うん」
「それとは別。怒られたのは昨日のことだから」
じゃあ、違うな。二人の様子が変になったのはそれよりも前からだし。
「実はね、少し前に“別れたい”って言われて・・・」
「別れたい!?」
「ちょ、声が大きいよ」
「あ、ごめん・・・」
驚いた。まさか私の知らないところでそんなことになってるなんて・・・。
でも、私にとっては好都合、なのかな。
「愛衣はなんて言ったの?」
「もちろん、別れたくないって・・・」
まあ、そりゃそうよね。
「何か心当たりは?」
「それがわかんないから嫌なのよ。その日から理人はそっけなくなって・・・」
なるほどね。どういう状況になっているのかはわかった。
それにしても、原因はなんだろ。
「そっか。まあ、今は部活中だし、仕事を優先しよう」
「うん・・・」
愛衣はまだ不安が残る顔で、できたドリンクをかごに入れていき、私はそれを持ち上げ、体育館に戻った。
それを見てか、谷先輩が休憩の合図をかける。
「びっくりしたわ、愛衣ちゃん、いつものようにサボって応援しとるんかと思ったら」
美奈先輩が私に小さな声で言う。
「あはは・・・やっぱり、驚きますよね」
まあ、私に理人とのことを話すためだったのかもしれないし、これが続かないと意味ないけどね。
「私、配りに行きますね」
美奈先輩にそう言い、いつものように谷先輩から渡しに行く。
「谷先輩!どうぞ!」
「お、ありがとな」
私の手から先輩の手にドリンクが渡ると、すぐに飲み始める。
よく見ると、いつもよりみんな汗がすごい。
「今日は何をしたんですか?」
「ん?ああ、ずっと試合だな」
だからか。汗が額から滴り落ちている。
「どうですか?理人と千翔は」
「あー・・・。あいつらは、すぐにでもレギュラーになれると思う。追いつかれそうで心配だな」
「そうですか」
すると、谷先輩が立ち上がり、その場にあったボールを手にする。
休憩は終わっていないのに、自分だけ練習を再開するつもりか。ほんと、見た目と性格が全然違うな。
まあ、ただ怖い人ならキャプテンには選ばれてないだろうし。
「くれぐれも、倒れるまで無理しないでくださいよ」
「え・・・。ははっ、ありがと」
谷先輩は、あの時と同じように優しく笑い、ポンっと私の頭の上に一瞬手を置いた。
「・・・!」
なぜそんなことをしたのか、不思議に思う。
理人にも、頭撫でられたな。
その時、聞こうとしなくても聞こえるほどの声が、体育館中に響いた。
それと同時に飛び込んでくる、耳をつんざくような音色。
みんな、その方向を見る。
「どうして!?なんで受け取ってくれないの!?今日はちゃんとわたしも仕事したんだよ!?」
私も見ると、鋭い声で叫んでいたのは愛衣だった。
「だから何だってんだよ。仕事をするのは当たり前だろ、マネージャーなんだから。今までサボってたのがおかしいんだよ」
どうやら喧嘩の相手は理人のようだ。
途中からしか見てないから憶測でしかないけど、たぶん、いつものように愛衣はドリンクとタオルを渡しに行ったけど、理人が受け取ってくれなかったから怒っているんだろう。
どうやら、私が思っていたよりも事態は深刻のようだ。これで本当に別れたら・・・。
いけない。こんなこと、思っちゃだめだ。
「どうした!」
その時、ただ事ではないと思ったのか、谷先輩が割って入ってきた。
さすがキャプテン。
「あ、すんません、漣先輩。気にしなくて大丈夫っすよ。俺らのことなんで」
「あっ!愛衣ちゃん!」
美奈先輩が声を上げ、何事かと思うと、愛衣が体育館から逃げ出していた。
あらら・・・。
「逃げちゃったじゃないか。お前らのことなんだろ?ちゃんと解決して、部に持ち出さないようにしてくれよ」
「はい・・・」
なんとなく、気まずい空気が体育館の中に充満する。
「まだ休憩してくれて構わないからな」
谷先輩のその声かけで、みんなバラバラになる。
私は、愛衣の代わりに理人にドリンクとタオルを渡しに行く。
「あのー・・・理人?」
さっきの喧嘩を見た後だったから少し怖くなって、おそるおそる近づいた。
「ん?ああ、サンキュ」
理人は優しい笑顔を見せてくれた。けど、その笑顔はどこかぎこちなくて、私は不安になる。
「あの・・・さ、何かあるんだったらいつでも聞くから」
「ああ、ありがとな」
そう言った理人は、去り際に私の頭を撫でた。
瞬間、谷先輩の時にはなかったドキドキが襲ってくる。触れられたところが、熱を帯びている。
やっぱり、理人が好きなんだなあ・・・。
しかし、まだ仕事がある。私は、ドリンクとタオルを持って、千翔のところに向かう。
「千翔、遅くなってごめんね」
「いいですよ」
こういうところが優しいよね。絶対のど渇いてるのに。
「谷先輩が言ってたよ。理人と千翔はすぐにでもレギュラーになれるだろうって」
「そうですか」
「二人がそろったら最強だよね!ていうか聞いて!さっきね、理人に頭撫でられたの!」
「知ってます。見てたんで」
「え・・・見てたの?ずっと?」
「ずっとではありません。鈴音さんが理人に渡しに行ったところからしか・・・」
じゃあ、谷先輩に頭撫でられたのは見てないのか。
なんだ、良かったあ・・・。
「そっか。ところで、理人と愛衣のこと、千翔は知ってたの?」
「いえ。二人があんなに喧嘩してるところも、初めて見ました」
「愛衣、大丈夫かなあ」
無意識に、そんなことを言っていた。
「何か、助言しようと思ってます?」
「え?」
「鈴音さんにとってはいいことじゃないですか。このままいけば、二人は別れるかもしれないんですよ」
「それは・・・わかってるよ」
「ならいいんですけど」
その時、谷先輩から休憩終了の合図がかかった。
私も、美奈先輩のところに戻る。
「あ、鈴音ちゃん・・・。たぶん、この後もみんな試合するやろうから、スコアと得点板お願いしてもええ?うちは愛衣ちゃん探しに行ってくるわ」
「あ、私が行きます!」
なんでそんなことを言ったのか、私自身にもわからない。けど、なぜか私が行きたい、行かなきゃと思った。
美奈先輩は一瞬驚いた顔をした。
「えっと、どこにいるか大体見当はついてるので・・・」
「ほな、鈴音ちゃんにお願いする」
「はい!スコアと得点板お願いします!」
私は走って体育館から出ようとした。けど、後ろから声をかけられた。
「どこに行くんですか?」
その声は、千翔だった。
「探しに行くだけだよ。ていうか、助言も何も、私まだよくわかってないし」
理人が愛衣に別れたいと言って、今二人の雰囲気は最悪。
それしか聞いてないし。
何が原因で別れたいと言ったのか、そこらへんは全く知らない。だから、助言なんてできるわけがないのだ。
「あんたも、練習に戻りな」
私は会話を無理やり中断させ、今度こそ探しに出た。
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